第117話 あなたに話せてよかった
私はゆっくりと深く頷いた。
「うん。それでも、やっぱりお兄ちゃんのことが好き。
お父さんがどんな人だったかなんて、関係ない。
もちろん起こった出来事は、とても悲しいことだけど……。
それでも、お兄ちゃんを嫌う理由にはならないよ」
まっすぐに見つめ返すと、蘭が静かに口元をゆるめる。
「唯は強いなあ」
そんなふうに言われるなんて、思ってもみなかった。
「強くなんかないよ。ただ……やっぱり怖いよね」
「何が?」
「いや、もし逆の立場だったらって考えたの。
私だったら、やっぱり怖くて言えないなって」
その言葉に、蘭が優しく笑った。
「わかってるじゃん。それがわかってるなら、きっと大丈夫。
家族とのわだかまりもすぐになくなるよ。
咲夜さんの気持ちもはっきりしたことだし。あとは、唯が気持ちを伝えればいいだけ」
蘭はさらりと言ってくれるけど――
私は、そっと視線を落とした。
「そうなんだけど……やっぱり流斗さんのことを考えると、申し訳なくて」
「でも、ちゃんと話し合ったんでしょ? 理解してくれたんだよね?」
「うん……」
「だったら、いいじゃん。
自分の気持ちに嘘をつき続けるより、ずっといいよ。
流斗さんも、唯が幸せになるのが一番だって思ってるよ」
「……そう、だよね」
「それに、クリスマスまでは彼に尽くすんでしょ?
その間にいっぱい恩返しすればいいの! それだけで十分なんだから」
蘭の軽やかな声とは対照的に、私の気持ちはまだ少し沈んでいた。
頭ではわかっている。
でも、心が追いつくのには、もう少しかかりそうだった。
「まあでも、クリスマスまでずっと咲夜さんと気まずいままってのはきついよね。
せめていつもの感じに戻れるといいね。
そんで、クリスマスに咲夜さんに告白! それで決まり!」
蘭がウインクをしてみせる。
……ほんとに、敵わないなあ。
いつもより明るく振る舞ってくれているの、ちゃんと伝わってる。
私を励まそうとしてくれてるんだよね。
気を遣わせちゃってるなって思うと、胸が少し痛むけど――それ以上に、彼女の想いがありがたかった。
「ありがとう、蘭。少し気持ちが軽くなった。
私、ちゃんと向き合ってみる。流斗さんにも、お兄ちゃんにも」
笑いかけると、蘭もぱっと笑顔になって、大きく頷いた。
「うんうん、やっぱり唯はそうやって笑ってなくちゃ。
――でさ、ついでに漫画の話してもいい?」
急に目を輝かせる蘭。
ははぁーん、さてはこれが本命だったな?
私は呆れながらも、つい笑ってしまった。
「いいよ、今日はとことん聞いてあげる」
「やったー! あのね……」
そのあと私は――三時間も、蘭の少女漫画トークに付き合わされる羽目になった。
……いや、ほんとどんだけ語るの。




