第116話 親友のあたたかさ
「へぇー、そんなことがあったんだ」
蘭はポテトチップスをつまみながら頷いている。
むしゃむしゃと食べつつも、真剣な顔で耳を傾けていた。
ここは蘭の部屋。
テーブルを挟んで、私たちは向かい合って座っている。
目の前には、蘭が用意してくれたジュースとポテチが並んでいた。
さっき「会いたい」とメッセージを送ったら、すぐに「OK! 家においで!」と返ってきた。
この軽さが、今は本当にありがたい。
大きく息を吸って、ぽつりぽつりと話しはじめる。
兄の実の父親と、私の実の母親の間にあった悲しい過去。
兄の複雑な気持ちを知ったうえでの、私の葛藤。
そして流斗さんとの関係――それらすべてを、かいつまんで打ち明けた。
語り終えると、しばらくの間、蘭は黙っていた。
「まあさ、人生っていろいろあるよね。
知らないことのほうが多いし、知らないまま死ぬ人だってたくさんいるんだもん」
そう言って、優しい笑みを浮かべる。
「今はさ、打ち明けられたばかりで混乱してるんだよ。
もうちょっと時間が経てば、冷静に考えられるんじゃないかな」
私は視線を落としたまま、そっと頷いた。
「うん……」
「話してくれてありがとう。そんな大事な話、勇気いったと思う」
蘭は少し眉を寄せながらも、まっすぐに私を見つめてくる。
その瞳には、心配と愛情がにじんでいた。
「蘭のこと、信頼してるから」
本音だから、少し照れくさい。
でも、気づいたら口にしていた。
その瞬間、蘭に勢いよく抱きつかれた。
「唯ぃ~っ!」
強い力で抱きしめられる。
「わ、ちょ、苦しいってば……」
「ごめんごめん、でも嬉しくて!」
蘭はそのままぎゅっと抱きしめたあと、ぱっと身を離した。
そして、照れたように笑いながら頭をかく。
「ま、親がやったことは子どものせいじゃないからさ。
でも、やっぱり少しは気になるよね」
そこで言葉を切ると、表情が真面目なものに変わった。
「そんな過去を知っても、唯はまだ咲夜さんのこと、好きなんでしょ?」
蘭のまっすぐな眼差しが突き刺さる。
彼女は本気で、私の気持ちを受け止めようとしてくれている。
そう思うと、胸の奥がじんと熱くなった。




