第115話 ひとりでは抱えきれなくて
流斗さんに送ってもらった私は、玄関の前で深く頭を下げた。
「おやすみなさい」と小さく呟く。
彼は優しく微笑むと、静かに去っていった。
私はその背中が見えなくなるまで、じっと見つめ続けていた。
部屋に戻ると、そっとベッドに潜り込む。
寝返りを打ちながら、さっきまでの出来事を思い返した。
あの優しい抱擁も、照れたような笑顔も、全部胸に残っている。
まぶたを閉じても、眠れない。
夜が深まるほどに、胸の奥に差し込む切なさがじわりと広がっていった。
……流斗さん、ごめんね。ありがとう。
目頭が熱くなり、ぎゅっと目を閉じる。
そして深夜。
ふいに異変が起きた。
ドクドクと脈打つ心臓。
呼吸が浅くなり、胸が焼けるように苦しくなる。
発作だ――そう自覚した私は、ただひたすらに耐えた。
最後の大きな波が過ぎ去ったあと、私は再び“唯”へと戻っていた。
***
翌日はちょうど休日。
家には両親も兄もいたが、どうしても顔を合わせる気になれなかった。
両親は、私があの“真実”を知ったことをまだ知らない。
でも私は、もう知ってしまっている。
だからといって、両親のことを責めるつもりなんてない。
嫌いになったわけでも、信用できなくなったわけでもない。
ただ、今はまだ向き合う気持ちの整理がつかない。それだけ。
私は最低限の挨拶だけして、そそくさと家を出た。
兄とも顔を合わせなかった。
もしかすると、兄も私を避けていたのかもしれない。
でも、それは気まずさとか、会わせる顔がないとか――そういうことじゃない。
きっと、私の気持ちを思ってのこと。
今は会いたくないだろうって、察してくれたんだと思う。
たぶん、それだけのこと。
このぐちゃぐちゃな気持ちを、誰かに聞いてほしかった。
ひとりじゃ、どうにかできそうにない。
昨日、流斗さんに話せたおかげで、少しは落ち着けた。
でも……まだ足りない。
ふと頭に浮かんだのは、蘭の顔。
私はスマホを取り出し、迷わず連絡を取った。




