第114話 クリスマスまでの恋人
流斗さんは、しばらく沈黙してから、ふっと力なく笑った。
「……わかっていました。ずっと、気づいてました。
二人の気持ちも、全部。
それでも、あなたのことが好きで……どうしても、あきらめきれなくて。
邪魔だとわかっていても、そばにいたかったんです」
その瞳に浮かんだ哀しさに、胸が締めつけられる。
そして今度は、流斗さんが私に頭を下げた。
「……申し訳ありませんでした」
「えっ、ちょ、ちょっと待って! 流斗さんが謝ることじゃないです!」
私は慌てて手を振りながら、必死に言葉を探す。
流斗さんは、ほんの少し口元をゆるめた。
けれどすぐに視線を落とし、考え込むように黙り込む。
静かな時間が少し流れたあと――ふっと顔を上げ、明るく笑った。
「唯さんのこと、あきらめます」
彼は少し照れたような表情で、言葉を続ける。
「……その代わりといってはなんですが。
もう少しだけ、唯さんとの思い出を作る時間をもらえませんか?」
「え……?」
突然の申し出に、私は戸惑って首をかしげる。
「もうすぐ、クリスマスですよね。
それまでは、唯さんは僕の“彼女”ということで」
少し寂しそうな笑顔で、でもどこか甘えるように言う。
「クリスマス前には、必ずお別れします。
これは僕の最後のわがままです。……聞き入れてもらえませんか?」
ああ、ずるいな。
そんな顔で、そんなふうにおねだりなんて。
流斗さんにはいつも助けてもらってばかりだし。
それなのに、傷つけてばかりで。
せめて最後くらい、恩返しをしたい。
私はゆっくりと頷いた。
「……わかりました。じゃあ、クリスマスまで」
そう答えると、流斗さんの顔がぱっと華やぐ。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
そして、感情を抑えきれないように、私をぎゅっと抱きしめてくる。
「あ、ごめんなさい!」
すぐに体を離して、気まずそうに謝る流斗さん。
「ふふっ。まだお付き合い中ですから。いいんじゃないですか?」
冗談めかして言うと、彼の頬がほんのり赤く染まった。
「では……失礼して――」
小さな声でそう言うと、流斗さんはもう一度、ゆっくりと私を抱きしめた。
その抱擁はとても優しくて、彼の想いが静かに伝わってくる。
心があたたかくなって、目頭がじわりと熱くなった。
私はそのぬくもりにそっと身を委ね、静かに瞳を閉じた。




