第105話 うわさ、聞いちゃった
制服に着替えるため、理事長室へ向かった。
父と軽く挨拶を交わし、用意されていた“優”の制服に袖を通す。
……ほんと、この変身って毎回ちょっと面倒くさい。
部屋を出ると、少し先で流斗さんが待っていた。
軽く会釈して、その隣に並び歩きだす。
遠くからは笑い声や音楽が響いてきて、まだまだ文化祭が続いているんだと実感する。
そんな賑やかさの中、肩が触れそうな距離で二人きり。
ちょっとドキドキ。
……言葉がなくても、流斗さんといると不思議と心地よかった。
けど、それなのに。
どんどんもやもやが増していく。
はあ……私、なにやってんだろ。
心の中で小さくため息をついた、そのとき。
人の気配に顔を上げる。
二人組の女生徒が、ひそひそと内緒話をしながら横を通り過ぎていった。
「ねぇ、知ってる? 川野咲夜さん……彼女と別れたんだって」
その言葉に、はっと振り返る。
「え! 嘘! じゃあ、私たちにもチャンスあるってこと?」
隣の子が嬉しそうに声を上げると、もう一人は冷静に返した。
「あんた……馬鹿ね。フリーになったからって、私たちなんか相手にするわけないでしょ?
あの人、どれだけ人気あると思ってるの」
相手の子はしゅんと肩を落とす。
「そうだよねぇ。あーあ、どこかにいい男いないかなあ」
そのまま恋バナを続けながら、二人は遠ざかっていく。
頭の中が真っ白になり、体の動きが止まる。
ただ立ち尽くし、二人の背中を見送っていた。
お兄ちゃん……加奈さんと別れたの?
どうして、いきなり。
心がざわつき、心臓が不規則に跳ねる。
ゴクリと喉が鳴った。
「……優くん? どうしました?」
ふいに、流斗さんの優しい声が降ってきた。
「え? あ、いえ……」
さっきの話、聞こえてなかったのかな。
それとも、知っててとぼけてる?
わからない。
それより――あの噂は、本当なんだろうか。
戸惑いと焦りがじわじわ広がっていく。
そのとき。
パタパタと足音が近づいてきて――




