第104話 ドキドキ逃走中!
そして今――
私と流斗さんは、お化け屋敷の出口の前に立っていた。
二人で小声でタイミングを合わせる。
「行きますよっ」
「はい!」
一斉に飛び出して、全速力で駆け抜けた。
「はあ、はぁ……こ、ここまでくれば大丈夫でしょう」
流斗さんが振り返り、息を整えるように立ち止まる。
私たちはお化け屋敷を飛び出し、廊下を駆け、角をいくつも曲がり――
ようやく人気がない多目的室にたどり着いた。
扉を開けると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
中は静まり返り、誰の気配もない。
そっと壁に背を預け、並んで腰を下ろした。
「少し、ここで休んでいきましょう」
楽しそうに笑う流斗さん。その笑顔が眩しくて、つい見惚れてしまう。
さっき走っていたときも、まるで少年みたいに無邪気な顔をしていた。
今日の流斗さんは、心から学園祭を楽しんでいるように見える。
それは素直に嬉しい。けれど――
自分の姿を見下ろして、ため息が漏れた。
……また優になってしまった。どうしよう。
顔を伏せて黙り込んでいると、流斗さんがそっと微笑みかけてきた。
「せっかくだし、優くんの姿で残りの学園祭楽しみますか?
たぶん誰が来てるかなんて、そんなに把握されてないと思いますよ」
たしかにそうかもしれない。
みんな準備や対応に追われて、他人のことなんて気にしている暇はない。
……と思ったけど、どうしても気になることが。
「でも……蘭とか。私のこと、探すかも」
ふと口にした不安に、流斗さんはクスッと笑って肩をすくめた。
「羽鳥さんはクラスの出し物で手いっぱいですよ。
もし聞かれたら、僕が適当に誤魔化します」
そう言って、いつものようにウインクをひとつ。
その仕草に、ほっと心がほぐれていく。
本当に、この人なら何とかしてくれる――そんな気がしてしまう。
頼もしくて、つい甘えたくなる。
「そうですね。じゃあ、そうしようかな」
私が笑うと、流斗さんがそっと手を差し出してきた。
「え……」
戸惑いと一緒に、苦笑いがこぼれる。
「流斗さんと優が手を繋いでたら、誤解されません?」
「え? 僕と優くんがデキてるって? ははっ、そっか」
少し考え込んでから、困ったように口元をゆるめる流斗さん。
その様子が可愛くて、笑みがこぼれる。
つられるように、彼も照れくさそうに目を細めた。
この空気――心地いい。
ずっと、こんな時間が続けばいいのに。
笑い合っていると、つい本気でそう思ってしまう。
けれど、それは叶わない。
私には、言わなくちゃいけないことがある。
……それなのに。
どうして、まだ言えないんだろう。




