第102話 射的とウサギと、言えない想い
そうこう悩んでいる間に、食事はあっという間に終わってしまった。
「次はどこ行きますか? あ、僕が行きたいところでいい?」
流斗さんはいつもの調子で、ふわりと問いかけてきた。
「え? あ、はい……」
戸惑いながら、小さく頷く。
結局、何も切り出せないまま、私はまた流斗さんに連れられて歩き出した。
やってきたのは、射的のスペースだった。
景品がずらりと並ぶ台の前に立ち、流斗さんは迷いなく銃を構える。
……格好いい。
その姿に見惚れてしまった。
真剣な横顔は、どこか色っぽくて。
でも、そう思っているのは私だけじゃなかった。
周囲の女子たちの視線が、次々と彼に向けられていく。
みんな、キラキラした目で見つめてる……。
なんだか、ちょっとジェラシー。
って、私にそんな資格なんてないのに。
ひとりで反省していると、ふいに優しい声がふってきた。
「どれがいいですか?」
銃を構えたまま、流斗さんが私の方をちらりと見る。
その視線にも、ちょっとドキリ。
「え? えーっと……。あ、あのウサギのぬいぐるみがいいです」
慌てて景品を見渡し、目に入ったぬいぐるみを指差した。
「了解」
流斗さんは静かに構えを定め、狙いをつける。
周りからは緊張した空気が伝わってきた。
先ほどまで賑やかだったはずの周囲が、いつの間にか静まり返っている。
みんなの視線が、流斗さんの手元に集まる。
ポンッ。
軽い音とともに、スポンジ弾が飛び出した。
弾がウサギのぬいぐるみに命中する。
一拍遅れて、ぬいぐるみはゆっくりと台から落ちていった。
「やったー、すごい、流斗さん!」
私が声を上げると、流斗さんは照れたように笑った。
その笑顔が可愛くて、頬が少し熱くなる。
その瞬間、周囲から拍手がわっと広がる。
「すごーい!」と歓声も上がって、たくさんの視線が私たちに集まった。
なんだかいたたまれなくなり、視線を落とす。
ふと横を見ると、流斗さんも同じように目を伏せ、照れたように笑っていた。
「はい、唯さん」
ぬいぐるみを手渡された私は、そっとそれを抱きしめた。
「ありがとうございます……。
流斗さん、射的まで上手なんですね。本当に何でもできて、すごいです」
笑顔を向けると、流斗さんの頬がほんのり赤く染まる。
「いえいえ。唯さんのためだと思ったら、不思議と力が出ました。
……唯さんのおかげです」
その優しい笑顔に、胸がぎゅっと痛んだ。
こんなに想ってくれているのに……。なのに私は。
彼の気持ちを弄ぶようなこと。
こんなこと続けてちゃ、ダメだ。
「あの、流斗さん――」
「そうだ、もうひとつ行ってみたい場所があるんです。いいですか?」
言葉をかき消すように、流斗さんがふいに笑って私の手を取った。
「え、あ……はい」
結局また、何も言えなかった。
そっと彼の背中を見つめる。
そのまま私は、いつもより少し強引な流斗さんに手を引かれていった。
次に訪れたのは、お化け屋敷だった。
理科室と実験室をつなげて使っているのか、かなり本格的な作りになっている。
窓には黒いカーテンが貼られ、入口には赤いペンキで「呪」と書かれた看板。
中からはうめき声のような効果音まで響いてくる。
「へぇー、思ったより凝ってますね」
表で立っているお化け役の生徒を眺めながら、流斗さんがにこにこと笑う。
「こういうの、好きなんですか?」
私はちょっと憂鬱な気分で尋ねた。
怖いの、あまり得意じゃない。
「いや、好きとかじゃなくて……カップルの定番かなって思って。
唯さんと来てみたかったんです」
穏やかに、でもどこか愛しそうな目で私を見つめてくる。
カップル。
そう、私たちは“そういう関係”のはずなのに。
でも、私の心は、まだ――。
「さ、入ってみましょう」
流斗さんに引かれ、お化け屋敷の中へと誘われていく。
「ちょ、流斗さん、待って。まだ心の準備が……!」
私の言葉に、彼はふっと笑って、
「大丈夫。僕がついていますから」
そう言って、ウインクをしてみせた。




