名もなき旅人の詩
過去とも 未来とも わからぬ時代
砂の海を渡る者が 一人
太陽の欠片を受けとめ
黄金の砂を踏みしめて
彼は歩く 一人きりで
目指すは果て無き地平
終わりなき大地の終焉
彼は進む 砂の向こうへ
***
朝とも 夜とも わからぬ時刻
大海原を渡る者が 一人
銀に輝く水面を見つめ
真珠の泡を置き去りに
彼は行く 一人きりで
目指すはまだ見ぬ大地
満たされぬ探求を満たす為
彼は進む 遥かな海を
***
何処から来たの? ── 尋ねる声
彼は答える
「遠くからさ」
何処へ行くの? ── 尋ねる声
彼は答える
「何処までもさ」
彼は一人 いつも一人
その目は 何処でもない場所を映し
その足は 立ち止まる事を知らない
───…たった一人で 何処まで行く?
***
全ての大地と 全ての海と
かつて旅した男が 一人
その足跡を人々は語り
彼の人生を光り輝くものに変え
永く 永く
その物語は続く
誰も知らない 彼の夢を
誰も知らない 彼の願いを
目指したものは 何だったのか
望んだものは 何だったのか
その全てを 時の向こうに残したまま
それが 孤独な旅人の物語
故郷も目指した場所も 知る必要は何処にもない
彼は永遠の旅人なのだから
***
名もなき村 その外れにある小さな家を
訪れた男が 一人
手荷物は少なく
ただ土産話だけを胸に
彼は叩く その扉を
「おかえりなさい」 ── 迎える声
彼は微笑み そして応える
「…ただいま」