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Gal Monk  作者: Futahiro Tada
7/10

恋の答えは、心の奥にない

 日曜日――。

 マリンピア日本海に行く日。

 今日は午後一時に新潟駅の前で待ち合わせだ。

 駅前からバスが出ていて、そこからマリンピア日本海に行けるのだ。

 通常、新潟の住民たちは車移動がメインなんだよね。

 でも、俺たちみたいな高校生は、基本的にチャリかバスを使う。

 だから、今日もバスで向かうのだ。

 ただ、俺はその時、衝撃的なものを見てしまったんだ。

 それは、美沙の姿だった。

 だけど、彼女は一人じゃなかった。

 男と一緒だったのだ。

 そう、生徒会長である二階堂一馬さん。

 美沙は結構オシャレしているようで、ホットパンツにタイトなTシャツを着ていた。

 見た目は完全にギャル。 

 メイクもしてるし、髪の色も明るくなったような気がする。

 僧侶には見えないよね。

 俺はその姿を見て、何というか悲しくなった。

 美沙は、俺なんか忘れて、生徒会長と一緒になってる。

 まぁ、生徒会長はイケメンだし、美沙も可愛いからバランスはとれているんだろうけど……。

 だけど辛い。

 ただ辛い。

 俺が茫然と立っていると、美沙が俺の姿に気づいた。

 そして慌てたように顔を背けた。

 なんで?

 なんでそんな顔するの?

 それに、どうして俺を避けるの??

 次の瞬間、俺は動いていた。

「美沙!」

 その声に美沙も二階堂さんも気づく。

「君は?」

 と、言ったのは二階堂さんだ。

「美沙の友達です。あなたは?」

「僕は二階堂一馬。美沙ちゃんのお友達なの?」

 と二階堂さんは美沙に話を振った。

 すると美沙は、

「クラスメイトです。でもそれだけ」

「ふ~ん」

 堪らなくなった俺はつい聞いてしまう。

「二人はデートですか?」

「え? あぁ、そう見える? まぁ……」

 二階堂さんが言いかけると、それを美沙が遮った。

「そうよ。デートなの。二階堂さんはあんたとは違って頭もいいし、物知りなんだから。んで、あんたこそ何してるの?」

 高圧的に言われて、俺は頭に血が上った。

「俺もデートだよ、佐伯さんとマリンピア日本海に行くんだ。それじゃあな」

 俺がそう言うと、美沙が一瞬怯んだ。

「ふ、ふ~ん、よかったね、じゃあ、あたしたちも用事があるから、あんたはあんたで楽しみなさい。それじゃあね、行きましょ、二階堂さん」

「あ、あぁ、うん、まぁいいけど」

 そのまま二人は俺の前から消えていった。

 残された俺は、一人うなだれる……。

 一体、何をしてるんだろう。

 待ち合わせ時間の少し前に、佐伯さんがやってきた。

 今日もオシャレをしている。

 フリルの施されたブラウスに、ショートパンツをはいている。

 ファンシーというか、フェミニンというか、そんな感じのファッションだ。

 対する俺は、以前GUで買った服を着ている。

 どこか垢抜けない。

 でもイイんだ。別に……。

「待ちましたか?」

 と、佐伯さんが言ってくる。

「いや、大丈夫、行こうか」

「はい」

 新潟駅からマリンピア日本海まで、バスで二十分くらいだ。

 日曜日ということもありバスはそれなりに混んでいた。

 俺たちは一番後ろの席に座ったんだよね。

「楽しみですね」

「うん、そうだね」

「好きなお魚とかいますか?」

「う~ん、どうだろう。魚じゃないけど、イルカは好きかな」

「イルカショーもあるみたいですから、それも見ましょう。うわぁ、楽しみだなぁ」

 佐伯さんは心底嬉しそうである。

 俺は、うっくつとしている。

 だけど、そんな姿を見せちゃダメだ。

 なのに、気分は優れない。

 マリンピア日本海に着く。

 日曜日というだけあって、館内はそれなりに混んでいるようあった。

 高校生以上は千五百円。

 やはり、ここは男が払った方がいいのかな?

 この間は映画を出してもらったし、今回は俺が出そう。

 そう考えてチケットを購入しようとすると、佐伯さんはしっかり割り勘にしてくれた。

「出してもらうなんて、よくないです、ここは私も払いますから」

「え? でもこの間出してもらったし」

「大丈夫ですよ。気持ちだけで嬉しいです」

「そう、じゃあ、割り勘で……」

「はい」

 俺たちは館内に入る。

 時刻は一時四十分を回ったころだった。

 ちょうどイルカショーが二時からやっているようで、俺たちはそれを見るために、イルカショーの水槽まで向かった。

 まだ、始まるまで時間がある。

 何か話さないと……。

「ねぇ、佐伯さん、生徒会長ってどう思う?」

 俺の唐突な問いかけに、彼女は驚いたようだった。

「生徒会長って、私たちの高校のですか?」

「うん」

「先生方からの人望は厚いですよね。頭もイイみたいですし」

「それにイケメンだしね」

「はい、でも、私は苦手です」

「苦手?」

「えっと、何というか女の子に対してすごく慣れているというか……、偏見かもしれないですけど」

「そうなんだ」

「でもどうしてですか?」

「あ、イヤ、さ、佐伯さんもああいうイケメンが好きなのかなって思って」

「そんなことないです。私は、私はその……」

 急に佐伯さんは恥ずかしそうになった。

 そして、静かに告げる。

「私は、榊原君みたいな人がいいです」

「え?」

「な、何でもないです。そろそろイルカショー始まりますよ」

 生徒会長。なんか嫌な予感がするよ。

 よくしつけられたイルカは、どれも可愛く、俺たちの前で最高の芸を見せてくれた。

 だけど、どこか気分晴れない。

 その理由は決まっている。

 美沙と生徒会長の関係が気になっているからだ。

 なぜ?

 なぜ二階堂一馬なんだよ。

 それが不思議でならなかった。

 結局、俺はマリンピア日本海を十分に楽しめずに、そのまま新潟駅に向かった。

 その帰り道、佐伯さんが公園に行きたいといったから、俺たちはそこに向かった。

 新潟駅のそばにある弁天公園という場所だった。

 いくつかベンチがあり、俺たちはそこに腰を下ろす。

「楽しかったですね?」

「うん。そうだね」

「ホントですか? 何か悩んでいるように見えましたけど」

「イヤそんなことは……」

「あの、今週の校内新聞見ました?」

「え? あぁ、まぁ少しは」

「知立さんのコーナー。すごいですよね?」

「うん、まぁ親鸞聖人の受け売りだけどね」

「私、勇気をもらえました」

「勇気?」

「そうです。あの言葉って、桜はいつ散るかわからないから、行動を後回しにしてはいけないって意味ですよね」

「うん。そうだと思う。少し調べたけど、あの言葉は、親鸞聖人が得度っていって、お坊さんになる儀式をする時に言った言葉らしいんだ」

「そうなんですか」

「うん。ネットの情報だけど……」

「あの、私も行動します」

「え?」

 俺が驚くと、佐伯さんは俺の目を一心に見つめた。

 そして――。

「榊原君、あなたが好きです」

 告白。

 そう、俺は告白されたのだ。

 生まれて初めてね。

 さて、どう答えるべきなんだろう?

 少なくとも、即答できる問題ではない。

 だから、俺は黙り込んでしまった。

 すると、佐伯さんがあたふたしながら、

「あ、その、ゴメンナサイ。急にこんなこと言って。でも後悔したくなくて。今すぐに返事はしなくてもいいです。だから、少し考えてもらえませんか?」

「うん。俺の方こそゴメン。すぐに返事できなくて」

「いえ。知立さんの言葉に、背中を押されたような気がします。榊原君、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです。また、二人でどこかに行きたいですね」

 この子は本当にいい子だ。

 それはよくわかる。

 なのに俺は……。

 結局、俺と佐伯さんはその日は別れた。

 俺は家に戻るなり、熱いシャワーを浴びて、自室戻った。

 ちゃんと考えないとダメだ……。

 佐伯さんの気持ちに応える。

 それが一番いいはずだ。

 なのに……。

 不思議な気持になる。

 告白されて嬉しいはずなのに、どういうわけか切なくなるのだ。

 切ないよ。

 本当にね。


 翌日――。

 俺はある人間に呼ばれた。

 それは美沙や佐伯さんではなく、

 二階堂一馬さんだった。

 二階堂さんは俺を屋上に呼んだ。

 屋上は美沙と会議をして以来行っていない。

 なんとなく、久しぶりに感じたよ。

「あの、生徒会長が何の用ですか?」

「あのさ、君美沙の何なの?」

 ん?

 何か態度が違う。

 集会で見るような凛々しい生徒会長ではなく、もっとこう砕けている。

 それも悪い方に砕けているように感じた。

「何なのって、クラスメイトですけど」

「ホントにそれだけか?」

「はい。そうです」

「なら。邪魔すんなよな」

「邪魔?」

「そうだよ。俺は美沙を手に入れる。だからお前とはもう会わない。それでいいな?」

 いいも悪いも、そんなことは俺には決められない。

「美沙さんは何て?」

「人の女を名前で呼ぶなよな。生意気な奴だな」

「す、すみません。知立さんは何て言っているんですか?」

「何ってなにも言ってねぇよ。ただ、お前と会ってから様子がおかしいみたいだからさ。だからあらかじめ言っておく。美沙に手、出すなよ」

 それだけ言うと、二階堂さんは俺の前から消えていった。

 仮面……。

 そう。仮面だ。

 あの生徒会長は、二面性がある。

 普通の生徒や先生に見せる顔。

 そうではない時に見せる本当の顔。

 まぁ俺が言っても仕方ないんだけど。

 屋上から降り、廊下を歩いていると、前方に鈴奈さんの姿があった。

 彼女は俺を見つけるなり、そばにやってきた。

「やぁ榊原君、元気してた」

「まぁまぁですかね?」

「そう。君と美沙君ってケンカでもしたの?」

「え? どうしてですか?」

「だって原稿が手書きになったから。いつもは君がメールで送っていたでしょ。それで変だな思って」

「多分、今後は手書きになると思います。俺、彼女を手伝うのクビになったみたいなんで」

「ふ~ん、お似合いのカップルだと思ったのに。そういや彼女、生徒会長と最近一緒にいるみたいだけど」

「らしいですね。詳しくないです」

 すると、キラリと鈴奈さんの目が光った。

「生徒会長……、何か怪しいんだよねぇ」

「怪しいですか?」

「そう。二面性があるっていうかね。噂だけど、お年寄りにひどいことしたりとかね」

「お年寄りに?」

「うん、何でも肩がぶつかったとかなんかで、おばあさんを恫喝したっていう噂だよ。まぁ、生徒会長はイケメンだし、人望も厚いから、それを妬んでの噂かもしれないけどね。まぁ、あの人には気をつけた方がいいよ」

「そうなんですか……」

 やっぱり、二階堂さんは怪しい。

 俺の勘も何となくそう言っている。

 だからと言って、俺が何かできるわけじゃないんだけど。

 ただ、俺は生徒会長の裏の顔を見てしまうんだよね。

 それは、その日の帰り道に起きた。

 俺がチャリで帰り道を走っていると、二階堂さんの姿があった。

 そして、横断歩道を渡った時、前方から歩いてきた、お年寄りと、ぶつかったのである。

 お年寄りは横断歩道で転倒したんだよね。

 普通ならぶつかったんだから謝るところだけど、二階堂さんは全く違う行動を取った。

「うぜぇよ、ババァ……」

 そう言い唾を吐き捨てたのだ。

 こいつはおかしい。

 人間として終わっている。

 俺は、倒れたお年寄りに手を差し出して、一緒に横断歩道を渡った。

 おばあさんは俺に感謝しているようだったけれど、やはりショックを受けているらしい。

目がとても寂しそうだったよ。

あいつはダメだ。

美沙が悲しむ……。


 翌日――。

 俺は、朝一番で美沙のところへ行った。

 彼女は一人でぼんやりしていたけれど、俺が来た瞬間ムッとした顔になった。

「何よ?」

「ちょっと話がある」

「話?」

「あぁ、いいから来いよ」

 廊下へ行き、俺は美沙に一連の出来事を話した。

 つまり、生徒会長は人間的に終わっているから、付き合うのはやめた方がいいと告げたのである。

 しかし、美沙は予想外の行動を取った。

「知ってるわ。そのくらい」

「え?」

「だから知ってる。二階堂さんは根っからの悪人よ」

「ならどうしてあんな奴と。あいつなんてやめた方がいいのに」

「浄土真宗の教えよ」

「教えって何だよ」

「親鸞聖人は善人が救われるのだから、悪人は余計に救われると言ってるの。それを証明するわ。あたしがあの人を真人間にしてやるの。それがあたしの役目だから。それより、あんたはどうなの?」

「え? どうって何が?」

「女子の情報網をなめないで。告白されたんでしょ? あんた」

 それを知っているのか?

 何か恥ずかしい……。

「あぁ、そうだけど」

「ちゃんと応えてあげなさい。佐伯さん、いい子だから、悲しませちゃダメよ」

「それはそうかもしれないけど。それより、知立さんも大丈夫なのか?」

「ん? 大丈夫って何が?」

「だから生徒会長だよ。あいつを更生させるのは結構難しいと思うけど」

「大丈夫よ。浄土真宗の教えを説けば、きっとわかってくれるはずだから」

「そう、そうか……」

 やはり、俺は必要ないのか?

 そう考えるとものすごく寂しい。

「俺は、もう協力しなくていいのか?」

「協力って? 新聞部の件?」

「まぁそれもそうだけど、浄土真宗を広めるってお前の夢にだよ」

 すると、美沙は意外そうな顔をした。

 だけど、すぐにキッと真剣な顔になる。

「大丈夫よ。あんたは佐伯さんと幸せになる。それでいいのよ、それですべて上手くいくから」

 上手くいく?

 本当にそうだろうか?

「だけど……」

「いいから、あたしは一人で大丈夫だし、生徒会長も更生させてみせるから」

「あぁ、わかったよ」

 俺はわかった。

 俺は――。

 美沙に必要とされたい。

 なのに、それは叶わないようだ。

 俺は、やっぱり佐伯さんと一緒になるべきなんだ。

 美沙を忘れよう。

彼女の中にすでに俺はいない。

彼女が好きなのか?

それもよくわからない。

人を好きになるって何?

ホントよくわからないよ。

教えてほしい。

だけど、その言葉をここで口にしても、きっと彼女は受け入れてくれないだろう。

「あんたにとっておきの親鸞聖人の言葉を教えてあげるわ」

「え?」

「いいから聞きなさい」

 美沙は呼吸を整えると、次のように言ったんだよね。


「信心すなわち一心なり

 一心すなわち金剛心

 金剛心は菩薩心

 この心すなわち他力なり」


いつも通り?である。

 俺が唖然としていると、美沙が意味を語った。

「信仰する心っていうのは、一心と言えるわ。つまり、一つの事に心を集中することね。そして、この心は、ダイヤモンドのように堅いの。その堅さは、他の誤った信心を打ち砕くわ。それと同時に、自らは破れない。そのような堅い信心は、自分でおこすのではなくて、阿弥陀さまからいただく他力の信心なのよ」

「うん、それが、どう俺と関係する?」

「つまり、恋愛も同じって意味よ」

「恋愛も同じ?」

「そう。信心というのは阿弥陀さまからいただくもの。そして、恋愛というもの、感情をいただくわけでしょ。つまり、起こすのは自分自身ではない。恋愛は周りの条件によって、いただくものなのよ。今のあんたにピッタリでしょ? あんたは佐伯さんを幸せにする。それが、あんたの役目よ」

 それだけ言うと、美沙は俺の前から消えていった。

 俺に痛烈な傷を残してね……。


 三日後――。

 佐伯さんの告白の返答をしないとならない。

 だから俺は、彼女を屋上に呼び出した。

 放課後の屋上――。

 天気は良く、晴れ晴れとしている。

 だけどね、俺はそんなに気分がいいわけじゃない。

 美沙の言う通り、俺は佐伯さんを幸せにするべきなんだ。

「佐伯さん、この間の告白の答え、言うよ」

「はい」

「俺、佐伯さんと付き合うよ。よろしくお願いします」

 俺は悩みに悩んだ。

 自分の気持ちに整理をつけずに、突っ込んでしまったと言えるだろう。

 恋愛はいただくものだ。

 それに、俺は佐伯さんを悲しませたくなかった。

 けどね、この選択は俺にとって痛烈な悪手だったんだ。

 けど、この時はまだ、それに気づかないでいた。

 人は人を傷つける。

 それに、恋ってなんていうか、どこか自分ヨガリというか、そんな感じがするんだよね。

 少なくとも俺は、美沙に拒絶されたから、その傷を癒してほしいために、佐伯さんを選んだんだ。

 最悪だ、俺――。

 そんな俺の心境とは裏腹に佐伯さんはぽろぽろと涙を見せた。

「さ、佐伯さん」

「あ、ゴメンなさい。わ、私嬉しくて……。これからよろしくお願いします。榊原君」

「うん。佐伯さん」

 俺たちは一緒に帰る。

 カップルになった。

 つまり恋人同士だ。

 その気持ちは、少なからず俺を癒してくれたよ。

 なんというか包み込まれたような気がするんだ。

「あの、榊原君、一つお願いがあります」

 帰り道、俺たちは新潟駅に向かって歩いていた。

 夏の夕暮れ。

 蒸し暑いけど、爽やかな放課後だった。

「お願いって何?」

「あの、お互い名前で呼び合いませんか?」

「名前か……、そうだね。付き合ってるわけだし」

「じゃあ、悠真君、あ、言っちゃった」

「瞳ちゃん……」

「嬉しいです。私、ホントに幸せです」

 その笑顔を見ると、どこかほっこりする。

 でもなぜだろう?

 これが嬉しいのかよくわからないんだ。

 緊張しているのかな?

 時間が経てば、このうっくつとした悩みは消えていくのだろうか?

 俺は、そればかり考えていた。


 自宅――。

 瞳ちゃんと、カフェで軽くお茶をしてから、そのまま別れて帰宅した。

 俺はふと、仏教とは何か考えてみた。

 一体、なぜこのように思ったのか?

 それはよくわからないよ。

 だけど、そこには俺の求めている答えがあるような気がしたんだよね。

 仏教とは簡単に言うと――。


「不条理なこの世の中を幸せに生きるための教え」


 と、言えるだろう。

 そして、開祖であるお釈迦さまは、まず「人生は苦」であると定義づけた。

 そう、人生は苦しいのだ。

 お釈迦さまは悟りを開いて諸行無常という心理に至る。

 でもさ。

「苦」って一体何だろう?

 それも簡単だ。

苦とは「思い通りにならないことを、思い通りにしようと思うことで起こる悩み」になる。

 人は誰しも、こんな風に考える。


・出世したい

・お金を稼ぎたい

・素敵な人と結婚したい


 けどさ、大抵の人は、その夢はかなわないよね。 

 同時に、その思いが満たされない時、俺たちは焦りや苛立ちを覚えるんだ。

 それにさ、「希望」「夢」なんてもののは、美しいこと言葉に包まれているけれど、一皮むけば、自分の都合で勝手に描く「欲」に過ぎないのだ。

 この「欲」が意外と厄介だよね?

 人間には、誰しもがこの欲を持っている。

 例え聖人君主に見たいな人間がいたとしても、どこかで欲を持っているのだ。

 美沙だってそう。

 彼女は僧侶を目指している。

 これは輝かしい「夢」かもしれなけれど、やはり「欲」に過ぎないのだ。

 つまり、この世界で生きる限り、人は誰もが「苦」と付き合うことになるってわけだ。

 だからこそ、お釈迦さまは「人生は苦」と定義づけたのだろう。

 そう、人生は苦しい。

 俺も今、猛烈に苦しいよ。

 同時に、すべての人間が救われる道を説いているのが仏教なのだ。

 まぁ、けどダメだ。

 いくら仏教にすがったところで、誰も俺は救えない。

 そんな気がしたよ。

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