恋とお経と、ウォークマン
放課後――。
「榊原、ちょっと来て」
と、俺は知立さんに呼ばれる。
呼ばれなくても、いつも俺たちは屋上に行く。
そこで、俺は知立さんの説法のような話を聞くのだ。
退屈か?
実はそうでもない。
仏教は、苦しみとは何かを説いている。
人生は苦しいのだ。
だから、人は苦労する。
俺もそうだ。
それ故に、苦しさを跳ね飛ばし、仏教の教えを伝えようとしている知立さんに、惹かれつつあったんだよね。
俺たちは屋上に行った。
すると、知立さんは校内新聞を大事そうに持ちながら、
「あんたは助手だから、このくらいして当然なんだけど、言っとくわ。そ、その、ありがと」
「え?」
ありがと。
その言葉は意外だった。
お礼なんて言われると思わなかったのだ。
だって、見た目はギャルだし。
「だから、協力してくれてありがと、感謝してるから」
「あ、いや、俺も協力できてよかったよ」
「毎週月曜日に締め切りだから。月曜日の放課後にあんたに原稿を渡せばいい?」
「うん、知立さんがそれでいいのなら」
「美沙」
「え?」
「だから、あたしの名前美沙って言うんだけど」
「知ってるよ。クラスメイトだし」
「ハァ、だ、か、ら、名前で呼んでもいいわ。知立さんって、何だがよそよそしいでしょ」
「名前で? いいの?」
「うん、いいってば。その代わり、あたしもあんたのこと名前で呼ぶから」
「わかった」
「じゃあ、悠真、次の月曜日もよろしくね」
「あ、うん。わかったよ、美沙ちゃん」
「ちゃんづけキモいよ」
「うるせー。美沙でいいんだな」
すると、美沙は笑顔になった。
その笑顔は、どこまでも魅力的に見えた。
「なぁ、美沙。俺、すごいと思うよ」
「すごい? 何が??」
「何か夢があって、それを追う姿は、美しい。そんな風に思えるんだ」
「ゆ、悠真……。ふん、あんただって夢くらいあるでしょ?」
「イヤ、俺にはない、何がしたいのかわからない」
すると、美沙はフンと嘆息すると、次のように言った。
「あなたの悩むことはよくわかるぞ、その道を解決するには、ここから東の方、数里のところ、東山のふもとの吉水に『法然』という人がいる。そこに赴いてその法を聞け」
????
また美沙がわけのわからないことを言い出した。
「それも仏教の教え?」
と、俺は尋ねる。
美沙は髪の毛を指で弄りながら、
「これはね、親鸞聖人が見た夢の話よ」
「夢の話?」
「そう。眠った時見る夢。あんただって夢を見るでしょ?」
「まぁ、見るけど」
「親鸞聖人の時代は、夢が結構神聖なものだったの。ある日ね、親鸞聖人は夢の中で聖徳太子に会うの、そこで、今言った言葉を聞くの、つまり、法然上人のもとに行ったのね。そして、浄土の教えに気づくの」
「そうなのか。美沙はよく知ってるんだね」
「だから、あたしが、あんたにとっての法然になってあげる」
「は?」
「つまり、あたしについてくれば、夢を見せてあげるわ。安心しなさい」
自信満々に告げる美沙。
この子は、本当に不思議だ。
何か、オーラがあるというか、普通とは違う。
何て言うんだろう?
とにかく眩しいのだ。
「俺の夢が見つかるかはわからないけど、とにかく美沙についていくよ」
「ついてきなさい。あたしが浄土真宗の教えを教えてあげるから」
こうして、俺たちの付き合いが始まった。
なんだろう?
運命なんだろうか?
翌週の月曜日――。
俺が登校すると、美沙が既に席に座って、イヤホンで何か聴いているようだった。
多分お経を聴いているんだろう。
邪魔しちゃ悪いから、俺は何も言わず席に座った。
すると、それを見ていた美沙が俺のところにやって来た。
「ちょっと悠真、あいさつは?」
「ふぇ」
「朝会ったら、おはようでしょ」
「あ、ゴメン、おはよう」
「あいさつは基本よ」
「ただ、お経聴いているようだったから」
「まぁ、そうだけど」
「ねぇ、どうしてお経聴いてるの?」
「正確には正信念仏偈ね」
「そう、それ。一体何なの?」
「正信念仏偈っているのは、毎朝のお勤めに使われる、お経なのよ。だけどね、あたし、お経が苦手で」
「へぇ、そうなんだ。前はすらすら言っていたように思えたけど」
「あたしなんてまだまだよ。だけど、これを難しいって言っているようだと、お坊さんに笑われちゃうわ。だから、あたしは毎日聴いてるの」
「ねぇ、どうして、カセットテープなの?」
俺がそう問いかけると、美沙はムッとした顔になった。
「今、バカにしたでしょ?」
「してないよ」
「ウソ! どうせカセットテープなんて前時代的なもの使ってるってバカにしたんだ」
「だからしてないよ。ただ気になって」
「あたしの家、デジタル機器があまりないの。そのなんていうの、でじたるおんがくぷれーやーとかはしらないの。家にあるのは昔のラジカセだから、それでパパのお経の声を録音したのよ。だけど、カセットテープもバカにできないの。正信念仏偈っていうのはね、基本的には単調なくり返しなんだけど、いろんなところで音程が変わったり、調子が変わったりして大変なの。だからパパがお経を唱えているところを、四句ごとに区切って録音したのよ。後はカセットを早回ししたりすれば、簡単に頭出しできるから、意外と便利なの」
曲の頭出しするなら、デジタルの方が絶対便利だが、俺は言わなかった。
カセットテープで満足しているのなら、それでいいんだろう。
「お経を上手く唱えたいから練習してるってわけか」
「そう。お経てさ、練習しようって思うと、あんまり上手くできないの。だからね、視点を変えて、お経を勉強するんじゃなくて、聞き流すようにしたの。ほら、流行の音楽とか、よく流れているでしょ。あれを聞くといつしか口ずさんで歌えるようになるじゃん。あれと一緒。つまり、お経を流し続けて、カラダに覚え込ませるのよ」
どこまでも美沙は勉強熱心だ。
俺とは全然違うよね。
だけど、このカセットテープがきっかけで、俺は苦労することになる。
翌日――。
朝学校へ向かうと、既に美沙はやってきていた。
しかし、何やら様子がおかしい。
がちゃがちゃとウォークマンを弄っているのだ。
「おはよう。美沙、今日もお経?」
と、俺が言うと、美沙は食い気味に、
「ねぇ、悠真、あんた機械に強い?」
「え? 機械に? まぁ普通だと思うけど」
「ねぇ、あたしのウォークマン、調子が悪いみたいんなんだけど、見てくれない」
「うん、いいけど、俺もそんなに詳しいわけじゃ」
「とにかく見てよ」
俺はウォークマンを受け取る。
試しにスイッチを押してみるが、全く反応がない。
「電池が切れたんじゃない?」
「昨日充電したわ」
「多分だけど、寿命だと思う」
「えぇぇぇぇええ。そんな、困るよ、あたし、それがないと。あんた、助手でしょ、何とかしてよ」
「そんなこと言っても、押しても何の反応もないっていうのは、バッテリーがおかしいか、後は内部が弱っているかだよ」
「修理に出せばいいのかな?」
「俺もあんまり詳しくないけど、これ大分古いウォークマンだから、修理とやってないかもよ。仮に受け付けてもらえても、かなり費用がかかると思った方がいいよ。提案なんだけど、新しいの買ったら。今は一万円以下でも普通に買えるから」
「でも、よくわかんなしい、新しいのってパソコン使うんでしょ?」
「正信念仏偈だっけ? それを入れるだけなら、俺がやってもいいけど」
「ホント? ちゃんと聞けるようになるのよね」
「それはもちろん」
「じゃあ、新しいの買うわ」
「そうした方がいいよ。デジタルの方が使いやすいと思うし」
「……、てきてよ」
「え?」
「だから、新しいの買うのついてきてよ。元々はあんたのせいなのよ」
「はぁ、どうして俺のせいなんだよ?」
「だって、あんたとぶつかった時、ウォークマンを落としたじゃない? あれから調子が悪いんだもん」
「不可抗力だよ、俺のせいじゃない」
「とにかく、放課後電気屋さん行くから、ついて来て」
家電量販店を電気屋さんという美沙が、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「わかったよ、付き合うよ」
「そうして、じゃあ放課後ね……」
放課後――。
ホントに一緒にウォークマンを買いに行くのだろうか?
思えば、高校に入ってから誰かとどこかに行くのは初めてだ。
だからこそ、俺は少し緊張していた。
俺と美沙は、放課後に屋上で仏教について話す。それも浄土真宗の親鸞聖人の話をするけど、それ以外は関わりがない。
こうして、一緒に出歩くのは初めなのだ。
俺たちの高校がある新潟市中央区には、新潟駅という大きな駅がある。
この駅の近くには、ヨドバシカメラとビックカメラの二つの家電量販店がある。
とりあえずビックカメラに行き、音楽プレーヤーのコーナーに行った。もちろんカセットテープのウォークマンは売っていない。
一応お店の人に、壊れたウォークマンを見せたが、かなり傷んでいるらしく、修理に出しても直るかわからないと言われてしまったんだよね。
その上で新しいのを買った方がいいと提案された。
もちろん、向こうは売り上げにつながるかから新しいのを買った方がいいに決まっているよね。
「じゃあ、新しいの買います」
美沙は、俺以外の人間には腰が低いというか丁寧なのだ。
店員さんは予算に合わせて、何点かピックアップしてくれた。
話しではちゃんとしたメーカーのモノがいいそうだ。
そこで、ソニーのウォークマンで一番安いものを買ったんだよね。
価格は4GBの容量で一万円。まぁメーカー品だからこのくらいは仕方ないか。
多分、お経を入れるだけだから、4GBもいらないが、大は小を兼ねるから問題だろう。
美沙は新しいウォークマンを買って嬉しそうな顔をしている。
その顔を見ていると、俺もどこかほっこりする。
「ねぇ、悠真が正信念仏偈を入れてくれるでしょ?」
「うん、でもCDとかあるの?」
「わかんない。でもパパに聞けばあるかもしれないけど」
「まぁ、デジタルでも売っているかもしれないけど。とりあえず、録音はできると思う」
「じゃあ、やってちょうだい、あたしできないから」
「わかった、じゃあ一日借りるぞ」
「うん、お願いね」
俺は、買ったばかりのウォークマンを受け取る。
その時だった。後ろから声が聞こえてきたのだ。
「あ、悠真、何してんの?」
その声は妹の陽菜だった。
中学生のくせに何でこんなところに?
「誰この子?」
と、当然の疑問をはく美沙。
すると、陽菜がパクパクと打ち上げられた魚のようになった。
「悠真が、女の人と一緒に、嘘でしょ」
「あぁ、こいつは俺の妹、陽菜って言うんだ。中学生」
「悠真君の妹、可愛い子だね、宜しく陽菜ちゃん」
と、ネコかぶりモードになる美沙。
「ゆ、悠真のクセに生意気! バカー!」
と、言い捨て、陽菜はプンスカ怒って立ち去った。
全く、思春期の女子が考えることはわからん。
美沙と別れた後、俺は自室でネットにつなぎ、ウォークマンに正信念仏偈とやらを入れるため、四苦八苦していた。
ただ、正信念仏偈は結構有名らしく、デジタルでも売っていたんだよね。
なんだCDがなくてもよかったのか?
価格も五百円くらい。
正信念仏偈 (草譜)というものがあったから、俺はそれを入れておいた。
まぁ、ジュースをご馳走したと思えば、五百円くらいどうってことないだろう。
後はこれを渡すだけだ。
一仕事を終え、リビングに向かうと、陽菜がDVDを見ていた。それも幽遊白書。結構古いアニメが好きなのだ。
陽菜は俺の存在に気づき、キッと睨みつけた。
「で、デートは終わったの?」
「は? デート?? 何の話だ」
「今日、女の子と一緒だった」
「あぁ、友達だよ、ただの」
「そ、そう、どうせ悠真のことだからいいように遊ばれて終りね。それに結構可愛い人だったし」
「美沙はただの友達だって言ってるだろ」
「へ、へぇ、もう名前で呼んでるんだ。フン! 鼻の下伸ばして、バカじゃないの」
「あのなぁ、鼻の下なんて伸ばしてないぞ! 言いがかりだ」
「ふん! どうだか! どうせ悠真なんか遊ばれて終りなんだから。あんまり調子に乗らないことね」
「お前こそ、いつまで経ってもアニメなんて見てないで、少しは現実に目を向けろ! お前が好きな蔵馬なんて、実際はアニメや漫画の世界だけで、現実にはいないんだぞ」
「な、なぁ……。あんたに蔵馬さまをバカにされる筋合いはないわ。バカ! 変態! 騙されて死ねぇ」
プンスカ怒っている陽菜は、こうなると止まらない。
ただ逃げるだけだ。
俺は自室に引っ込み、ベッドの上に横になった。
翌日――。
朝学校に向かうと、既に美沙はやって来ていた。
そして、俺の姿に気づくと、恥ずかしそうに俺のそばにやって来た。
「ねぇ、できた?」
主語がない。
しかし、俺は何となく言いたいことを察している。
「うん、正信念仏偈だっけ? とりあえず入れておいた」
「ホント? ありがと? でもどうやって入れたの? あんたCDとか持ってないでしょ?」
「あぁ、デジタルで買ったんだ。五百円くらいだから。まぁ出してやるよ。ウォークマン壊したの俺のせいかもしれないんだろ。だから」
「そんないいわよ。出す、いくら?」
「だからいいってサービスだよ」
「ダメよ。こういうのはしっかりしないとダメなの。とにかく払うから」
こう言うと、美沙はテコでも動かない。
ギャル風の容姿のクセに、この辺は真面目らしい。
俺は素直に、正信念仏偈のダウンロードでかかった五百円を払ってもらった。
まぁ、本当にどうでもよかったんだけど。
「ねぇ、これってCDの曲も入れられるの?」
「うん、入れられるよ」
「それも悠真に頼めばやってくれる?」
「まぁ、いいけど、何か入れたい曲があるのか?」
「うん。実はね、家に正信念仏偈と和讃のCDがあるからそれもいれてほしいの」
「いいよ、そのくらいやってやるよ。で、和讃ってなに?」
「あんた、ホントに無知ね」
「うるせー」
「いい? 和讃っていうのは、和語による仏教賛美の歌よ」
そう言うと、美沙は呼吸を整えて、
「本願力にあひぬれば
むなしくすぐるひとぞなき
功徳の宝海みちみちて
煩悩の濁水へだてなし」
????
またわけのわからないことを言い出した。
「それってどういう意味?」
と、俺は尋ねる。
美沙は、ニコッと笑みを浮かべながら答えた。
「あたしたちが、はかることができない命の働きと、その命からのあたしの心の闇を照らす光の働きに出会ったならば、あたしたちの人生がどのようなものであったとしても、それは決して虚しいものにはならないって言ってるの。そしてね、そこには、常に、はかることができない命と光の働きが豊かな海のように満ち、あたしたちの自分中心の濁った心がわき上がったとしても、それが自分と他者を冷たく分けへだてるものにはならないのですって意味」
「何かよくわかんないな。難しいよ」
「親鸞聖人は海をとっても大切にしていた人なの。親鸞聖人が出会った海っていうのはね、命を育む恵がある一方で、時に荒れ狂い、すべてを飲み込んでしまうの。だから、その中に人間が生きる尊さを感じ取ったのよね。それだけありがたい言葉なのよ」
「ふ~ん。そう言うもんかな。でもまぁ海って広大だよね。俺の祖父さん、小針っていうところに住んでいてさ、近くに小針浜っていう海があったから、小さい時はよく行ったよ」
「それだけ海は豊かであり、あたしたちを包み込んでくれるわ。いい? あたしたちが普段の生活の中で感じる豊かさってあるでしょ?」
「まぁあるかもね」
「うん、それは、自分にとって都合がよく快適な状況のもとでのものになっている。でもね、実際は違うわ」
「どう違うのさ?」
「この世は自分の都合がいいことばかりではないわ。つまり、命のつながりっていうのは、人間の都合の物差しを遥かに超えた、あたしたちにはかることができないものなのよ。それをこの歌は示している」
壮大な話だ。
多分、この話を偉いお坊さんがすれば、ありがたく感じるかもしれない。
でも、美沙が言うと、どこか中二臭く感じてしまう。せっかく一生懸命なのに、これは大きなマイナスだと思えた。
こうして、一日が始まる。
だけど、ある問題が立ち上がっていた。
それは、鈴奈さんからのある提案が関係してるんだけど。
昼休み――。
俺のスマホに鈴奈さんから連絡が入った。
何でも新聞部に来てほしいとのことだった。
俺は早めに食事を終えると、新聞部の部室へ向かったんだ。
すると、そこで菓子パンを食べている鈴奈さんが俺を待っていたんだよね。
「あの、何か用ですか?」
と、俺は告げる。
すると、鈴奈さんは、
「うん、ゴメンね、急に呼び出して。実はね、ちょっと相談があって」
「相談ですか?」
「うん、この間、校内新聞に親鸞聖人の言葉を載せたでしょ?」
「はい」
「その件で反響があったの」
「反響って具体的には?」
「うん、この記事を書いた人に相談したいことがあるって人が現れたのよ。それで、知立さんはどうかなって思って」
「とりあえず本人に聞いてみますよ。放課後にまた来ます、それでいいですか?」
「うん、それでいいよ。知立さん、スマホとか持っていないみたいだから、彼氏君に聞いてみようともって」
「へ? 彼氏?」
「そう、あれ、君たち付き合ってるんじゃないの?」
「付き合ってません」
大いなる誤解だ。
俺の彼女が美沙?
冗談だろ……。
まぁ、こんな一件があって、俺は事情を美沙に説明した。
美沙はどう反応するんだろう?
浄土真宗の教えを広めるわけだから、これはチャンスなんだろうな。
「なるほど……」
と、俺の話を聞いた美沙は告げる。
そして、何やら考えているようだった。
「相談、受けたらどうだ? だって、浄土真宗の教えを広めるわけだから、これはチャンスだと思うけど」
「そうよね、でも、人の相談なんて……」
「お坊さんって、人の相談に乗る機会があるんじゃないかな? 将来お坊さんになるなら、これは避けて通れない道だよ」
「そうね、悠真の言う通りだわ。よし、やりましょう。人生相談ってやつね」
「そうなるかな」
美沙は、その意見を聞き入れて人生相談をすると決めたようだ。
少しずつだけど、前に進んでいるのは確かだよね。
放課後――。
鈴奈さんのところに行くと、彼女はA4のコピー用紙を持っていて、それを美沙に渡した。
どうやら、そこに悩みが書いてあるらしい。
美沙はまじまじと眺め、
「恋愛相談ですね?」
「そう。これに答えてくれるとありがたいんだけど。もちろん、今回の件はプライベートなことだから記事にはしない。だけどこれが上手くいったら、ゆくゆくは知立さんの人生相談のコーナーを持ちたいからなって思って」
「やります。やらせてください」
美沙は意気揚々とそう言った。
どうやら、やる気はあるらしい。
こうして、美沙は恋愛相談をすることになったらしい。
話を終えた俺と美沙は、屋上に向かった。
屋上に着くなり、美沙は何やら考え始めた。
「ねぇ、恋愛相談ってどんな内容だったの?」
「え? まぁあんたには言ってもいいか。但し他言は無用だからね」
「うん、俺、口は堅いから」
「実はこんな内容なの……」