ギャル、坊主になる
夏休みもあと数日で終わる。
俺の夏休みは、とにかく仏教色に染まったよ。
歎異抄を読んでみたり、五木寛之さんの「親鸞」に目を通したり。
親鸞聖人は知るほどに奥が深い人物だ。
日本が生んだ、偉大なお坊さんでありながら、思想家でもある。
俺も親鸞聖人の教えをもっと知りたい。
そのために、今は色んな本を読み、勉強していくのだ。
その日の夜――。
美沙から連絡があった。
どうやら、今日東京に向かって旅立つらしい。
新幹線で行けば楽なのに、美沙は高速バスという選択を取ったみたい。
新潟から東京の新宿まで向かうバスが、いくつか出ている。
それに乗るらしい。
出発は二十三時。
俺は出発前にバスセンターに行き、そこで美沙の見送りをすることにした。
すると、意外な美沙がそこにいた。
なんと、美沙は坊主頭になっていた。
帽子をかぶっていたけれど、ギャルの容姿に坊主というかなり奇抜な格好になっていた。
「坊主にしたのか?」
「うん、得度したから」
「得度って僧侶になる儀式だよな」
「女子は坊主にしなくてもいいんだけど、人生で一度くらい坊主にしてもいいかなって。まぁ、いいじゃない」
「可愛いと思う。小坊主みたいで」
「それ褒めてんの?」
「褒めてるよ。美沙頑張れよ。俺も頑張るから」
「うん」
美少女×坊主×ギャル……。
美沙、とにかくお前は凄い奴だよ。
「美沙、しばらくお別れなんだな」
「そうね。お別れね……」
美沙は少し寂しそうな顔をした。
その顔を見た俺は、思わず彼女を抱きしめてしまった。
「えぇぇぇぇ。ちょっとあんた何してるのぉ?」
「好きだから。それ忘れないでね」
「……き」
「え?」
「だからあたしも好き……、バカ!」
そう言うと、彼女は俺にキスをしてきた。
淡く触れるだけのキスが展開される。
キスを終えると、美沙は言った。
「好き。だから、あんたも元気で……」
そして、美沙は最後に親鸞聖人の言葉を継げる。
「煩悩を断ぜずして涅槃を得るなり」
「煩悩があっても悟りは得られるって意味か?」
と、俺は尋ねる。
「そう。親鸞聖人はそう言っている。私たちは、煩悩の塊だけど、他力の力を信じればいいの。そうすれば道は拓ける。今にピッタリの言葉でしょ?」
「あぁ、そうだな。ありがとう……。美沙も元気で」
俺たちは、こうして別れた。
付き合えたのかな?
それさえもよくわからないや。
けど、俺の想いは伝わった。
とにかく俺は目標に向かって突き進む。
美沙のように仏教を学び、彼女といつか語り合えたらいい。
その日を信じて、俺はやっていく!
〈了〉