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一族から弾かれたウサギ族は震える体を皆に癒されて幸せを知る〜仲間達がいるので貴方達はお好きに〜

作者: リーシャ
掲載日:2025/07/26

月明かりが照らす、白銀に輝く雪原。


「あんのおおお」


そこで、アリスリアは凍える体を抱きしめていた。


「アホなウサギども……!」


心の中で悪態をつきながらも、アリスリアの口元には作り物の儚い微笑みが張り付いている。


寒い。


現代日本からトラックに轢かれて転生した彼女。


このウサギ族が支配する異世界で、とんでもない目に遭っていた。


寒すぎる。


元々、アリスリアは由緒ある白毛のウサギ一族の末娘として生まれた。


しかし、その瞳の色が他の兄弟姉妹とは違う、珍しい黒色をしていたがために。


不吉な子、として家族から疎まれ、虐げられてきた。


アホの脳細胞たち。


優しい言葉など一度もかけられず、冷たい視線と陰湿な嫌味ばかりを浴びせられてきた。


「まあ、いい。どうせ、あんたたちとは住む世界が違うから」


そう強がってみせるアリスリアの心は、氷点下の雪景色のように冷え切っていた。


今日、ついに彼女は家を追い出されたのだ。


ついに。


理由は、兄の婚約者に些細なことで言い返したから。


「不吉な黒目のくせに、身の程知らずな!」


と罵られ、荷物をまとめて雪の中に放り出された。


「我が家の敷居を跨ぐことは許さん」


震える手で粗末な毛布を握りしめ、アリスリアは歩き出した。


行く当てもない。


ただ、この忌まわしい家から。


冷酷な家族から、少しでも遠くへ行きたかった。


どれくらい歩いただろうか。


疲労困憊し、意識が朦朧としてきた頃、遠くに小さな灯りが見えた。


飛びつきたい。


藁にもすがる思いで近づくと、そこは簡素な小屋だった。


ないよりマシ。


意を決して扉を叩くと、中から温かそうな光と共に、穏やかな声が聞こえた。


「はい、どちら様ですか?」


扉が開くと、そこに立っていたのは、柔和な笑みを浮かべた、立派な角を持つ若い獣人だった。


いたらしい。


深みのある翠色の瞳が、アリスリアの凍えた姿を心配そうに見つめている。


「あの……行き倒れ寸前で……もしよろしければ、一晩だけ場所を貸していただけませんか?」


アリスリアは猫を被り、か弱い少女を演じた。


警戒心の強い獣人たちを欺くには、これが一番効果的だと、これまでの経験から学んでいた。


許せよ、他人。


「まあ、お気の毒に。どうぞ、中へお入りください」


獣人は優しくアリスリアを招き入れた。


ちょっと罪悪感。


「失礼します」


小屋の中は暖かく、焚き火のパチパチという音と、香ばしいスープの匂いが満ちていた。


お腹が空いたなと思い出す。


「ぼくはキリーアスと申します。あなたは?」


「アリスリアと申します……ご親切に、ありがとうございます」


アリスリアは作り物の笑顔で答えた。


笑みをさらに深める。


キリーアスは、アリスリアに温かいスープと寝床を用意してくれた。


ご飯は一日抜かれていたから助かる。


久しぶりの温もりに、アリスリアの心は少しだけ安らいだ。


いい人そう。


数日後、アリスリアはキリーアスの小屋に居候することになった。


あっという間に提供してくれたのだ。


キリーアスは物知りで、薬草や魔法に詳しく、アリスリアに様々なことを教えてくれた。


嬉しいし、優しい。


アリスリアも、現代日本の知識を活かして、キリーアスの生活を手伝った。


共に過ごすうちに、キリーアスの優しさ、温かさ。


そして、何よりも、アリスリアの過去や瞳の色を気にせず。


ありのままを受け入れてくれる彼の存在が、凍り付いたアリスリアの心をジュワリと溶かしていったのだ。


善人と認めざるを得ない。


ある日、キリーアスはアリスリアに真剣な眼差しを向けた。


「アリスリア。あなたの瞳は、夜空に輝く星のように美しい。どうか、そんな瞳を曇らせるような過去に囚われないでほしい」


キザな言葉。


キリーアスの言葉は、アリスリアの胸に深く突き刺さった。


キザでも、嬉しいものだ。


初めて、自分の存在を肯定してくれる人が現れた。


「キリーアス……ありがとうございます」


アリスリアは、初めて心の底から涙を流した。


涙腺、こんなに弱くないけど。


それは、悲しみではなく、温かい感謝の涙だった。


それから数ヶ月後。


アリスリアはキリーアスと共に、彼の故郷である森の奥深くへと旅立った。


移動するというので。


そこでアリスリアは、キリーアスと同じ角を持つ、温厚な獣人たちの村に迎えられた。


善人ってこんなにいるんだ?


彼らはアリスリアの黒い瞳を珍しいとは思ったものの、決して差別することはなかった。


温かい。


アリスリアは初めて、心の底から安らげる場所を見つけたのだ。


永遠に住み着こう。


一方、アリスリアを追い出した白毛のウサギ一族は、混乱と没落の一途を辿っていた。


当主であるアリスリアの父親は病に倒れ。


兄は商売で大きな損失を出した。


婚約者は愛想を尽かし、実家に帰ってしまった。


アリスを無一文で追い出した女。


彼らは、自分たちが犯した過ちにようやく気づき始めていた。


そう、気付いてしまう。


アリスリアの存在が、いかに一族の均衡を保っていたのかを。


後悔の空気が漂う。


そんな中、アリスリアがキリーアスと共に故郷に戻ってきたという知らせが、彼らの耳に入った。


早耳なのだ。


しかも、森の獣人たちと共に。


驚きに息を呑む。


かつて、見下していた異種族との交流を持つアリスリアの姿は、彼らにとって大きな衝撃だった。


いまさら。


アリスリアは、かつての家を訪れた。


それは、決して涙の再会ではない。


出迎えたのは、憔悴しきった母親だった。


遅すぎる後悔が走る。


「アリスリア……どうか、私たちを許しておくれ」


母親は涙ながらに懇願したが、アリスリアの表情は冷ややかだった。


バカ言うなと。


「許す?あなたたちは、私を不吉だと蔑み、冷たい言葉を浴びせ、雪の中に追い出した。あの時の私の気持ちが、あなたに分かりますか?赤の他人様」


アリスリアの言葉は、母親の胸にグサっと、ツノのように突き刺さった。


当然の帰路。


そこへ、兄が顔を青ざめて現れる。


「アリスリア!頼む、一族を救ってくれ!お前にしかできないんだ!」


悲鳴がこだまする。


「私にしかできない?ふざけないでください。あなたたちは、私を必要としなかった。今更、都合の良いことを言わないで。自分がされたら恨むくせに」


アリスリアは冷たく言い放った。


ずばりと言い返す。


彼女の隣には、静かに佇むキリーアスの姿があった。


ついてきて欲しいと頼む前に、ついてきてくれることは自然と決まっていたのだ。


その堂々とした姿は、アリスリアの強い心の支えとなっていた。


アリスリアは、かつての家族に、そしてかつての自分自身に別れを告げた。


さようならと言うために。


彼女はもう、あの虐げられていた弱い少女ではない。


彼らはおそらく、己を昔のまま記憶している。


温かい愛を知り、かけがえのない仲間たちと共に、新しい人生を歩み始めているのだ。


彼らは簡単に許して欲しいと言えるのがその証拠。


白毛のウサギ一族は、アリスリアの拒否に絶望した。


彼女は当たり前でしょとバカにする。


自分たちが犯した罪の重さを、今になってようやく感じた。


「二度と会わない」


アリスリアはキリーアスの手を取り、森の仲間たちの元へと帰っていった。


「そんなっ」


彼女の背中には、過去の鎖はもうない。


「まっ、待ってくれええええ」


「許して!」


未来への希望に満ちた、足取りだった。

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― 新着の感想 ―
とても面白かったです。 あえて言うなら、ざまぁの場面をもっと多く書いてほしかったです。
2025/07/26 20:57 コペルニクスの使徒
一瞬にしてオセロの駒が純粋な黒一色にひっくり返り、清々しい大逆転で締め括ってくれました! 弱者ぶる一族には片腹激痛、気っ持ち良いですO(≧∇≦)O
2025/07/26 14:34 甘口激辛カレーうどん
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