ルール違反
「えー…、ということで退職となりました」
その一言でより一層、重たさを増した。
店長であるみおさんはそれ以上何も言わず、その場にいた佐々木さんやおかぴーも何も言えなかった。
身界さんが退職になると告げられた。身界さん自身から『もう、この仕事向いていないと思う』と相談を受けることが度々あった。出来ればみんなで乗り越えていきたいと思っていたし、カバー出来るところはと思って日々過ごしていたつもりだ。
「んー…、やっぱりかぁ…」
隣に居た佐々木さんが深いため息とともに言葉を呟いた。私も同感だ。
休館日の前夜に、私と佐々木さんが思っていたことが同じだった。
でも、どうしようもできない。
出来なかった。そう判断せざるを得なかった。
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退職日当日。
どこに居ても感じる視線があった。身界さんだ。接客をしていても、誰と話していても視線を感じる。そして振り返れば身界さんが必ずいる。
「……あの身界さん」
「はい!!」
いつもより早く、そしていつもより元気に返事をしてくれる。それはとても良いことだ。どうせなら、元気がある職場の方が楽しい。だか今は少し状況が違う。
「自分のことに集中してくださいね?」
「はい、大丈夫です!」
一体、何が大丈夫なのだろうか。皆目見当がつかない。分かりたくないといったほうが正しいかもしれない。
「…あの、何か言いたいことでも?」
「…じゃあ…帰ってからLINEするのでスルーしないでください」
もう、その言葉で少しだけ分かってしまった。だけど、分かりたくなかった。
「………分かりました」
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退勤後、私は寮に戻り唸っていた。
「……どうしよう」
身界さんがどう言ってくるのだろう。何を伝えてくるのだろう。
私は意を決して言葉を打った。
『身界さん、今までお疲れ様でした。少しでしたが一緒に働けて楽しかったです。私の思い過ごしだとしたら気にしないでください。
身界さんが私のことを想ってくれているのであれば、それに応えることはできません。ごめんなさい』
身界さんからの言葉を聞く前に打ってしまった。ルール違反なことは分かっている。だけど、私はどうしても待つことが出来なかった。
『そうですよね、分かりました』
ルール違反なLINEを送信し、既読になってから数十分後、ただ短い言葉でそう綴られていた。その短さがどれだけ傷付けてしまったんだろうと、身勝手に私は泣いた。




