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敗北した女騎士は、破滅を回避した悪役令嬢らしい  作者: ru
第七章 幸せは勝利から
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88.始まり


 渋るリーゼロッテを何とか説得し、飛竜に乗せた。

 リーゼロッテはノアもつれていくと言ったが、ノアはこちらにとどまってもらった。


 そして湖のほとり、ノアと二人でリーゼロッテを見送る。


「……死ぬなよ、一人も」

「ああ」

「ノアが傷つくようなことがあったら許さないぞ」

「ああ」

「大丈夫、おれ、にいちゃんのてつだいするから」

「ノア、無理しないで。城の奥にいるんだよ」

「大丈夫だよ」


 名残惜しそうに振り返るリーゼロッテを乗せて、飛竜は夕陽の中を飛び立った。


 それを見送って、シュタイナーは、深いため息をついた。


 寂寥感で胸がいっぱいになる。

 張り裂けそうだ。──でも、これでいい。少し自分から離さないと、何をするかわからない。


 何故リーゼロッテはあんなに冷静だったのだろうか。シナリオの事を知っても、別人と割り切っていた。シュタイナーはそうではなかった。ふとした瞬間に、自由なリーゼロッテが自分から逃げてしまうのではないかと、焦燥感に襲われるのだ。


 ……知っていた。刺せば良い。そうすれば手に入る。魂も、未来も、彼女の全てが自分の一部になることを。


 それは後悔しているはずなのに、そうなっていないことに焦るのだ。

 このままでは、彼女の自由を奪うどころではない。ならなくていいと言われた魔王になってしまいそうだった。


 リーゼロッテが見えなくなって、腹に穴が開いたような気分だった。だが、少しホッとした。


 リーゼは戻ってくるだろう。それまでに幾日かあれば冷静になれるかもしれない。それに、今はそれどころではないのだ。

 自分を乱すものは、少ない方が良い。


「ノア、手伝ってほしい」


 大きな緑の目がきょろりとこちらを見る。以前より落ち着いた色の目は、少し不安そうだ。もう、大した魔力もないから、魔術はほとんど使えないだろうが……


「おれは何をするの?」


 手招きすると素直に側に寄ってくる。シュタイナーはノアの肩に手を置くと、魔力を送った。


「うわ、なんか汗くさい」

「……」


 ノアの感想に少々傷つくが、そんなことは言っていられない。


 ノアが持てるだけの魔力を渡す。ノアの目が以前のような不思議な輝きを放った。


「なにこれ? 今なら何でもできそう……なんか道場の匂いするけど」

「魔力だ」

「えー?」


 自分の手を見て、ぱちくりと瞬く。


 するとノアの手のなかに、水晶玉の様な淡い光の玉が浮かんだ。その中を小さな炎が走り、それを水が掻き消し蒸気となる。最後に、パチリと雷が爆ぜて消えた。


「本当だー」


 試しにやってみたにしては複雑な魔術だった。減った分の魔力を足してやりながら、シュタイナーは内心舌を巻いた。


「ノアはどうやって魔法を使っている?」

「え? こういうことがしたいなー、と思うと、それができる絵がふわっと浮かぶじゃん? それに魔力を通せばいいんだよね」

「……そうか」


 やはりそうだ。ノアの魔法の才能は魔王の種だったからではない。魔王の種は魔力の量だけで、ノアはノアだから、あそこまでの魔術が使えたのだ。


「こういう魔法を使うにはどうしたらいいと思う?」


 シュタイナーは記憶にある大魔術をノアに説明する。ノアはふんふんと真剣に聞くと、きらりと目を輝かせた。


「うーん、やり方はわかるけど、水みたいに魔力を流し続けることになるよね。できる人いるかなあ。人でなくて、精霊とかならできるかなあ」

「……さすがノアだ」

「うん、え? このくらい、ちょっと考えればわかるよね?」


 ぱちぱちと目を瞬かせるノアの髪をかき混ぜて、シュタイナーは苦笑した。

 シナリオの自分は、それを思いつくのに14日かかったのだ。


「よし、付き合ってくれ。研究室でお勉強だ」


 何とか最終魔法はノアに構築してもらおう。秀才は勉強をしていないのだ。天才のほうが、可能性は高いだろう。


 アーベントレーテ=バオムの魔術は、夕方から一番星が出る時間まで。


 3日は、結界を超えられない小物しか来ない。4日目から迎撃が必要となり、7日目には森の深奥の魔物が群れを成して襲い来る。問題はそこからだ。


 それまではジークハルトの作った魔法陣と魔法兵団でなんとかなる。


 今の時点で仲間はジークハルトとノアしかいない。兵団を纏めるには、出来損ないの汚名を返上しなければ。


 そう考えながらノアと城へ急ぐ。



「あっ!!」


 城の正門から、馬車が一台出るのが見えた。


 クラウゼヴィッツ家の紋章がついた、立派なものだ。父が近隣に救援を求めに行くと言っていた。あれか。


「ノア! あの馬車を止めろ!」


 シュタイナーの指示に、ノアがビシッと指を差す。すると車輪の車軸が一本ずれ、馬車は、がったん! と、派手に揺れて止まった。


「うわー!!」

「何がおきた!?」


 混乱する父達を見て、胸を撫で下ろす。


 アレが、被害を拡大したのだ。魔物たちは城の主人を追い、父が隠れた村や町を襲ったのだ。

 これで村への被害は減るだろう。


「父上も閉じ込めておくか……」


 ジークハルトに相談しよう。とにかくクラウゼヴィッツの家族は全員、城から出てはいけない。

 そうすれば、魔物は城に向かう。迎撃もやりやすい。



 よし、こうやって少しずつ、変えてゆこう。


 ──大丈夫、今度は14日もいらない。7日で止めてやる。


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