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敗北した女騎士は、破滅を回避した悪役令嬢らしい  作者: ru
第六章 披露宴は交渉から
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69.ノアの事情

 

(クッソー!!!)


 ノアは怒り狂いながら、シュタイナーの部屋で、檻の中の動物のように行ったり来たりしていた。

 リーゼロッテは花の香りで寝入ってしまい、手際良く運ばれていった。そしてノアはこの部屋に放り込まれた。


(何なんだあいつ、バケモノなんじゃないのか!?)


 ジークハルトはにこやかに、


「君は見どころがある。ちゃんと教育してあげるから、今は大人しくしてろ」


 と、リーゼロッテを人質のようにしながらも、とても穏やかに言ったのだ。


 騙し打ちに人質、ノアもリーゼロッテもそんなに鈍感ではないが、ジークハルトの企みには気がつくことが出来なかった。


 ノアは魔王の種だから、欲望というものに敏感だ。欲望というものは、その時々で量も内容も変化する。


 この城でも様々な欲望を感じていた。

 アデルハルトの自分が中心でありたいという欲望、シュタイナーのリーゼロッテを自分のものにしたいという欲望(ただしそれは、鉄の理性で抑えられていた)、クラウゼヴィッツ卿の評価されたいという欲望。


 そして昨日から激しくなった、リーゼロッテの魔力が欲しいという欲望。


 しかし、ジークハルトからは欲望を全く感じないのだ。彼は当主になりたいと思っているわけではないし、リーゼロッテと結婚したいとも思っていない。


 少なからず、大それた行動には欲望が影響するものだ。だからノアには、ジークハルトの行動が読めなかった。

 おそらくリーゼロッテも、ジークハルトからは敵対心が感じられなかったから、素直にお茶を飲んだ。


「くそー!!!」


 今度は悪態を声に出して、どんどんと足を踏み鳴らした。


 そうしても、誰も来やしない。唯一ラッキーなのは、ノアがこの部屋から出られないと思われている事だ。だから多分、外に見張もいないだろう。


 ノアはぽすんと、ソファーに座った。クッションを抱え混んで眉根を寄せた。


 これからやらなければならない事ははっきりしている。とにかくリーゼロッテのところに行って、魔力を分けてあげなければ。

 だいぶ供給を減らしていたから、早くしないとまた魔力切れになってしまう。


 普段なら、欲望を辿っていけば見つけられるが、眠っていると難しい。

 誰にもみつからず、この広い城で、リーゼロッテのところに行けるだろうか。せめて起きてくれれば。


「ううう」


 魔力なんて、もっとあげておけばよかった。そうすれば、もう少し時間があったのに。

 今の量だと、全く動かなくても、夜には切れてしまうだろう。


 苦しむリーゼロッテを思い浮かべて、ノアはきゅっとクッションを掴んだ。


 ……一つだけ方法がある。確実な方法。リーゼロッテを死なせない、それどころか安全で、多分本人も喜ぶ事。


(リーゼおねえちゃんに、魔王の種をあげる)


 ノアはクッションに顔を押し付ける。さっきからどうしても、それを実行する勇気が出ないのだ。


(でも。もしそうしたら、おれはどうなるんだろう)


 はじめて、自分が何なのかをよくよく考える。


 自分は魔王の種だ、思う。自分が出た後のノアは、元のノアに戻るのだろうか。魔法も使えないちっぽけな子供は、何の役にも立たないだろう。

 それでも、リーゼロッテのそばに、いられるだろうか。


(そして、おれはおねえちゃんのなかでどうなるのだろう。消えてしまうのだろうか、それか、心の奥におねえちゃんを押し込めてしまうのだろうか)


 もし、心の奥に押し込めてしまうならば。王都に戻ったら身体から出ればいい。他にも欲望を持った人間は山のようにいるし、何ならバットキャットになった時のように、魔石に取り憑いてもいい。


 だから、問題ないんだ。


 一生懸命、自分に言い聞かせるが、身体が動かない。

 魔法を見せるたびに聞いた、リーゼの弾むような声が脳裏に響く。


「ノアは凄いな、天才だ!」


 それを思い出すと、ただ怖い。


 ──何よりも、自分ノアが無価値になるのが。



読んでいただいてありがとうございます。

短いので、今日は後ほどもう一話投稿します。


ブクマ、評価、リアクション、コメント、ありがとうございます!! 励みになります!


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