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敗北した女騎士は、破滅を回避した悪役令嬢らしい  作者: ru
第五章 ご挨拶は療養から

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63.不思議な研究室

 後半ノアです


 一日ゆっくり休んで、疲れは取れた……ような気がする。

 ノアは相変わらず魔力の供給を減らしていて、普通に動けるくらいしか分けてくれていない。……とはいえ、普通には動けるのだ。


 そんなわけで私は暇だ。この部屋は安全かもしれないが、物が少ない。トレーニングもできないし……シュタインもいない。ノアとカードゲームをして気を紛らわせていたが、それも二時間が限界だった。


「シュタインが言ってた研究室、行ってみようよ」

「えー、うーん」


 なぜかノアは乗り気ではない。魔法使いとしては面白そうだと思わないのだろうか。


「入り方とか、凝ってて面白そうじゃないか。秘密基地みたいでワクワクする」

「うーん」

「せっかく教えてもらったんだし。気になるじゃないか」


 私が少々しつこかったからかもしれないが、ノアはしぶしぶ頷いた。「マーサさんがいいって言ったらね」というので聞いてみると、マーサはあっさりと頷いた。


「研究室は辺境伯家が管理していますが、入り方が鍵となっています。シュタイナー様がそれをお伝えしたということは、鍵をお預けしたという事ですから、わたくしが否と申し上げることはございません」




 シュタインに聞いた魔法の研究室。それは、図書室の絵の中にあった。

 マーサさんは図書室に入る権利がないらしい。中には椅子もあるんだし、座って待っててといったけど、かたくなに拒否されてしまった。


 図書室の奥の壁の、巨大な絵。乱雑な部屋の様子が描かれている。

 小さな窓から見える空、壁の様子からして塔の中のようだ。窓際に古びた大きな机。手前に揺り椅子。机には今まで誰かが調べ物をしていたように本が乱雑に置かれ、紙が散らばっている。左端には扉の絵。

 魔術師の研究室のような感じだ。


 その絵を背にして、左右に立ち並ぶの本棚の、それぞれ手前から二つ目と三つ目の灯りを、絵の中の机の上の紙に描かれた魔法陣へ向ける。

 灯りに映し出された魔法陣が絵の中で重なる。それが新たな魔法陣を型作って、一瞬、ぼっ、と光った。


「で、この魔方陣に触れるんだよな」

「そうだね……こうやって」


 二人で魔法陣に手を近づける。


「わあ」


 ノアが思わず感嘆の声をあげる。音もなく、絵の中の扉が開いた。


「絵の中に入るなんて、初めてだ」

「おれも」


 私とノアはいつもより固く手を繋ぎ、恐る恐る足を踏み入れた。

 扉の中は階段室で、降りていくと、また扉があった。その先は、先ほど私たちがいた図書室に良くにていた。

 私たちは絵から出てきたようだった。先程とよく似た絵だったが、窓の外に月が出ている。どうやら夜の絵のようだ。


「置いてある本が違うのかなあ」


 元の図書室をちゃんとみてこなかったので、違ってもわからないな。

 そう思いつつ、近くにあった本を適当に手に取ってみる。


「……?」

「どうしたの? リーゼおねえちゃん」


 それは不思議な本だった。「最初に手に取る本」と書かれている。私が知っている文字ではないのに、なぜか読める。


「あれ? おれも、これよめる」


 ノアも覗き込んで怪訝な顔をする。


「他のも読めるかな」


 ノアは別の、本を取り出して、パチパチと目を瞬かせた。


「これも、『最初に手に取る本』、だって」

「魔法かな」


 深く考えてもわかるわけがないので、私は早々に諦めた。

 しかし、諦めたところでこの本もよくわからないのだ。めくると、1ページめに、


『あなたの望みは』


 それだけ。

 なんだこれは……と、困っていたら、


「なんだよー」


 隣で、ノアが不満そうに毒づいた。


「どうしたの?」

「望みって言うから、リーゼおねえちゃんを治してって応えたら、それは自分のことでないからダメだって」

「ええ?」


 望み、と言うのも自分のことでなければいけない?


「うーん、じゃあ、そうだなぁ」


 ノアは呟いて、再度本に目を落とした。すると間もなく、パッと本から目を上げて、真っ直ぐに隣の本棚に向かい迷わず一冊を手に取った。そして、その場に座り込んで一心不乱に読み出した。


「ノア?」


 声を掛けても返事が無い。随分集中しているようだ。

 何を読んでいるのか気になって後ろから覗いてみると、何やら、体術の指南書のようだった。ここにきて? 魔術書じゃない? なぜだ。

 騎士になると言っていたからかな? もしかすると『望み』として、騎士になりたいと思ったのかもしれない。


 であれば、私はなんだろう。


「……ふふっ」


 思わず顔がほころぶ。考えるまでもない、今私が欲しいのは。


 するとぼんやりと、書かれた文字が変わる。『B-Ⅵ』。見回すと、吸い込まれるように次に読むべきものがわかった。

 あれか。背表紙に、『B-Ⅵ』と、番号が振られていた。



 ++



 ノアは、読み終わって本を閉じた。ぱたんという音で、我にかえる。


「あれ、」

「ん?」


 隣でリーゼロッテも顔を上げる。二人とも時を忘れて夢中で読んでいたようだ。


 本の内容は不思議と頭の中に入っている。ノアは今知った身体の使い方を意識しながら立ち上がった。お腹の、おへその下に力を入れる。


(そういえば、シュタインにいちゃんも言われたかも)


 シュタイナーの訓練は厳しく、あの時は朦朧としていて、立っているのがやっとだった。返事はしたが、出来てたとは言えないだろう。


 リーゼロッテも立ち上がった。知識を得てから改めてみると、堂々としてゆるぎない、美しい立ち姿だと思った。長い期間、きちんと鍛錬を重ねてきたことがわかる。


 身体強化があんなに上手く出来たのは、そのたゆまぬ努力のおかげだろう。普通なら魔力に振り回されてしまう。

 女性の少ない筋力で、あのシュタイナーと渡り合ってきたのだ。身体の使い方にかけては彼女の右に出るものはいないだろう。


 リーゼロッテがあれほど喜んだのは、ただ強くなったからではなく、やりたかった事が出来たからなのだなと、ノアは思った。魔力を使えば、自分の限界を超えて、イメージ通りに動けるのだ。



「ずいぶん夢中になってしまったな。マーサさんまだ待っててくれてるかなあ」


 ぐいっと背中を伸ばして、首をこきこきとならす。ノアもそれにつられて伸びをした。


「……ねえ、ノアはさ、」


 リーゼロッテは、いつも通りの真っすぐな爽やかな目を、好奇心でキラキラさせて言った。



「魔王の種って、聞いたことある?」




いつもありがとうございます!

更新のたびのpv、ブックマーク、評価、リアクション、感想、大変励みになっております。


次から次章です。隔日更新が難しくなってきましたので、更新を週2回に戻します。。。

火曜日と土曜日に更新します。次回は火曜日に更新します。


いよいよ話も佳境に入りまして、最後まで駆け抜けていきたいと思います!!

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― 新着の感想 ―
佳境かもしれないけど長く続いてほしいなあ… シュタインの過保護っぷりの理由も把握したいけど… うーん…
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