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敗北した女騎士は、破滅を回避した悪役令嬢らしい  作者: ru
第五章 ご挨拶は療養から
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62.魔力の魅力

途中からノアです。


「───!!」

「リーゼおねえちゃん!」


 覚醒と同時に目が開いた。掛け布団を跳ね飛ばして起き上がる。


「アデルハルトは!?」


 そこは、先ほど戦っていた廊下ではなく、もう見慣れてしまったシュタインの部屋だった。

 ノアが手を握っている。だが、魔力の流れは止まっているようだ。


「アデルハルトは気絶して、部屋に連れていかれたよ。ジークハルトさんがおねえちゃんを運んでくれた。あとでお礼言っといた方がいいよ、ジークハルトさんが守らなかったら、……多分あいつ、死んでたよ……。さすがにお兄さんを殺したら、結婚も破談になっちゃうんじゃないかな……」


 詳しく聞くと、私が痛みに耐えられず手を放したハルバードは、斧刃を下にしてアデルハルトの頭に落ちたそうだ。頭を割る直前に、ジークハルトが魔法障壁の対象を変えて、弟を守ったのだ。


「あいつは雑な攻撃型だったけど、ジークハルトさんは相当腕がいいよ。なのになんであんなにへこへこしてるんだろ」


 ノアは首をかしげる。


「リーゼおねえちゃんを、すごく褒めてた。でも……弟が死ぬところだったのに。なんか変なの」


 この家の価値観は気になるところではあるが、私にはそんなことより大切なことがあった。


「……ねえノア、そんなことより、分けてくれてる魔力が少ない気がするんだけど」

「……」


 痛みはない。痛みはないし、動くことはできるのだが、なんだか体が重くて動くのが億劫なのだ。このところいつも感じていた、絶好調な感じがない。


「……少し大人しくしてなよ、おれ、しんぱいだもん」


 ノアはふいと目をそらして言い訳するように言った。魔法の供給を制御しているようだった。


「また魔力いっぱいあったら、力試ししたくなっちゃうでしょ。さっきのは向こうから手を出したけど、こっちからケンカ吹っ掛けたりしたら、駄目じゃないかな」

「も、森で魔物とか探すから」

「ダメだって! シュタインにいちゃんも屋敷から出るなって言ってたじゃん! おれ、おねえちゃんのことまかされてるんだから!」


 怒られてしまった……。そして全くの正論である。

 ……ひどい義実家で、今後あまり付き合わないにしても、そう簡単に縁は切れないだろうし……

 それに、言う事を聞かず外に出て怪我でもしたら、シュタインはまた気に病むだろう。ノアも役割を果たそうと、絶対引かないぞと気合を入れて顔を赤くしている。


「……わかった。わかったけど……」


 私は未練がましく、ノアの手を掴んだ。


「こ、この部屋の中だけでいいから、魔法の練習、したいな……」


 あの爽快感。忘れられない。鍛えて鍛えて鍛え上げて、一番コンディションが良かった聖冠騎士になった2年前。あの時でも巨大な岩を持ち上げるなんてできなかった。鉄のハルバードを片手で振り回すなんて、到底できなかったのだ。


「だからさ、ちょっとだけ、もうちょっとだけ分けてよ」

「ダメ。っていうか、魔法あんまり使ったらよくないよ。筋力じゃないんだから、どんなに動いたって、腕、細いまんまだよ。それに、これから一生、ずーっとおれと手をつないでるわけにもいかないでしょ」

「……」


 全くの正論である……


 そういえば、大きくなったら相当なライバルになりそうだとシュタインが言っていたな……つい、美青年の手を引く中年女性を思い浮かべてしまい、慌てて脳内からかき消した。


 私はついにあきらめて、ぼすんとベッドに寝転んだ。

 ああ、私の身体に魔力があればいいのに!!


 そういえば……私はふと思い出した。

 ──魔力を宿せないかと色々試していたと、シュタインは言っていなかったか。


 結局見つからなかったようだが、本当に、ないのだろうか。ないと言われている魔力を貸す行為だって、ノアはできる。ならば、魔力を後天的に宿す方法も、どこかにあるのではないだろうか。


 ノアはかいがいしく私に掛け布団をかけて、いつかシュタインがやったように、上からぽんぽんとたたいた。


「少し落ち着いて休みなよ、まだ怪我治ってないんだから。おやすみ、リーゼおねえちゃん」



 ++



 やはり疲れていたのだろう、すぐに寝息を立て始めたリーゼロッテから手を放して、ノアはぐるりと部屋を見回した。


(なんか、シュタインにいちゃんへんだったな)


 この三日間のシュタイナーの過保護っぷりは異常だった。

 殆どリーゼロッテから離れず、少しでも離れる時は、必ずこの部屋に連れてきた。


 リーゼロッテは出られないと思いこんでいたが、実は扉には魔法などかかっていない。マーサを観察していて気が付いた。仕掛けがあって、開け方にコツがあるだけだ。

 結果的には外に出ない方がよさそうだからノアも言わないつもりだが、リーゼロッテに嘘をつくのはシュタイナーらしくないと思う。


 ───シュタイナー・クラウゼヴィッツは、妄執に取りつかれ、力を欲して魔王となる。

 その地はここ、この東の森の城だ。もしかすると、何か、元のストーリーに引っ張られているのだろうか。


(それに)


 ノアは、ふんふんと鼻を動かした。

 この部屋のどこかにも、ストーリーのフラグがある気がする。シュタイナーを魔王に導くようなものが。


(にいちゃんを魔王にはさせないぞ。このまま二人は結婚して道場を継いで、幸せになるんだ)


 リーゼロッテが剣を振る時の、まっすぐで爽やかな目。シュタイナーがリーゼロッテを見守る時の、眩しそうな優しい目。

 ストーリー通りの二人より、それは遥かに楽しそうで、自由で、何より幸せそうだ。


 ノアはよくよく考える。ストーリーで、シュタイナーが魔王の種の元にやってくるのは15のころだ。幼いころから魔力を宿す方法を探していたなら、魔王の種のことを知るのは、大きくなってからだ。


 となると、この部屋に何かがあるとしたら、少し高いところだろうか。幼い頃には気づかないところ。シュタイナーが、大きくなってから見つけられるところ……

 高いところにある棚に椅子を運んで、よじ登って順々に覗き込む。


「……これだ」


 見つけたのは、クローゼットの奥。小さな箱には小さな魔石と手紙が入っていた。


『シュタイナー、これで一度だけ、研究室に入れます。母が残せる唯一の可能性です』


(ごめんねにいちゃん、お母さんからのお手紙だけど、わたせないや)


 ノアは小さな炎を出して手紙を燃やした。そして魔石に魔力(ちから)を込めて、粉々に打ち砕いた。


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