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敗北した女騎士は、破滅を回避した悪役令嬢らしい  作者: ru
第五章 ご挨拶は療養から
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59.獅子の石像

 

「にいちゃん、大丈夫かなあ」


 一度駆け出せば振り返らず、名残を断ち切るように土埃を立てて去っていったシュタインを見て、ノアはぽつりと言った。


「何が?」

「すごく落ち込んでたし」

「結果的には全て予定通りだ。心配ないよ」


 任務も終わり、結婚と婿入りの話もできたし、結果だけ見れば万々歳である。


「でも、リーゼおねえちゃんが大怪我した」

「護衛の任務は危険があって当たり前だ。護衛対象は皆無事だったのだから、問題はない」


 騎士が怪我を負ったのを問題にしていたら、仕事にならない。調査は、三日の予定が二日になってしまったが、アンチマジックが無効化した事によって、カウチュークの特異な習性──動く枝は、樹液に向かって動き、カチカチに固まる──も確認できたので、成功と言っていいだろう。


 調査隊は、カチカチになったサークレットを持って、私たちを残して先に王都に帰還した。


「それにしても、よく思いついたね。サークレットをカウチュークに突っ込むなんて」


 ノアは応えずに俯いた。

 何度も何度も皆に褒められたらしくて、もういい加減、話題にしてほしくないらしい。

 薬師の二人は、ノアの柔軟な発想、魔術の腕をしきりに褒め、熱烈に魔法士団に勧誘していたそうだ。


「さすがノアだ! やっぱり、魔法の師匠についた方が良いんじゃないか? グラバルさんにも誘われたんだろう?」

「……おれは、……魔法使いより、騎士になりたいな」


 ノアは私を見上げた。


「もう、師匠は決めてる」

「そうなの? シュタイン? あ、父上なら頼んでみようか?」


 なんだかもったいない気もするが、本人がやる気なら応援しようと思う。


 しかしノアは答えずに、大きな目でじっと私を見つめるだけだった。



 ++



「リーゼおねえちゃん、そろそろ戻ろうよ」

「いや、もうちょっと、もうちょっとだけ!」


 呆れた声でノアが声を掛けてくるが、今はそれどころではない。

 私は門の横で家を守るように配置されている巨大な獅子の石像に手を掛けた。


「お、これは重いかも」


 何百年もそこに置かれていて、地面から生えているようにも見える石像だ。さすがに腕の力だけでは動かなかったが、膝と腰を使って下からすくい上げるように持ち上げると、ゆっくりと地面から離れた。


「はははっ! すごいな!」


 意識をすれば、強い縄のように編まれた魔力が筋肉を支え、その力を何倍にもしているようだった。


「もうやめなよ、魔力無くなったら、傷が開いちゃうよ」

「ノアが側にいれば大丈夫なんだろ」


 魔力は使うと減る。動かない石像を持ち上げるだけなら、さほど魔力を使っている感じもしない。それに、ノアの魔力は無尽蔵なのか、少しでも減るとすぐに充填してくれるのだ。


「……そうだけど。……ドレスが汚れちゃうって」

「確かに」


 言われて思い出したが、今着ているのは借り物のドレスだ。高価なものだろう。服に触れないようにそっと下ろすと、ズウウン、と地面を揺らして、獅子の石像は元の位置に戻った。


「ああ、手袋破けちゃった」

「ほらー……」


 ノアがため息をついた。どっちが子供だかわからないな。


 しかし、仕方がないではないか。物凄い力なのだ。どこまでできるのかやってみたくなるに決まっているだろう。


 改めてドレスを確認する。……大丈夫だ、手袋以外は無事だ。


 淑女はどんな理由で手袋が破れるだろうか。言い訳を考えながら手袋を外すと、さっとノアが預かってくれた。従者のフリも板についてきている。


「マーサさん怒るかな……」


 戻ろうと建物に足を向けると、扉の前で控えていたマーサと目があった。……怖い。




「ごめんなさい、気を付けていたのですが……」

「慣れております。坊ちゃまたちがお小さい頃は日常茶飯事でしたから」


 ……それは、私は少年達と同じレベルという事か……


「お洋服も良く破かれていましたし、鎧や武器も飾りだと何度申し上げても持ち出そうとされて。先ほどリーゼロッテ様が石像に挑戦されている様子を見て、懐かしい気持ちになりました」

「……」

「本当に持ち上げたのは初めて見ましたけれども」

「……」


 ……いたたまれない!!


 私はものすごく反省していた。庭先で石像を持ち上げるのは淑女のやる事ではないことくらいは分かる。


 どうしよう、どうやって挽回しようかと頭を悩ませていると、ノアが、手を握る力を僅かに強めた。


「?」


 前を歩いていたマーサも足を止めた。


 ……長い廊下の向こうから、嫌な気配がやってくる。


 ゾロゾロと従者を引き連れて歩いてくるのは、謹慎中のはずの、アデルハルトだった。


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