44.おまけー戦略的撤退
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あーーーー!!!
扉の前でシュタイナーは蹲った。
よく耐えた。俺は偉い。
ああ、辛い戦いだった。少しでも狼狽えれば、戦略的撤退の陣形は崩れ、見る影もないみっともない敗走となっていたであろう。
心臓が、今になってばくばくと跳ねる。全身が火を吹くように熱い。
薄い扉の向こうで、かたんと音がした。水を飲んでいるのだろうか。
……あの扇情的な姿で、狭いベッドから起き上がり、とろんとした目で水差しを手に取り……柔らかい唇にグラスを当てて煽れば、白い喉元が上下する。口の端からこぼれた水滴を紅い舌でぺろりとなめとって、唾液を面倒そうに指先で拭う……
そんな様子をかすかな音に合わせて思い描いてしまい、シュタイナーは喉をごくりとならした。
(俺のせいか? 俺が甘やかしすぎたのか?)
シュタイナーが入門してから、リーゼロッテには、邪な目的を持つものは誰一人近づけさせなかった。リーゼロッテは、自分が強くて大きくて女らしくないからそんな目で見られないのだと思っているようだが、それは違う。
姿かたちの美しさだけではない。すっきりと真っすぐな瞳も、屈託のない笑顔も、気取らない声も、誰だって惚れるに決まってる。
年頃になれば、門下生の同年代の男、いや、それ以外もほとんどが、その姿にうっとりとした目を向けていた。
あまりにも人数が多くて、ある程度弱い者は放置せざるを得ない。そういう奴はリーゼに直接フラれていたが、後でシュタイナーにのされ、リーゼまでたどり着けなかった者達に憂さ晴らしされたりしていた。
リーゼロッテ嬢には近づくな。番犬に噛み殺されるぞ。
そう言われるようになるまで、シュタイナーは牙を研ぎ、吠え続けてきたのだ。
しかし、その結果がこの、全く無自覚な、危険な状態につながっている。
(一度ぐらい怖い目にあえば……いや、あわせてたまるものか)
さっきので少しはわかってくれただろうか。いや、明日には忘れているだろう。
楽しく飲んだなぁ、シュタインもいたなぁ、くらいしか覚えてない。
……乱れて顔にかかる豊かな髪、その間から覗く赤く染まった頬に潤んだ瞳、いつもは隠れている白い首元、柔らかい曲線を描く大きな胸。
強請るように伸ばされる気だるげな腕、甘い微笑み……
そんな姿を見せたことなど、リーゼは明日にはすっかり忘れている。
あああああああ!!!!
(どうせ覚えていないのなら……いっそ、あのまm……)
ごっ
シュタイナーはそれを考えまいと、自ら拳で頭を殴った。
リーゼロッテはこの先も、自分がすべてから守るのだ。
読んでいただきありがとうございます。
シュタインもいろいろ大変だなぁ。と、前回思いました。リーゼロッテは厄介な酒飲みです。
ストックがたまったので、次から隔日更新にいたします!
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シュタインはいいやつなんです。