40.おまけー見送り。
おまけ更新です。いつもありがとうございます!
「シュタイナー様! リーゼロッテ様! 頑張ってー!!」
アリシアは、堂々と進む騎馬を見つめながら、動悸息切れ眩暈火照りと戦っていた。気を抜くとふらついて見えなくなってしまう。こんなに尊い姿を一瞬でも目を離すなんて、絶対にあってはならない。
ヴィンツェルの横恋慕の噂。そんな、『実は前から好きだったんだー』なんて言う甘っちょろい話など、今日の姿をみればあっという間に吹き飛ぶであろう。
今日野次馬に集まった人々がそれぞれのコミュニティに広げ、やっぱりあの二人は誰よりもお似合いだと言ってくれるだろう。あの二人を引き裂くなんて、ヴィンツェルは敵である。
最近、リーゼは噂話の中心だ。以前からそうではあったけど、今までのような少し変わったご令嬢を遠巻きに楽しむような感じではなく、ご令嬢らしい恋の噂だ。
アリシアはリーゼに師事しているから、リーゼの話をいろいろ聞かれる。
良いところを説明しようと思うあまり興奮してしまい、だいたい途中でドン引きされ最後まで聞いてもらえない。布教は難しい。
ずっと追いかけていたコンテンツが突然有名になると古参が浮く。新規には優しくしているつもりなのだが、なかなかうまくいかない。
ちょんちょん、と、後ろから肩をつつかれた。振り返ると、だぼだぼのよれよれの服を着た落ちぶれた貴族のような若者が、野暮ったい眼鏡をかけてへらへら笑っていた。
「……何してるんです? 敵陣ですよ、私も敵ですよ、シュタ×リー過激派のリーダーですよ」
「ひどいなあ、友人の雄姿を見に来ただけだって。なにその、しゅたりーって。ヴィンリーとかもあるってこと?」
「……勘のいいガキは嫌いだよ」
ギリギリ淑女の言い換えは出来……ているだろうか?
本当にこれがメインヒーローなのだろうか。どうしてこんなチャラ男になってしまったんだろうか。私は、どうやってこれと、恋に落ちるのだろうか。落ちる気配は今のところないのだが。
前世で読んだこの話と現実はあまりにも違いすぎて何の参考にもならない。
いや、メインのストーリーにかかわる以外のことはだいたいそのままなのだが、リーゼロッテ、ヴィンツェル、シュタイナーは、別人すぎるのだ。
人のことは言えないのは分かっている。でもそれはつまり、この三人が、中身が別人のアリシアと同じくらい違う、ということだ。
貴族の娘としてのプライドと真面目さと傲慢さで、アリシアを追い詰めたリーゼロッテ。
名家の嫡男として、生まれながらに人生を決められて、鬱屈していたヴィンツェル。
孤独にさいなまれ強い力を欲して、闇の力に手を出したシュタイナー。
悪役令嬢転生ものみたいに、リーゼロッテが前世の記憶をもって二人を救ったのかと思っていたが、そうではないらしい。
「……ヴィーさん」
「何その略し方」
「今ここで正体がばれたらまずいでしょ」
「たしかに」
ヴィンツェルはチラチラと周りを伺う。周りはもう、「あの二人を引き裂くフォルクライっつーのはなんて野暮な奴なんだ!」というような雰囲気に満ち満ちている。
「二人応援するなら、身を引いた方がいいんじゃないですか?」
「いやあ、男は敷居を跨げば七人の敵ありっていうじゃん」
「は?」
「そのすべてをすり抜けて生きるにはね、いろいろ大変なんだよ」
「……」
「ま、シュタインも頭使ったみたいだし、僕にはもうどうしようもできないよ」
と、他人事のように呟いて、ヴィンツェルは一行が消えていった正門を見つめていた。
読んでいただきありがとうございます。
ようやく、全体の終わりが見えてきまして(といってもまだまだ続くのですが)、このままラストまで走っていきたいと思っております。
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