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敗北した女騎士は、破滅を回避した悪役令嬢らしい  作者: ru
第二章 デートは警邏から
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17.踊る騎士


 紹介されてステージの上へ。顔を隠しても手足が長くマッチョな身体付きだ。ステージでもなかなか見栄えがいい。


 ケインから借りた長い棒を携えている。獲物があった方が見栄えがすると踏んだのだろう。

 シュタインは槍術も得意だ。隙のない威圧感のある構えに、会場が静まり返った。


 音楽が始まり、それに合わせて棒をふる。


 楽団には、乗りやすい軽快な音楽を頼んでいた。その狙いは当たったようだ。お祭りの軽快な音楽は、シュタインの”ホンモノ感”を薄れさせて、威圧感や迫力をショーアップしていく。


 大男の軽やかな動きと重い技に会場が湧いた。

 そこそこウケていて、私はなんだかホッとする。


 もし全くだめだったら、どう慰めれば良いかとハラハラしていたのだ。


 だってこいつ、騎士なんだぞ? 大道芸人では無いのだ。ここは祭りのステージ、騎士団の飲み会ではないのだ。


 シュタインは、棒を頭上でぐるぐると回す。

 一瞬手を離すと端を持ち直して、ブォンと大きく振りながらジャンプした。遠心力で巨体が回る。バン、と着地と同時に構えてみせた。


 おおー!と、歓声が上がる。


 なかなか様になっている、が……

 しかし、これぞ優勝というほどの盛り上がりでは無い。


 何というか、……華がないのだ。


 歓声は大きく上がってはいるが、道場で聞くあの野太い声と同じである。

 よく見れば酔っ払った男たちにはものすごくウケているが、淑女の皆様にはイマイチである。


 うず、と、私は自分の腕を撫ぜる。


 いやいや、何を考えているのだ。淑女はこんなところで飛び入り参加したりはしないのだ。


 ……しかしもし、あの動きの中に、同じだけ動ける女が居たら……


 もう少し、イケるのでは?


 シュタインはおそらく、イメージの私を相手にしている。

 見ていると、合わせてどう動けばよいかが何となくわかるのだ。


 可愛いディアンドル。フレアスカートは回れば大きく円を描く。

 大きくジャンプすれば、花飾りのついたショールは妖精の羽のように広がるだろう。


 ……大丈夫、今日は中に長いドロワーズを履いている。


 いや、一応下着だし見えていいものでもないことはわかっているけど、隠してるところはズボンと同じだもんな!?


 そう考えたらもっと体がうずうずする。


 ……出て後悔するか、出ないで後悔するか?


 頭に被った花飾りのついたショールを、少し目深に被り直す。


 目が、棒切れを探す。シュタインの棒に合わせ得物があるほうがよい。

 ふと目についたのは、花屋の屋台。赤い実が付いた南天の枝。


 頭では、いやいや何を馬鹿なことを、と分かっている。だが、もう無視できないほど、胸がドキドキ高鳴っている。


「すみません、これを、これで」


 小銭を出すのももどかしく、巾着をそのまま花屋の店先に置いた。

 そしてちょうどいい枝を一つとり、私の足は、勝手に舞台に飛び込んだ。



 ++



「いやー、すごい盛り上がりだったねー!」


 ヴィンツェルがぱちぱちと拍手する。にこにこしながら言う。


「正体もバレてる気もするけどね。リーゼならしょうがないかなって空気になるよね」


 ……褒められ……てはいないよな?


 私が飛び入りして、それはそれは盛り上がった。


 南天の枝を短剣に見立てシュタインの棒の動きに合わせて振るった。打ち合ったら枝が折れてしまうから、くるくると避けながら、懐に飛び込んで胴を撫でる。細い枝は当たっても痛くないし、シュタインの動きは大きいので避けやすい。


 息を合わせていつもより派手に動く、動く。


 最後はシュタインの肩に飛び乗り、手を広げると、広場がドッと揺れた。


 拍手と歓声に、ものすごい達成感を感じたが、我にかえった途端に恥ずかしくなる。慌ててシュタインの肩から降りて、大きな背中の後ろに隠れた。


 そんな私の動きに、ピーピーと冷やかしの口笛が飛ぶ。シュタインはわざとらしく、姫君でも護るような仕草で私を後ろに隠し、歓声に手を振って応えた。


 賞金は辞退して、バッドキャットの子供だけ引き取った。飼えないらしいので、今度仲間が住んでいる洞窟まで連れて行ってやろうとシュタインと話す。


「ちびー、良かったなぁ」


 小さな檻の中のキャットバットに声を掛けると、ニャウ、と返事をする。可愛い。

 言葉も通じているような気がする。人語を解するほどの賢い魔物では無かったと思ったが。こんなに賢そうなのに、本当に懐かないんだろうか。


「抱っこしてもいいかなぁ」

「大丈夫じゃないか? さっきヴィンツェルも抱き上げてたし」


 シュタインもそういうので、ウキウキしながら檻の扉を開けた。


「おいでー」


 手を伸ばしたその時、


「え?」


 ちびは私の手をすり抜けた。

 確かに触れたと思ったのだが、手には何の感触も残っていない。


「あれ?」


 相手はこの私である。普通の御令嬢と一緒にしたら、御令嬢に失礼であろう。バッドキャットよりも素早いブラッドスワロウだって、空中で斬れる。


 小さいから見失った?


 いやいや、私は飛んでいる羽虫だって箸で掴めるのだ。バッドキャットはそういう術が使えただろうか?


 振り向くとシュタインもあっけに取られている。


「俺も、咄嗟に掴んだと思ったのだが」


 二人でぽかんと、ちびが逃げた方を見る。小さな細長い尻尾が、通りを挟んで向かいの角に飛び込んだ。


「追いかけるか」


 角まで来てみたが、ちびはもう見えなかった。


「いないな」


 道に乱雑に置かれた荷物を覗きながらシュタインが言う。

 どこかに隠れてしまったのだろうか。


「あんなにすばしっこければ、捕まらないだろ。巣に戻れるといいなぁ」


 私は早々に諦めた。どのみち放すつもりだったのだ。抱っこ出来なかったのは残念だが、毛皮と魔石にされないならいいだろう。




「逃げちゃったの? 二人から逃げるなんて、実は凄いやつだったね」


 広場に戻ると、ヴィンツェルは驚いたようだった。


「無事に巣に戻れるといいけどなあ」

「ほんと、どこから来たんだろうね。町中に出るような魔物じゃないのになあ」

「猫みたいなのに。抱っこしてみたかったなぁ」

「ああ、じゃあ、猫がいるカフェにでも行く?」


 猫がいるカフェ? 最近はそんなものがあるのか。

 面白そうだな、と思ったら、


「リーゼ、俺たちはそろそろ行こう」


 シュタインがそわそわと落ち着かない様子で、私の手を引いた。



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