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箱庭の火の鳥  作者: ゆくかわ天然水


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091.四角い悪夢

外部世界からの干渉により誰の目にも明らかな直接的被害が、いずれ生じることは予想はしていた。

そしてそれは現実になった。


ある洋菓子店で起きた奇妙な事件。

そのニュースを見て、ついにそれが始まったことに気づいた。


通常の破壊工作や自然現象などではない。

外部世界からの干渉によるこの世界の書き換えだった。

意図的な攻撃、と言っていいかもしれない。


場当たり的で適当なものではなく、いままでにない巧妙な手口。

それはつまり、それだけ詳細にこの世界の構造が知られているということ。

より大きな影響がすぐに出てくるはず。


(急がなきゃ…)


不安が募り、焦る気持ちで落ち着かなくなる。


◇


空間が消滅した場所から干渉の痕跡を辿る。

やはりこちらの世界から情報が流出して、それをもとに直接的な操作が行われているようだ。


いずれかの侵入者が情報を流出させているはず。

それを特定して削除すれば、少なくとも一時的にはこの干渉を止められるはず。

しばらくの時間稼ぎにしかならないかもしれないけど。

もっと根本的な解決のためには、干渉経路の封鎖を完了しないと…。


空間を消滅させた干渉とは別の経路になることもあり、情報の流出元の特定には時間がかかった。

流出のさせ方も次第に変化しており、それを追って行くのは骨が折れた。


そしてその結果は、信じたくないものだった。

微かな痕跡を注意深く辿った末に見つけたもの。


(玲奈さん…が?)


数少ないわたしの友人がその侵入者だった。

そのようなことが起こりうることはもちろん理解していた。


外部世界からの侵入者は、この世界にいてはならないもの。

しかも今回のものは直接的な破壊行為の原因になっている。

すぐにでも排除しなければならなかった。


(わたしが玲奈さんを消すの…?)


そういうこと。

いままで何度もやってきたこと。

この世界とみんなを守るためであり、それがわたしの役割。

やるべきことは明確であり、それ以外の選択肢はない。


めまいがする現実だった。


北山くんが紹介してくれたわたしの数少ない友人を、わたしが葬らなければならない。

彼女は北山くんにとっても大切な人なのに。


こんなこと、玲奈さん本人に話せるわけがない。

そもそも話したところで、彼女は信じないだろう。


—— みなちゃんの手にかかるのなら本望よ♡


なんてことを笑いながら言いそう。

だけどこれは冗談でもなんでもない話。


侵入者の機能だけを無効化して玲奈さんの人格だけを残すことができればいいのだけど、それは不可能なことだった。

本体である機能を止めれば、それに付随する人格も止まってしまう。


玲奈さんはたびたび遊びに誘ってくれていた。

いつだって楽しそうで笑顔がいっぱいで、陰気なわたしとは正反対だった。

だけどもう、わたしは彼女の顔を真っ直ぐに見ることができない。

彼女の声を聞くだけで、泣きそうになる。


(早くしないといけないのだけど…)


その決心をなかなかつけられない。

彼女の絵のように美しく眩しい笑顔と、透き通るように明るい声を、わたしがこの世から消し去ってしまうのだ。


何度も干渉の痕跡を確かめた。

結果はいつも同じだった。

信じたくない結果。

知りたくない見たくない事実。


新たに見つかった侵入者。

すでに大量の情報を外部世界に送っている。

次の干渉にそれがどれだけどのように使われるかはわからない。

だけど阻止しなければ、状況がより悪化するのはわかっている。


やるしかなかった。

手と脚が震えてくる。


こんなことをもう、彼には隠し通せないとも思い始めていた。

わたしのやっていることを理解して受け入れてくれるだろうか。


これまでにも非常識なことを話してきたが、でもそれらはこの世界がどうだとか客観的なことのみで、わたしの責に帰するようなことではなかった。


今回は、わたし自身が意図的にやっていること。

しかもそれは凶悪な犯罪とも言うべきもので、残酷な結果を引き起こしてきた。


彼もわたしがなにかを抱えていることに気づいているようだった。

それとなく話すように促してくる。

でも話していいのか、どう話せばいいのか、気持ちの整理がつかない。


もう、いつまでも先延ばしはできない。

いますぐにでも、もっと大きな被害が出るかもしれないのに。


—— いつか約束したけど、ぼくはきみのそばに、いるから


この言葉を、信じたかった。


わたしは彼に正直に話した。

玲奈さんのことも、これまでの失踪事件のことも。

かなり動揺しているのが分かった。それは当然のこと。

世間を騒がせていた失踪事件の犯人が目の前にいて、さらに仲のいい友人をこれからその犠牲にすると言っているのだから。


そんな話をしてる最中に、懸念していたことが起きる。

お店のテレビから流れる、ツインタワーの片方が消滅したとのニュース。

一緒にいた他のお客さんや店員さんたちは、みんな呆気に取られている。

これまでにない大規模な干渉。かなりの数の犠牲者が出ているはず。


もっと早くすべきだった。

わたしがぐずぐずしていたばっかりに。


待ち合わせに来た玲奈さんは、いつも通り明るくて元気いっぱいだった。

北山くんとは本当に仲が良さそう。


三人で公園の中を歩く。遠くでは街の光が静かに瞬いている。

このまま一緒にお洒落なレストランで楽しく食事して過ごせたら。

そんな願望は脳裏から追い出す。


そして彼が見る前で、玲奈さんをこの世界から消し去った。

彼の目にはわたしの姿が、悪魔に見えたかもしれない。


わたし自身、一線を超えてしまったような気がした。

人の人格を持ちながら人の心を失ったような、もう後戻りできないところまで来たのだと思う。


彼がどう思ったのかは、わからない。

事前に話はしたけれど、それでも衝撃ではあっただろう。

受け入れられずわたしから離れて行くのであれば、わたしがそのことを受け入れなければならない。


わたしは孤独にこの役割を続けて、それに耐えられなくなったら、自分でこの世を去るだろう。

決められた運命なんてものは嫌だけど、精一杯抗ってその行き着く先が悲しい結末なのはあり得ること。


そうなったとしても最期の瞬間に、生きてよかったと思えるなにかが一つでも心に浮かべば、わたしはそれが自分の幸せだったのだと、胸に抱いて消えていけるだろう。



そんな未来は、絶対に避けたいけど。

こんなの、絶対に嫌だから。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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