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箱庭の火の鳥  作者: ゆくかわ天然水


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084.火の鳥

物心がついた頃から持っている記憶というものがあった。

不思議なことなのだが、自分は何者なのか、やるべきことが何なのかがわかっていた。


それがなぜそのように決まっていたのかはわからない。


しかし自分が他の人々とは異なる存在であること、普通でない能力を持つこと、なすべき使命があることは理解していた。


それは本能なのか天命なのか。

鳥たちが自然に空を飛び、自分たちが行くべき場所へ渡っていくような、そんな感覚だろうか。


わたしにつけられた”Phoenix”という名称。

誰がいつそう決めたのかもわからない。

ただわたしの中には、常にそれがあった。


他の人にはない記憶や知識があった。

これまで経験したこと考えたこと。

この世界のこと、それとは違う現実世界の存在とそれについてのこと。


この世界が再起動しても、それらが失われることはなかった。

他の人々が記憶を失っていても、わたしは全てを覚えていた。


この世界を守ることが、わたしの役割だった。

その方法もわかっていた。そのための力も持っていた。

わたしだけが持つ炎の翼は、わたしの象徴であり責務でもあった。

そうすることが当然ことに思われた。


それは、鳥が空を飛び、魚が海を泳ぎ、木々が花を咲かせ実をつけるようなものだっだ。

なぜそうなのか、についての知識まではなかった。

桜の木がなぜ春に薄紅色の花を咲かせるのか。桜の木自身はその理由を知らないようなもの。


その中には、過酷な役割もあったけれど。



人が知らないことを知り、人にはない記憶があるわたしは、人からは不自然な存在に見えただろう。


自分でも根拠を知らない使命があり、能力があり、謎の炎の翼があるわたしは、自分でも人から外れた存在であることはわかっていた。


自分のことを人に話すことはできなかった。

そうしたところで、全く理解されないことはわかっていた。


それどころか、異端扱いされるかもしれない。

そこまででなくても、おかしな人、という扱いにはなるだろう。


人と積極的に関わろうとはしなかった。

孤独といえばその通りだけど、それが不幸とは考えていなかった。


大きな群れを作って生活する鳥がいる。

一方でただ一羽で大空を舞う鳥もいる。彼らは孤独だろうか。

ひとりではあるけれど、不幸ではないと思う。

広い草原にただ一本だけ立つ木は、むしろ力強く見えた。


わたしはひとりで生きていくのだと、それが自然なことなのだと思っていた。



わたしにはこの世界の裏側が見えた。

裏側というか、中身と言った方がいいかもしれない。

普段わたしたちが見ているのは、表面的な視覚映像。

その裏にはその中身がある。

それはわたしたちの世界の内部構造。

この世界の本当の姿。

普通の人には見えない、そもそもそんなものがあることも知りえないもの。


それを見ることで、この世界の仕組みや動作を知ることができた。

からくりや手品のタネ明かしを見るようなものだろうか。

そこにはこの世界で起きることの因果関係が構築されていた。


人の記憶や心の中までは直接見ることはできなかった。

にもかかわらず、内部構造に手を加えることでそれらにも影響をおよぼすことはできた。



この世界で起きている異変も、知ることができた。

この世界とは別に外部世界があり、そこから干渉を受けていることも知った。

外部世界というものがどんなものなのかまでは、わからない。

ただその存在自体は、確信が持てるだけの根拠があった。


外部世界からの干渉。

それは何者かが意図してやっていることなのか、それとも自然災害のようなものなのか、それも詳しくはわからない。

しかし外部からの干渉により、この世界の中の、さらにはこの世界そのものの存在に害をなすものであることは理解できた。


そしてさらには、いずれそれがこの世界に深刻な危機をもたらす可能性があることも容易に想像できた。



干渉は、最初は些細なものだった。

ただ外部世界の存在を示唆する程度のものだった。

秋風が金木犀の香りを運び、窓辺のカーテンを揺らすようなものだろうか。

外部世界の存在が気になりつつも、脅威を感じることはなかった。

海の向こうの遠い国からやって来る船が水平線の上を行き交うのを眺めて、それに興味が惹かれるような感じだった。


やがてそれが、この世界に具体的な作用をおよぼすようになる。

風は嵐となり、危険なものまで運んでくるようになった。

彼方からやってきた異国の船は黒船で、大砲をこちらに向けていた。


その干渉からこの世界を守らないといけない。

干渉の痕跡を辿り、その経路を封鎖する。

それが基本的なやり方。


干渉が行われた際に、なんらかの遺留品というか残留物が残されている場合があった。

放置しておくとこの世界に害をなす可能性があるため、消しておかなければいけない。

だけどそれがわたしを大いに悩ませることになった。

ものではなく、人である場合があったからだ。

それを侵入者と呼んでいた。



それらをどうにかすることが、自分の役割であることは理解していた。

だけど、根本的な疑問がついてまわる。


どうしてわたしなのだろう?

どうしてわたし一人なんだろう?

他の誰もがなにも知らないのは、なぜなんだろう?

この世界の全体に関わることなのに。

みんなの生活に人生に影響することなのに。


運命というものだろうか。

神の思し召しとでもいうのだろうか。

それともただの偶然だろうか。

運が悪かったのか良かったのか。


この世界とみんなの生活を守らないといけないのはわかる。

それが危険に晒されるのなら、誰かがどうにかしないといけないのもわかる

もし防波堤に意識があれば「なぜ自分が防波堤なのか?」なんて考えるのだろうか。


なんてこと考えたところで、わたしがやることが変わるわけではなかった。

他に選択肢があるわけでもなかった。

わたしの意思とは別に、わたしがやるべき役割は決まっていた。


あれこれ考えても意味がないということなのかもしれない。

ただ決められた役割をこなしていれば、それでわたしの存在する意味があるということなのか。


それはむしろ気楽なのかもしれない。

既定のことに従うだけであれば、迷う必要がない。

敷かれた線路の上を走るだけ。それが正しい道なのであれば。

誰がそれを、なぜそのように決めたのかもわからないとしても。


わたしはいつも一人だった。

だけどそれは孤独ではなく不幸なことではないと、思っていたけれど。

思おうとしてはいたけれど。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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