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【2月末完結予定・毎日更新】わたしのことだけ忘れるとかひどくない?燃やしたら思い出すかしら。  作者: ゆくかわ天然水


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072.どっちの水菜月が…

夜の空を舞うオレンジ色の光が脳裏から離れない。

一方でそれが現実だったとも思えない感覚が錯綜していた。


冷静に考えてあり得ないもの。

人が炎の塊のような鳥の姿に変身して空を飛ぶなんて、現実と夢の区別がつかなくなっているのだろうか。

なんて気もしてくる。

誰かに相談したところで、例のごとく心療内科に行けと言われるんだろうけど。


だけどあれは紛れもなく現実。

ぼくは確かにそれを見た。


水菜月とよく話そう。

ぼくは彼女のことを理解したい。

驚くようなことがきっともっとあるとしても。


彼女は本当に何者なのか。

そう言うぼく自身も何なんだろう。


ぼくがこの世界について知っているのは半分だけ。

多くの人がぼくと同じ。

水菜月はなぜか残りの半分も知っている。

その彼女がぼくに関わってくると言うことは、ぼくも知らない半分に片足をつっこんでいる。


これからなにかが起きていく。

それは見たくないようなことかもしれない。

そうだとしても、この世界とぼくたちについて知ることになるのだろう。



今日は学校帰りに水菜月と一緒だった。

校舎の外はいまにも雪が散らつきそうな曇り空。

吹く風も冷たい。


「早くいこっ」


寒いのが苦手で甘党の水菜月がせかしてくる。


大通りを下って中央駅へ向かう。

水菜月がいつもより早足なのは寒いからか、目的地が呼んでいるからなのか。


駅近くの広い歩道にある階段から地下へ降りていく。


中央駅の地下街。

平日だからかそれほど混んではいなかった。

白色が基調の床と壁と天井を、LEDの照明が明るく照らす。

両側にさまざまな店舗が並ぶ中を二人並んで進んでいく。


駅ビルの真下あたりが吹き抜けの広い空間になっている。

その一角にある少し前に新しく出来たチョコレートの専門店。

有名な海外ブランドのお店らしく、お洒落だけどちょっと高そうな雰囲気。

店の隣がイートインになっていた。


水菜月がお品書きとショーケースを食い入るように見ている。

彼女が眉間に皺を寄せる姿はあまり見たことがない。

店員さんも声をかけづらそう。


オーダーを済ませて空いている席に座ると、程なくして品が運ばれてくる。

水菜月の表情から上機嫌が溢れてる。


「いただきます!」


そう言って盛り盛りなチョコパフェを細長いスプーンでつつき始める。


甘いものが苦手なわけではないのだが、そんなにたくさん食べるものではないだろと思うぼくにとっては、パフェという食べ物はなかなか手が出ない。

が好きな人にとっては至福の一品なんだろうな。


周囲にも水菜月の同類と見られる客が多数いた。

というかそんな客ばっかりだった。

当然かもしれない。ここはスイーツの店。


ここ数日の間、脳内を占拠していた質問をしてみる。


「どちらのきみが本来のきみと考えたらいいんだろ」

「人か火の鳥かって話?」

「うん」

「どっちも」


予想というのは意外に当たるものだ。

それも望んでいない結果を予想した場合には特に。

そんな悩ましい答えが返ってくる気がしていた。


「両方ともわたしなの。コインの表と裏みたいなものかしら」

「どっちが表?」

「どっちも」


二つの小皿に洒落たチョコが、ぼくが三粒で水菜月が十粒。


「どちらかを選びたいのなら、あなたが好きな方を本来のわたしとしていいよ」


水菜月らしい回答がつづく。

両肘をテーブルについて両手で顔を包みながら、ちょっといじわるな目でこっちを見てくる。

右手にはパフェスプーン。


「どっちのわたしがいいの?」

「どっちも」


ふふっと笑ってまたパフェをつつき始めた。

こう言った仕草も、しばらく前までは見られなかったのだが。


海沿いの公園で見た巨大な火の鳥。夜空を舞うオレンジ色の光。

その正体は目の前の少女が変身したもの。

なんてやっぱり実感が湧かない。


「どうしたの?人の顔をじっと見て。見惚れているの?」


最近、やっぱり水菜月が玲奈っぽく感じるのは気のせいだろうか。


「この前は…驚きはしたけれど、水菜月のことを知れたのはよかったと思う」


水菜月は俯いている。


「ぼく以外にあのことを知る人がいないというのは、ぼくだけが知っているというのは、よろこんでいいことなのかな」


その質問には、水菜月は答えなかった。


「自分がそうであることにいつ気づいたの?」

「初めからわかってたよ」

「人と違うということは?」

「それも同じ」


ストローでグラスの氷を回す。


「わかってたよ。初めから。わたしだけ違うってこと」


別の気になっている質問をしてみる。


「あれってどういう仕組みなの?」

「仕組み?」

「あの変身」

「それは…どうなっているのかは自分でもよくわからないの。なにも特別なこともなく自然に出来てしまうから」


事もなげに話す水菜月。


「普通じゃないことをやっているのは分かっているんだけど、手のひらを開いたり閉じたりするのと同じような感覚」


他の人とは根本的に違うのか。


「いろいろ理解しがたいことはあるんだけど…でも水菜月のことを理解したいとは思ってる」


水菜月の表情が少し緩む。


「…うん」


それができるのは、ぼくしかいないだろうし。


「これからたぶん、いろんなことが起きると思う」

「いろんなこと?」

「うん。事件というか、信じられないようなことがきっとあるから」


さっきまでとは違って沈んだ表情で話す。


「それは誰にでもわかるようなこと?」

「そういうのがやって来るよ。そんな先じゃないはず」


なんらかの予兆か気配を感じているんだろう。

心の準備をしておくようにということなのか。


ぼくの小皿に一粒残ったチョコを水菜月がじっと見ている。

水菜月のパフェと小皿はすでに完食。


「…どうぞ」

「ありがとうっっ」


どういたしまして。


以前に比べて水菜月は表情と感情が豊かになったと思う。

心を開いてくれるようになったと考えていいだろうか。


店内は若い女性客が殆どで、数少ない男性客も女性を連れている。

ぼくもその一人ということになるんだろうけど。


うちの学校の制服もちらほら見かけるのだが、みんな女子生徒。

ということに気づくと、急に場違いな感じがしてきて居づらくなってきた。


「なにそわそわしているの?」


気付かれた。なんでそんなに勘がいいんだろう。


「男だけだと来にくい店だな、なんて思って」

「いいじゃない。かわいい女の子を連れているんだから」


やっぱり玲奈化してる。



どちらも水菜月。コインの両面。そしてどちらも表。

深く考えなくてもいいのかもしれない。

ぼくがそれを受け入れるのなら。


彼女を拒絶するなんて選択肢は、そもそもなかった。

それがなにを意味するのかは、考えないでおこう。

考えたところで、なんの結論にも至らないだろうし。


なにがどうなったところで、ぼくは水菜月のそばにいるつもりだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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