059.玲奈と二人で
再び高台のカフェ。
「七州くん。彼女乗り換えたの?この前は引き継ぎ会か」
「違います。二人とも友達ですから」
また店長がすかした顔で声をかけてくる。
今日は玲奈と二人で来ている。いつもの窓際のテーブルに向かい合って座る。
窓から見えるのは澄んだ冬の青い空の下に広がる街並みと、その向こうで日の光が海面に反射してキラキラしている。
「でも学校の外で二人で会うなんて初めてだね〜☆うれしいでしょ?大好きな玲奈ちゃんとデートだなんて」
普段は水菜月が座る場所に玲奈がいるのが、なんとなく落ち着かない気分。
玲奈は今日も上機嫌だ。
だけどなんというか、やっぱりやめとくべきだっただろうか。
「玲奈がまた来たいと言うから連れてきたのだが」
「みなちゃんとはここでいつもデートしてるの?」
「デートではありません」
「じゃあなんなのよ」
「待ち合わせして二人でお茶したり」
「デートじゃないの」
客観的にはそうなるのかもしれないが、あれはそんな楽しい話じゃない。
なんてことは玲奈に言えないので、話題を逸らす。
「今日は水菜月のことが聞きたかったんじゃないの?」
「察しがいいね。話が早くて助かるわあ」
「ぼくもあんまり知らないんだけど」
「そんなはずないでしょ。よく会ってるじゃないの?」
「いろいろ謎が多くて」
「あ〜そんな気がする」
「とりあえず甘党。パフェとソーダフロートをよくたのんでる。ちょっと人見知りというか、初対面の人と話すのは苦手みたい」
「趣味とかは?」
「知らない」
「週末なにしてるかとか」
「知らない」
「部活とか」
「なにもやってなさそう」
「得意科目とか」
「コンピューターサイエンス関連に興味あるとは言っていた」
「好きな作家とか音楽のジャンルとか」
「知らない」
「好きな内臓とか」
「何だその質問」
「なんで知らないのよ。もう、だめね〜」
「自分で聞けば?」
「そうする」
玲奈は好きな内臓があるのか。
医学系の人たちはそんな話題で盛り上がったりするのだろうか。
膵臓のランゲルハンス島に萌えるとか。
「このまえ聞けばよかったのに」
「そうなんだけど、自分の話ばっかりしちゃったから」
「水菜月がそんなに気に入ったの?」
「というか、あまり見かけないタイプの子じゃない?北山くんも謎が多いって言ってたけど」
それは正しい。
本人が話していることが事実だとすれば、ほとんど救世主か預言者。
「とても魅力的な子だとは思うんだけど、それ以上に興味が湧くと言うか」
「北山くんはどうしてみなちゃんと仲良くなったの?」
どう説明したらいいんだろう。
ぼく自身、本来の経緯を覚えていない。
「知り合ったきっかけは、下校途中にたまたま見かけて」
「え〜ナンパ?ナンパなの?美人だから声かけた?」
「いや最初に声をかけてきたのは水菜月の方で」
「逆ナンパ?逆ナンパなの?ありえなくない?」
「ナンパではない。断じて」
最近の出会いに関してであれば、先に声をかけたのは水菜月というのは間違っていない。
「じゃなんなの?」
「横断歩道で危ないところを助けてもらったと言うか」
「ぼ〜っとしててクルマに轢かれそうになってたのね。それならわかるわ」
それで納得するのか?
「で助けてもらったお礼にパフェをおごるからと言ってナンパしたと」
「それはちがう」
「みなちゃんは北山くんのどこが気に入ったの?」
「別に気に入られてないと思う」
「そんなわけないでしょ。あの子、感情表現控えめだけど、どう見ても北山くんを意識しているようにしか見えないけど」
意識はしているかもしれないけど、楽しい理由ではないと思う。
彼女がやることをやるために、ぼくが必要になりそうってだけのことだ。
「ね〜橘香さんもそう思うでしょ?」
いきなり店員を巻き込むんじゃない。
「ええ。あの二人がアツアツなのはここではみんな知ってますから。去年の花火大会の時なんか…」
あわてて両手を振って橘香さんを制止する。
「ちょっと北山くん。なにしてるの。わたしが橘香さんの話を聞いてるんだけど」
「いやあれは事故なんだ。そう言う話じゃない」
「…へぇ」
怪しい笑みを浮かべる上岩瀬玲奈。
「橘香さん。あとでゆっくりお話しましょうね〜☆」
アッシュグレーのボブが手を振りながら笑顔で去っていく。
「連絡先交換してもらおっと」
まずい。花火大会のあれはまずい。
「あの、上岩瀬さん」
「これから毎日毎食後に『ごちそうさまでした玲奈ちゃん大好き♡』と元気よく言うのなら、頼みごと聞いてあげる」
なにその罰ゲームじみた条件。
「なによその嫌そうな顔。ほんとのことでしょ?」
◇
「ええ〜!!二人で人前でそんなことしてたの!!花火大会のときに?ダ☆イ☆タ☆ン☆」
…店長。口軽すぎ。
「いやあ、見ているこっちが恥ずかしくなるほどだったよ。最近の若い子はすごいねえ」
「玲奈。頼むから学校では内緒にしておいてくれ」
「そうね。このネタは使い所をよく見極めないとね」
使わなくていいから。
「でも北山くんだけずるいわ。わたしもみなちゃんとハグしたい」
やっぱり百合なのか?
「前から気になっていたのだが」
「なによ」
「『☆』ってどうやって発音するの?」
「そんなの☆じゃない」
「『♡』は?」
「♡よ」
ふ〜ん。
「で水菜月のことをリサーチしてどうするんだっけ?」
「こんどみなちゃんをデートに誘うの」
「水菜月と仲良くしてくれるのはいいけど、あまり過激なことするなよ」
「人目も憚らずにハグするような人に言われたくないわ」
「あれは事故なんだ」
「じゃあわたしも事故を起こそっと」
「事故ってなにするつもりだ」
「アクシデントだからなにが起こるかわかんない。みなちゃんのくちびる奪っちゃうかも」
「ハラスメントじゃないのか」
「嫌なら北山くんが先にしちゃえば?」
頭が痛くなる。
「そういう関係じゃないんだ」
「まずはわたしで練習してみる?」
「しません」
玲奈がケラケラ笑いながら梅昆布茶を飲んでいる。
ちなみにここの店は梅昆布茶がマグカップで出る。
「そういえば」
玲奈の目が怪しく光る。
なにか良くないことを思い出したらしい。
「この前言ってた『手を取って目を見つめて甘いイケボで愛の告白』をしてもらってないわ」
「忘れろ」
「ええ〜ひっどーい。今日はそのために来たのに」
「そう言うことは好きな人にしてもらいなさい」
「北山くんのこと好き♡」
両手の指を胸元で組んで声のトーンが高くなる。
「まったく心がこもってないし」
「北山くんて確か」
さっきまでと打って変わって玲奈の声のトーンが真面目モードになる。
梅昆布茶の入ったマグカップをテーブルに置いて話を続ける。
「彼女いたよね?」
有希葉のことを言わんとしているのがわかった。
「彼女というわけでは」
「でも大沢さんとはずいぶん親しい印象だけど」
「ゆきも水菜月のことは知っている」
「そうなの?北山くんとみなちゃんの関係って、大沢さんが納得するようなものには見えないけど」
「…」
「去年の花火大会の時もクリスマスもみなちゃんと二人でここに招待されてたんでしょ?それも大沢さんは知ってるの?」
二人でコンサートにも行っている。
「…いずれきちんと話すよ」
「やっぱり曖昧なままなのね。本人たちがどんなつもりだったとしても、側から見て二股しているように見える状態はよくないと思うよ。北山くんが信用を失うから」
たびたび二人で会っていれば、側からはそう見えるだろう。
だけど水菜月とぼくは、厄介ごとに巻き込まれているだけで、本当は友達ですらないのかもしれない。
もしなにもなければ、他人のままだっただろうし。
有希葉にはどう話すのがいいのか、いまでも考えはまとまらない。
親しいといえばそうなのだが。
かと言ってそれ以上でもないのだけれど。
過去のぼくはどうしていたんだろうな。
有希葉のことは覚えているけど、有希葉に水菜月のことをどのように話していたのかは思い出せない。
水菜月を覚えていないのであれば、当然のことかもしれないが。
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