058.水菜月と玲奈
週末の午後。高台のカフェ。
今日はいつもとは違う雰囲気。
賑やかというか、落ち着きがないというか。
玲奈が水菜月と話したいと言うので、今日は珍しく三人で来ていた。
窓際のテーブルに玲奈と水菜月が向かい合って、その横にぼくが座る。
「七州くん。彼女もう一人増えたの?モテるね」
「違います。二人とも友達ですから」
店長がすかした顔で声をかけてくる。
「上岩瀬玲奈です。北山くんの本命彼女ですっっ☆」
玲奈がいぇ〜いみたいな顔して自己紹介している。
「それは違う」
はっきり否定するが、七州くん忙しいねえ、とか言って高笑いながら店長が去っていく。
「あんなこと言って。わたしのこと大好きなくせに」
玲奈が勝ち誇った顔で笑っている。
「玲奈のことが好きなのは認めるけど、断じて恋愛的な意味ではないから」
「ほんとかなあ?」
「早く彼氏作れ」
「わたしにはみなちゃんがいるから」
「さっき本命彼女とか言ってなかったか?」
水菜月が明らかに困惑している。
百合なのか?やはり玲奈は百合なのか?
「どのくらいわたしのことが好きなの?」
「大好きだよ」
「人前で愛の告白をするなんて」
「だから断じて恋愛的な意味ではないから」
「いまのところだけ切り取ったらとてもそうは思えないよ」
「そんなことはない。言葉に恋愛感情がこもってない」
「じゃあわたしの手を取って目を見つめて甘く囁いて。イケボで」
「なにをさせようとしている?」
水菜月の呆れた視線が突き刺さる。
「さあ、は・や・く♡」
玲奈が左手で頬杖をついて、右手を差し出して笑顔で要求してくる。
「あのですね、上岩瀬さん」
「なんでできないのよ。みなちゃんの前だから?」
「そうじゃなくて」
「もうなに照れてんのよ。まあいいわ。続きは今度二人っきりの時にね」
「しませんから」
「じゃあ次の質問。わたしのどこが好きなの?」
「きみは今日、水菜月と話がしたかったんじゃないんだっけ?」
「そうだった」
「いつからみなちゃん呼ばわりになったの?」
「今日から」
「水菜月はいいのか?」
「…ええ、まあ」
相変わらず人見知りな水菜月は伏し目がち。
この二人、うまくやれるだろうか。
橘香さんがオーダーを取りに来る。
玲奈がまた本命彼女だとか言って自己紹介するので断固否定する。
「七州さん、いろいろ楽しそうですね」
とか言ってふふっていつもの上品な笑いを残しながら去っていく。
「梅昆布茶?」
「いいじゃない」
玲奈は水菜月を話したいと言いながら、ひたすら自分の話をしている。
だけど水菜月もそれに笑顔で応じていて、まんざら嫌でもなさそう。
二人が仲良くしてくれたらいいのだけど。
「玲奈ってなんで茶道を始めたの?」
「お淑やかなわたしに相応しいから」
会話を終了しようか。
「なんてね」
違うのか。
「気持ちが落ち着くからかな」
確かに普段は落ち着きがなさそう。
「なにか失礼なこと考えてない?」
「まさかそんな」
心が読めるのか?
「静かな空間で和菓子をつついてお茶を飲むなんて、争いごととはかけ離れた感じがしない?主人は客人をもてなすため、客人はもてなしを受けるためにやっているのだから」
玲奈が真っ当なことを話している。
「振り袖は?」
「麗しくて芳しいわたしに相応しいから」
まあ似合うけどね。だけど自分で言う?
水菜月はリアクションに困っているようだ。
微妙に引きつった笑いが顔に浮かんでいる。
◇
「大したものだな」
「大したもの?」
トイレの帰りに店長に捕まる。
窓際のテーブルの方を見ながら話しかけてくる。
「あの二人、七州くんの学校でも屈指の美人じゃないの?あれだけきれいな子たちってそんなにはいないだろ」
二人とも整った顔立ちをしているとは思うけど、それについてはあまり気にしていない。つもり。
「他の男の子たちにうらやましがられない?」
「そうでもないですね。うちの学校の男子はあまり興味がないか奥手が多いみたいで」
「まあモテるのはいいことだけどね」
「いやあのたぶん扱いやすいか楽なだけで、別にそういうわけではないですよきっと。ぼくにモテる条件が揃っているとは思えないし」
「女の子にモテる条件?最低限のこととしては、安心感じゃないかな?男の方が体が大きいし力も強いんだから、女の子たちは少なからず怖さを感じるものだよ」
女の人って十分強いと思うのだが。
「七州くんは、女の子から見て安心できるキャラではあると思うけどね」
まあ不安に思われないというのはいいことではあるが。
安心感が大事と言うのはそうかもしれない。
男から見ても長い付き合いになるのであれば、安心できる女性がいいとは思う。
「で」
「え?」
店長がカウンターから乗り出してくる。
「どっちが本命?」
そうじゃなくて。
◇
席に戻る。
そのあとも玲奈の一方的な話が続いた。
水菜月もそれを楽しそうに聞いている。
ぼくは別にいなくてもいい雰囲気。
洒落たお店の窓際の席。ガラスの向こうは透き通る青空。
店長が言うように、確かに絵になる二人だった。
いなくてもいいというか、むしろぼくは場違いだったかもしれない。
店を出ると、三人並んで坂道を降りていく。
駅の改札でぼくは二人を見送った。
◇
夜。水菜月と電話で話す。
「今日はなんかごめん」
『どうして?楽しかったよ』
「この前のお茶会で玲奈も含めて茶道部の人たちが、なぜか水菜月をずいぶん気に入ったみたいで」
水菜月が微かに笑う声が聞こえる。
『わたしがあまり友達いなさそうだから、気をつかってくれたんでしょ?』
「まあ、そうなんだけど。お節介になってなかったらいいんだけど」
『そんなことはないよ。うれしかったから』
そう言ってくれると助かる。
「玲奈はちょっと悪ふざけするところあるけど、とてもいい人だから。たぶん」
『たぶんなの?』
「いや、いい人だよ。とても」
電話の向こうでまた微かに笑う声が聞こえる。
一抹の不安がないわけではないけれど。
『北山くんは玲奈さんが好きなんでしょ?』
「そうだけど、でも恋愛的な意味じゃないけどね」
また微かな笑い声。
『じゃあいい人だね』
水菜月も玲奈を気に入ってくれただろうか。
あまり会話になっていなかったような気がしないではないが。
水菜月との電話の後、玲奈からメッセージが届く。
今度はぼくと二人であのカフェで話がしたいって。
学校ではたびたび話すことはあるけれど、校外で会ったことはなかったな。
何の話だろう。
あまりいい予感がしないというか、めんどくさい予感。
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