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【毎日更新・学園ラブコメSFまたはファンタジー・文庫本3巻分目標】5010.The Phoenix - 箱庭の火の鳥  作者: ゆくかわ天然水


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005.前世とかってちょっとなに

もやもやしたものを感じつつも、彼女が何者なのか知りたいという思いはあった。

それにあれが何らかのトリックなのであれば、どうなっていたのか知りたい。

もしそうだとすれば、かなり巧妙な出来栄えだった。


あれが現実なのであれば、なおさら知りたい。常識的にはとても信じられない。

彼女はそれを知っているのだろうか?あれは彼女が引き起こしたのだろうか?

それともあれが起こるタイミングを狙って、彼女はぼくに接触してきたのか?


彼女はぼくのが危険な状態にあり、そのうち死ぬとまで言っていた。

事実ならなにが起きているのだろう。

自覚している限りでは、身の危険を感じるようなことはなにもなかった。体調だって悪くない。


そもそもなぜぼくに関わってきたのだろう?

彼女にとってぼくがなんだというのか。



「いろいろ聞きたいんだけど」


日曜の午後の高台のカフェ。

ぼくはあの女の子、桂川水菜月さんと会っていた。


彼女は向かいの席で黙ったまま小さく頷く。

今日は制服ではなく、ベージュのシャツに薄い色のデニムのパンツに白色のスニーカー。


「きみはなぜ、ぼくのことを知っていたの?」

「わたしにはあなたが必要だから。それにみんなを守ることがわたしの役割だから」


いきなり斜め上の回答。

なぜきみが見ず知らずのぼくを必要としているのか。

きみの役割がなぜ見ず知らずの人間の護衛なのか。

正論をぶつけても埒があくとは思えない。ひとまず話を合わせながら探っていく。


「その役割はどうやって決まったの?」

「最初からそのように定義されているのよ」

「生まれた時から使命が決まっているのは、伝説上の救世主とかぐらいじゃないかな。きみもその一人とか?」

「救世主とまでいうと言い過ぎだけど、それに近いものはあるかも」


やはり妄想癖だろうか。

それにしては、少なくとも表面的には、冷静で理性的には見えるのだが。

落ち着いて話を続ける。


「それできみは、なにからぼくを守ろうとしてくれているのだろう?これまでぼく自身は特に身の危険を感じたことはないのだけど」

「身の危険を自覚した時には、死んでいたからよ。生まれ変わる時には多くの記憶が消滅しているから、身に覚えがないってことになるの」

「きみは前世のぼくにも会っていたと、この前も言ってたけど」

「そうよ」

「前世のぼくが死ぬとき、きみはそれを見ていたと?」

「見ていた、というかあなたを助けようとしたんだけど、うまくいかなかった」

「前世のぼくって、何者だったの?」

「別になにも変わらないよ。いまのあなたとほぼ同じ」

「それって人生を繰り返しているだけ?」

「うん」

「きみは?きみも生まれ変わり?」

「わたしはあなたたちとは違って、生まれ変わりというか…そのまま復活したって感じかな」


もう何のことやら。きみは創造主かなにかなのか。


「前にぼくが死んだのって何年前のこと?」


彼女は軽く首を横に振る。


「いまとほば同じ時間。ついこの前のこと。世界全体が繰り返しているから」

「なんでそんなことが起こる?」

「それが危険ってことなの。いまこの世界には不都合なことがたびたび起きている」

「この前の横断歩道での出来事は、それと関係する?」

「ええそう、あれがその一端」

「あれは…いったいなにが起きたの?」

「世界中のほとんどの存在が再起動したの。わたしたちをのぞいて」


再起動…デジタル家電かなにかか。

この子の世界観はどうなっているのだろう。


「世界中が再起動というのは、なぜ起こる?」

「外部世界からの干渉が原因のようなんだけど、正体はよくわからないわ」


頭が痛くなる。

宇宙人か異世界人が侵略を企んでいるのだろうか。


「防ぐ方法は探せるんだけど、それが間に合わなくて」


きみが異世界からの侵略者を防げるというのか。


「…外部世界というのは、異次元空間か何か?」

「それがどんなものなのかは、わたしにもよくわからない。でもこの世界とは違う別のなにか」


彼女がなにか独特の世界観を持っているのはわかった。


この後もこんな会話がしばらく続いた。


彼女が話す内容は、それ自体は突拍子もない。

なのに彼女の表情にも声色にも不自然なものは感じられない。

精神疾患やなんらかの障害で、妄想や虚言を話しているようにも見えない。

むしろ彼女自身はとてもまともで、そして知性的に見える。


(彼女自身におかしなところがないのとすれば、なにか企みがあるのか、それとも話していることが事実なのか)


どのように理解したらいいのか、まだ整理がつかない。


とりあえず彼女の話を受け入れたような態度ではいたが、彼女も半信半疑のようではあった。

そりゃそうだ。

こんな話をすぐに信じる方が普通じゃない。



彼女はこれからも時々会って話をする時間が欲しいと言っていた。

こちらの状況確認と、情報の提供だとか。

まるでどこかの国の諜報活動のようだ。なんかスパイアニメじみてきた。


全然納得していないけど、彼女の言うことにとりあえず従うことにした。

信じがたいがでも気になるというか何というか、冷静に考えて受け入れられる話じゃとてもないのだけど。

ちょっと怖いもの見たさというか、心霊現象のうわさの正体が知りたいみたいなような。


とりあえず当面は週に一回会うことになった。

ここなら学校の関係者もほとんど見かけることがないし。


有希葉やその友達に見つかったら、説明がちょっとめんどくさいかもしれないけど。



前回同様に話の内容は荒唐無稽と言っていいものだったが、なぜか彼女に対する不信感はやわらいでいた。

めちゃくちゃなことを喋っているのに、彼女自身はまともというか理性的で聡明な人物のように感じられて、むしろ好印象を受けないでもなかった。


(不思議な人だな)


また会って話をしてみたい。

そんなふうにも感じ始めていた。


それよりもずっと気になっていたのは、彼女は淡々とあまり表情もなく、ぶっとんだ話をするのだが、その目にその声色に寂しさというか悲しみというか、崩れて壊れてしまいそうなか弱さというか儚さというか、なにか見過ごせないものを感じていた。


彼女はぼくが必要だと言っていた。その真意はわからないが。

ぼくに…なにかを望んでいるのか、なにをしてあげればいいのだろうか。


彼女に対する印象は目まぐるしく変わっていく。


(少し、時間をかけて対話してみよう)


その時すでに、彼女がぼくにとって重要な存在になるような、漠然としたものを感じていたと思う。



一緒に店を出て、眼下に広がる街並みとその向こうの海を眺めながら坂道を下っていった。

お互いほとんど言葉を交わさずにただ歩いていた。


「それじゃあ、またね」

「うん」


彼女とは駅前で別れた。

別れ際の彼女は笑顔で手を振っていた。


それは初めてみる笑顔だったかもしれない。

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