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箱庭の火の鳥  作者: ゆくかわ天然水


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040.冬の気配

朝。いつものように学校へ向かう。

中央駅を出て大通りを歩く。

緩い坂を登りながら視線の先に見えるのは、晩秋の天高く透き通る青空。

登校する生徒たちがおしゃべりしながら歩く。


校門から校舎に向かう銀杏並木。

葉はすっかり黄色に色づいて、すでに散り始めている。

もう、冬は近い。


街を歩く人も登校する生徒たちも、見た目には普段通り。

だけど、そうでないことにも気づいていた。


水菜月が言っていた予兆現象。よく見るとそこかしこで発生していた。

歩く人だけじゃない。

走るクルマやバイクに散り舞う木の葉さえも、不自然な動きが見られた。

だけど誰の目にも見えてはいないようだった。

気にしているような様子は全くなかった。


(やはりぼくも、普通じゃないのだろうか)


人に話したところで理解はされないだろう。

なにを見ても素知らぬふりをするのだが、それでも心中は穏やかでいられなかった。


完全な崩壊とはどういうものなのか。

これまでにも体験しているはずなのだが、記憶がないのであれば初めて体験するのと同じこと。


(あれこれ考えても仕方がないのだろうけど…)


とは言っても脳裏から払拭できるものではなかった。


◇


昼休み。

食堂でお腹を膨らませた後、旗章と飲み物片手に校舎内のフリースペースで雑談。

ガラス張りの向こうには、色づいた木々の山並みが見える。


「たとえばの話なのだが」

「おう」

「異世界からの干渉により人類の記憶が消滅する危機が迫っていて、それを救えるのが一人の少女だとして」

「魔法少女もののアニメにでも目覚めたのか?」


いまの説明だとそう聞こえるか。


「ライトノベルを書いてみようかと思って」

「来年の自由研究はそれだな」

「いや研究じゃないし」


三年生は受験があるので自由研究課題は任意だった。


「この国の魔法少女ものアニメの歴史と文化論は研究テーマになり得るぞ。時代背景との関連性とか、若年層の消費行動への影響とか」

「それはまたの機会に」

「すでに誰かがやってそうだけどな。それをベースにアップデートするか、外国へも輸出されているから国ごとの比較をしてもいいかも知れんな」


研究テーマにする流れになっている。

話を戻す。


「たとえばの話なのだが」

「そうだったな」

「非現実的ではあるがある少女がそのようなことを語り、もちろんとても信じられる話ではないのだが、ところがその少女の話の一部が現実になる出来事が起こるようになってきた場合」

「ひとつ聞いていいか」

「どうぞ」

「なんで少女なんだ?」

「え」


そこを突っ込むのか。


「こういう話はそういう設定がお約束というか」

「まあそうだな」


納得するのか。


「そういう状況になった場合、どのような理解と対応が考えられるか」

「自分一人で判断してはだめだな。それほど非現実的に見えることであれば、客観性を担保するために複数の人の証言が必要だろう」

「他の人にはそれが見えないし感じられないとしたら」

「それはもう騙されているってことじゃないか?あまりに不自然だ」

「自分も実は特別な存在である可能性」

「ライトノベルの設定としてはいいかも知れないが、現実世界では厨二病との診断になるだろう」


悩みが解決しない。


「最近、気になることとかない?」

「米と野菜の値段が上がったな」

「それぐらいか」

「どんな回答を期待している?」

「なんかこう、世界に異変が起こるような」

「むかしなんとかダムスの予言とかあったな。そういうのか」

「いやオカルトじゃなくて、もっと現実的な」

「世界に異変という言葉は多分にオカルト的じゃないか」

「なにかこう、不自然さを感じる現象とか」

「特にないが、ななおはなにか見たのか?空飛ぶ鯨とか」

「それは見てみたい」


旗章はなにも見ていないようだ。

やはりぼくだけなのか。

しかし水菜月がぼくを騙すとしても、ぼくが実際に見たものはどう考えたらいい?

彼女がぼくに幻覚を見せたというであれば、それも不自然さを拭えない。


「知らない間にみんなの記憶が飛んで、世界が堂々巡りしていたらどうなる?」

「全員の記憶が飛ぶのであれば、気づきようがないな」

「嫌じゃない?」

「気づかなければ嫌と感じることもないだろう。気づいた時に嫌だと感じるんだろうな」

「気づいてしまったら?」

「それはどうにかしたくなるな」

「どうにもできなければ?」

「本当にそうなのであれば、受け入れるしかない。運命は抗うか受け入れるかの二択だ」


旗章らしい達観した意見。


「世界が堂々巡りしていることに気づいたのか?」

「まさか」

「そんな設定でラノベ書くのも面白いかもな。魔法少女がそれを救うんだろ?」

「いや書かないし」


だけど水菜月って結構そんな感じかもしれない。かなり不思議系だ。

キラキラのコスチュームなんて着そうにないけど。でも似合うかも。

ポーズ決めて必殺技の名前を唱えたりしたらどうなるんだろ。

なんて変な想像していたら怒られそうだ。


◇


教室に戻って次の授業の準備をしていると、スマホに魔法少女☆ミナヅキからメッセージが入る。


『今日の放課後って空いてる?』

「大丈夫だよ」

『じゃあ少しだけ一緒にいてほしい』

「いいよ」


いつものように二人で話をするだけではないのは容易に想像がつく。

きっと水菜月はそれが近いことを把握しているのだろう。

どんなことが起こるのかいまのぼくには記憶がないけど、何度も経験しているはずのこと。

落ち着いてなんていられないけど、じたばたしたって仕方がない。


放課後、校舎のエントランスで待ち合わせ。


「…どうかしたの?」

「いや別に」


ちょっと思い出し笑いしそうになるのを必死でこらえる。


「それよりなにかあるんだっけ?」

「うん…今日はとにかく一緒にいるの」


やっぱりなにかあるんですね。

一緒にいるだけできみのためになるのなら喜んで。


「どうする?図書館とかでもいいし、どこかのお店でも」

「じゃあ、繁華街まで行ってどこかのお店でいいかな?」

「いいよ。そうしよう」


二人並んで校舎を出る。

校門の前から見下ろす街は、晩秋の緩い日の光に包まれている。

その向こうの青い海とその上には青い空。


これからなにが起こるのだろう。

だけど不思議なことに、それほど不安は感じていなかった。

水菜月と一緒からなのか、あまりありそうにもないが覚悟ができているのか、記憶にはなくても何度も経験しているので深層心理的には慣れているのか。


ただ水菜月とその時を待とう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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