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★毎日更新★わたしのことだけ忘れるとかひどくない?燃やしたら思い出すかしら。  作者: ゆくかわ天然水


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033.別世界からの侵入

今週末は水菜月と高台のカフェで会う約束をしている。


もうすっかり秋らしくなっていた。

だけど今日はあいにくの雨。


お店の周りの木々の葉が濡れて、窓から見える街の景色も灰色に滲んで見える。

いつもより早く着いてしまった。水菜月はまだ来ていない。


窓際のテーブルからカウンター席の方を見てみる。

ヒゲ店長の姿がないようだ。


「今日は店長はお休みですか?」

「夜から来ますよ。会いたかったですか?」

「いや別にそう言うわけでは」

「七州さんはわたしに会いたくて来てくれたんでしょう?」

「…ええまあその…」

「なんて言ってたら、水菜月さんに怒られますね」


ジンジャーエールをテーブルに置くと、橘香さんはふふって笑いながらアッシュグレーを揺らして去っていく。

橘香さん目当てに来るお客は普通にいるかもしれない。


お店の入り口の扉が開いて、薄手のコートを着た水菜月が入ってくる。

花柄の傘をたたんでいるのが見える。


「ちょっと肌寒いね」

「歩いてきたの?」

「ううん。雨だったから今日はバスで」


コートの下は秋らしい茶系のニット。

長い髪を白いリボンでまとめている。


テーブルを挟んで向かいの席に座る。



水菜月の謎講義が始まる。


「あなたもいずれまた再起動されるわ」


いきなりぶっ飛んだ発言。

その単語は前にも聞いた気がするが、どうリアクションしたらいいのやら。

冷静に話を合わせていく。


「再起動というはどういう状態なの?まるでデジタル家電かなにかみたい」

「いまのあなたは一旦消滅するの。つまり死ぬということになると思う。そうしてまた生まれ変わるというか」

「それって通常の生命の生死とはまた違うよね。ぼくたちは人じゃないの?この世界は?」

「わたしたちは人ではないわ。人というものを学習してそれに似た姿を生成しているだけ。それがわたしたちの実体なの。この世界も同じこと」

「この世界もぼくたちも何者かに作られたものってこと?」

「うん」

「…」

「理解できないよね」


SF小説の設定としては面白いかもしれない。


「にわかにはね。でもそうだとして、きみはどうしてそんなことを知っている?」

「記憶が全て残っているから…なぜかわたしだけみたいだけど」

「それはなぜ?」

「もともとそういう作りになっている、というだけじゃないかな」


その話が正しいのなら、誰が作ったんだろう。という素朴な疑問が湧いてくる。

神様が作ったなんて回答になるのだろうか。誰だよ神様って。


「この世界がきみがいうような作りになっていることが、ぼくにでもわかるようななにかってないかな。どうしても実感がわかなくて」

「たぶん、これからいろいろ見えてくると思う」

「それはどんなもの?」

「通常の感覚では理解しがたい現象が、起こるようになるよ。世界が綻びていくようなことが」

「夏の初めに横断歩道で見たあれも…」

「そうね。それにあなたに残る微妙な既視感も」


断片的ではあるが、もうすでに実感はあった。



「この世界に干渉するために、外部世界から侵入者が送りこまれることがあるの。事前の情報収集のためだと思うんだけど。それをどうにかできれば干渉を防げると思う」

「侵入者?」

「偵察かスパイみたいなものかな」

「それってどんな姿をしているの?」

「どんなんだと思う?」

「情報収集のためなら、偵察用ドローンかロボットか…」

「それが普通の人なの」

「本当にスパイなんだな」

「もっとよくないわ。本人は自覚ないもの」

「自覚がない?」

「本人は普通にこの世界の住民だと思ってる。周りの人もそう思ってる。でも無意識に偵察活動をしていて情報を外部の世界に送ってる」

「どうやって侵入してくるんだろ」

「この世界と外部世界をつなぐ経路があって、もちろんガードされているんだけど、それがなんらかの方法で乗り越えられて入ってくる。その痕跡を辿ることでどこを通って入ってきたのか見つけることはできるんだけど、それはとても手間のかかる作業なの」

「それができるのは、水菜月だけ?」

「たぶん、そう。わたし以外に知らない」


どこかに外部世界からの侵入者。

それを探せるのは水菜月だけ。


「だけど外からやってくるのなら、それが普通の人の姿をしているのなら、やってきた時に周囲の人が気づくんじゃない?見たことのない知らない人がいるって」

「とても巧妙なの。周囲の人の記憶と周辺環境を書き換えているみたいで」


相当知能が高いものの犯行ってことなのかもしれないが、記憶や環境を書き換えるってどういうことなんだろう?

周辺環境ってつまりは建物とか家具とか道路とかだとして、それって『書く』ものなのか。


「どのくらいの数が来ているの?」

「ときどき現れるぐらいでそれほど多くはない、と思っているけど、それはわたしが把握している範囲での話。それでも気になるのは、徐々に増えていること」


なにが起きているんだろう。


「前にぼくにもなにか特殊なものがあるかも、と言っていたのは?」

「干渉の経路を辿っていると、なぜかあなたの存在が見え隠れする場合があるの。なんらかの形で関わっているんだと思う」

「それがわかれば、ぼくはきみを助けられる?」

「たぶん」

「どうすればいい?」


思わずテーブルに身を乗り出してしまう。


「ぼくはきみを助けたいと思ってる。ぼくにできることがあれば教えてほしい」

「ありがとう。でもまだいまはよくわからなくて。でもそう言ってくれるのはすごくうれしい」


普段は表情の乏しい水菜月が少し笑顔になる。


「わたしのこんな話を聞いてくれる人は、あなたしかいないから」



冷静に考えると、かなり物騒な話だと思う。事実であればだが。

異世界からやってきた何者かがこの世界に何の違和感もなく紛れ込んで、諜報活動をやっている。

目的はわからないが、この世界に何らかの害を成すために。

普通の人として違和感なくこの世界に溶け込んでいる。

それに誰も気づかない。本人も自覚していない。


(そんなのが、本当にどこかに紛れているのか)


窓から街を見下ろす。

この視界の中のどこかにもいるのかもしれない、ということ。

やっぱり、とても実感がわかない。


外部世界って、どこにあってどう繋がっているのやら。

空に異次元空間への門が開いたりするのだろうか。

ありがちなファンタジーアニメのように。

そこから異世界人がわらわら降りてきたりして。


思わずため息が漏れる。


目の前に座る素敵な女の子は、真顔でそんな話をずっとしているだけど。

そんな話をまじめに聞くのは、ぼくだけだろうな。


ぼくだって、謎の既視感と横断歩道で見たあれがなければ、そうはしなかっただろう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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