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☆2月末完結予定・毎日更新★わたしのことだけ忘れるとかひどくない?燃やしたら思い出すかしら。  作者: ゆくかわ天然水


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031.自由研究

十月に入り制服が冬服になる。


チェック柄のデザインが入ったアイボリー色のブレザーにパンツまたはスカート。

決まりの上では性別で分けられてはいないため、パンツスタイルの女子生徒も結構いた。

がスカートを履く男子生徒はいなかった。


明るい色の生地が使われているため、特に裾のあたりの汚れが目立ちやすいのが悩みではあった。

学校の食堂にカレーうどんがないのはこの制服のせいではないか、という噂がまことしやかに流布していた。


しかし生徒たちには人気があり、これを着て街を歩くと結構目立った。

晴れた日の海沿いの公園で青い空と海を背景にするととても映えるので、入学や卒業の記念に写真を撮る生徒も多かった。

名門校の制服ということもあり、街では好意的にみられることが多い。

その逆の場合もないわけではなかったが。



図書館内の学習エリア。

大学でよくラーニングコモンズと呼ばれるものがこの学校にもあった。

自習室は基本的に一人作業用で、こちらは主にはグループ学習用との棲み分けになっている。


謙心と二人で重要国家プロジェクトの立案に余念がなかった。

国の安全保障と雇用創出のために巨大宇宙要塞を建造する。

その実現性検討。実にいかれた、いや興味深い主題だ。


テーマ登録の申請をしたところ、滞りなく指摘もなく承認された。

こんなのを学習課題として認める学校も懐が深いというかなんというか。

何のチェックもしていないだけかもしれないが。


謙心は要塞の構造と建設に関する課題、ぼくはそれの運用面をテーマに検討を進めることにした。


「エネルギー源はやっぱり原子力しかないなあ。将来的に核融合が実用化されたら可能性はあるかもしれないけど、当分は目処がなさそうだし。火力は大量の酸素が必要で、水力や風力は論外、太陽光発電はパネルがとんでもない大きさになる」


「事故ったときどうする?」


「バックアップとリスク分散のために複数の原子炉を設置して、メルトダウンするような深刻な場合は切り離して宇宙空間に捨てるんだろうな。だけどそうするには、要塞の周縁部に原子炉を置く必要がある。となると、敵からはそこを狙われやすくなる」


閉鎖空間に原子炉を持つなんて怖すぎるが、いまでも原子力の空母や潜水艦はそうなっている。


「冷却用の水は閉鎖的に循環させるとして、そもそも宇宙空間で熱をどうやって捨てればいいんだ?

放射だけで十分なのか…」


「地上で発電してマイクロ波で送るというのは?」

「それもあるか。しかし地球を周回するのであれば、送信基地が複数いるな」


「移動用の動力源は、普通に液体燃料ロケット。イオンエンジンの出力では姿勢制御ぐらいしか使えないか…そもそも移動するのか?移動させられるのか?軌道の変更は必要なのか?軌道ずれの修正だけを想定していればいいのか?」


「軌道を周回する以上の移動は無理だろ。直径100km以上の鉄の塊を移動させるのにどれだけエネルギーがいるんだ」

「主要な建材は鉄なんだろうか。鉄筋コンクリート製の部材を繋ぎ合わせるとか」

「さすがに木造はないか」

「部分的には可能性はあるだろ。居住空間には向いているんじゃないか」


「想定乗員数から食料の供給量とその保管場所の大きさは見積もれるとして」

「野菜は栽培できるのでは?」

「そうだな。太陽光のあたる周縁部であれば…どんなのが向いているのか考えないと」

「とりあえず思いつくのはカイワレとか。土壌なしで水耕栽培ができるがいいか」


「食料の供給より、排泄物の処理の方が難しいだろうな。難民キャンプでも最大の問題はそれらしいし」

「衛生管理の話になってくるね。コレラなんて発生したら大変だな」

「感染症の予防と発生時の対応について」

「医療体制。医者と看護師と必要な病床の数も見積もるか。医薬品と医療機材の供給についても」

「長期保存できるものとそうでないものを分けないと」


気になる項目はいくらでも出てくる。

素人のぼくたちが考えるぐらいで全ての課題が洗い出せるとも、それなりの解決策が出せるとも、到底思ってはいないが、この作業が思考の訓練にはなっているはず。

そもそもこの課題の狙いもそこにある。


いままでやったことがないことに挑戦すれば、当然のように壁にぶち当たり失敗もする。

容易なことや多くの人がすでにやっていることであれば、失敗することもないだろう。

だけどそれでは、なにも進歩しない。


トーマス・アルバ・エジソンは「自分は失敗したことがない。このやり方ではうまくいかないという発見を数多くしただけだ」と言っていたとか。


成功したければ、失敗を積み上げるしかない。



あれこれ考えていると頭がオーバーヒートしてきた。

少し休みたい気分だが、勉強熱心な謙心は休まず調べごとを続けている。


「ちょっと休憩してくる」

「ああ」


謙心を残して一人で気分転換に出かけた。


図書館の中の談話室に寄ってみる。中から談笑する声が聞こえてくる。

ドアを開けて中をのぞくと、何人かの茶道部員と一緒に玲奈がいた。

ぼくに気づくと手を振ってくる。


「北山くん、なんか疲れてる?」

「自由研究の調べごとをちょっとね」

「まじめだね〜」


いつもの如く玲奈がお茶を点ててくれた。


「もうすぐしたら花火大会あるじゃない?」

「そうだね」

「見にいくの?」

「知り合いからお誘いがあったので、それに行くよ。玲奈は?」

「茶道部で花火の鑑賞会があるの。年中行事みたいになってて」


茶道部の花火鑑賞会。

きっと和服の女の子がいっぱい。そっちに参加したい気もする。

だけど今年の花火大会は先に予定が入っていた。


「お茶を点てながら花火見るの?」

「ううん。お茶は関係なくて、ただみんなで食堂でわいわいしながら花火観るだけ」

「和服を着るわけでもなく?」

「着ないよ」


なんだ。


「食堂だったら他の生徒もいっぱいくるだろ?茶道部の女の子たちがみんな和服だったらきっと目立っただろうに」

「わたしが他の男の子たちにモテちゃったら、北山くんやきもち妬くでしょ?」

「別に」

「妬くよね?」

「別に」

「素直じゃないんだから」


玲奈と話すのは楽しい。

頭のリフレッシュには最適だ。

ときどきウザいけど。



ラーニングコモンズに戻る。

謙心は休まずになにか調べごとをしている。


「いろいろ課題出したけど、全部は考えてられないな」

「特に重要なのを選んでやるんだろう。優先順位づけして締め切りまでにやれるところまでやるとか」



「なにか新しいもの、製品でも技術でも何らかのアイデアでも、それを導入する場合」


謙心がまたなにか議論を始める。


「それが効果的なのはわかっているが、背反がないことが証明されていないとしたら、それは導入してよいか」

「普通はだめじゃない?深刻な副作用が生じる可能性もあるってことだよね」

「医薬品を市場に出すような場合はそうだな。新しいアイデアを取り入れたオンラインゲームを世に出す場合は?想定されるリスクは『面白くない』程度だとすれば」


どこまで挑戦できるかは、取れるリスク次第ってことって言っているのだろう。

保守的になりすぎず、無謀にもならないように。


「売れなくてもコストを許容できるのであれば可能かな」

「そうだな。新しいことをやるのはいつだってリスクがつきまとう。だからって挑戦しなければ先には進めない。であれば、どうすればどこまで挑戦できるのか。それはどこまでリスクを許容できるか次第だな」


「『失敗は許されない』なんて発想は、リスクを取れないつまりなにも挑戦できないってことだ」


「イノベーションというのは、リスクをどれだけ精度よく見積もれるかと、それを許容できるどれだけの余裕があるか次第だな」



「どんなものだってProsとConsが存在する。それをどう捉えるかで違いが出てくる」


「どちらにフォーカスすべきかは、なにを意図するかによる。不良品や故障の少ない高品質なものを作りたいのなら、ひたすら問題点を洗い出して潰していくのがいい」


「だがこれまでにない新しいなにかを作りたいなら、それの長所に注目すべきだ。画期的なものはいつでも問題だらけの状態で現れる。多くの人はそれを見て、こんなものは使い物にならないと考える。しかし一部の人はそこに可能性を見出して、さらにごく一部の人がそれを実際に使えるものにしてしまう」


「あとの者は、それに追従するだけだ」


「誰が金を払うことになり、誰が金持ちになるかは、明らかだろ?」



巨大宇宙要塞を実際に建造して運用するとなったらなにが起こるか、とそれへの対策について。

SF映画やアニメの設定をまじめに現実的に分析検討したもので、興味深い内容にはなると思う。


普段はそれらの作品を見ながら、あれだけの人数の排泄物をどうやって処理するんだろとか、感染症が広がったらどうするんだとか、貨物に紛れてゴキブリとかトコジラミが侵入してきたら?なんて考えることもないだろう。


ドジャースファンの巣窟になっている部隊にヤンキース推しの指揮官が着任したらどうなるか、なんて問題は宇宙空間でなくても起こることなので、今回は見送ることにしていた。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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