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★毎日更新★わたしのことだけ忘れるとかひどくない?燃やしたら思い出すかしら。  作者: ゆくかわ天然水


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029.水菜月の内心

先日は水菜月のかわいい一面を知ってしまって、ちょっとうれしいような。

だけど彼女の抱える苦悩というか悲しみというか、裏面も見えてしまった気がする。


いろいろ一人で抱えているんだろうな。

あの性格だとなかなか人にわかってもらえないのではと思う。

思い詰めているようにも見えて、少し心配にもなる。


どうすればいいんだろう。話せるのはぼくだけなのだろうか。

だとすれば、なにかしてあげられることはあるだろうか。



誰かの意見を聞いてみよう。

上岩瀬玲奈氏に相談してみる。


放課後の図書館。談話室の畳の間。

今日の玲奈は普段の制服姿。ちょっと残念。

抹茶を一服いただきながら世間話。


「今日は和服じゃないんだ」

「着るのも脱ぐのも大変なの。わからないでしょ。和服の大変さ」

「すみません。わかりません」

「クリーニングするのもすごく高いし。でも見たかったの?わたしの和服姿」


調子に乗った目でこっちを見ている。


「うん」

「正直ね」


玲奈の和服姿はとても好きだった。

正座に背筋の伸びた制服姿もきれいだけど。


「じゃあこんど茶道部のお茶会に呼んであげる。女の子たちみんな和服で来るから」


それはひょっとしておしゃべり女子会なのでは。

男が参加するのはちょっと躊躇するのだが。


話題を変える。


「知り合いでどうも悩みを抱えているっぽい子がいて」

「へえ〜女の子?」

「まあそうなんだけど」

「例の大沢さん?」

「いや、ゆきではなくて別の子」

「えなに、ちょっとどこの子よ。まずはそれが気になるわ」


相談相手を間違えたかもしれない。

それに以前、水菜月と一緒にいるところを見られたことがあるのを思い出した。

とりあえずぼかして話す。


「ときどき話をする程度の同級生なんだけど、もともと笑顔率が低めで人生を悲観している感じで」

「人生を悲観ってこの歳で?カウンセラーに相談した方がいい案件?」

「いやあの人生を悲観は言い過ぎたかもしれない。ちょっと自己肯定力が足りてないような」

「原因に心あたりは?」


首を横に振る。


「よくわからないし、なにかは聞きにくい。でも一人で抱え込んでいるように見える」


最近の様子をあまり具体的ならないように説明する。


「それは根掘り葉掘り聞いたり、解決してやろうとかしない方がいいんじゃないかな」

「どうすればいい?」

「北山くんがもしその子に十分信頼されているのなら、ただ話を聞いてあげるだけでいいと思う。決して否定はせず、共感をそれとなく示す程度で」

「そんなのでいいのかな?」

「それでも本人にとってはだいぶ救いになるよ。もし具体的な相談があればその時は一緒に考えてあげて」


いつもぼくにはきつめか緩めにあたる上岩瀬玲奈が、あまり見慣れない優しい表情で真面目に話す。

相談相手は正しかったのかも。


「そんなことわざわざ他の人に相談するなんて。北山くんもその子のこと大事に思っているんでしょ?だったら大丈夫よ」


やっぱりこの人はいい人だと思う。それなのに、


「玲奈ってなんで彼氏できないんだろうな」


余計なスイッチを押した。


「うるさいわねっ!だったらあんたがわたしと付き合いなさいよっっ!!」


それはちょっと。嫌じゃないけどいまはだめ。

ていうかきみはモテるはず。と思うんだけどな。

この学校の男子どもはなにをしているんだろう。


そういえば玲奈には百合疑惑があったな。

実は茶道部内に彼女がいたりして。

別にいいけど。


「で」

「はい」

「誰なの?」

「え?」

「さっきの悩める女の子。北山くんが気を揉む子なんでしょ?教えなさいよ」


玲奈がおせっかいおばさんみたいな顔になっている。


「そこはプライバシーというものがあるので」

「なんでそういうところは固いのよ」


とか言いながら玲奈もしつこく聞いてきたりはしない。



「玲奈はなんで茶道部に入ったの?」

「お淑やかなわたしにぴったりだから」

「そう思ってました」

「うそよね」


そんなこともないのだが。

振り袖を着て茶筅を振る姿はとても似合っている。


「お茶を点てる時は普通は振り袖は着ないよ。もっとシンプルな和服」

「そうなの?」

「茶道は本来は華やかさを求めるものではないし、振り袖は動きにくいからね。でもみんな振り袖を着たいから催し物があるたびに着てるけど」


質素と簡素とか侘び寂びとか習った気がする。


「派手さや高価な茶道具がもてはやされるようなこともあるみたいだけどね。本当は違うはずなのに」


和菓子をいただく。

秋らしく栗入りのようかん。


「茶道ってむかしは男性の嗜みだったような。千利休とかの頃の話」

「そうね。男性の社交のお作法だったね」

「それがなぜ現代では主に女性が嗜むもののようになったんだろ」

「男性より女性の方が強くなったってことじゃない?」


え〜。


「なんてね。女学校で作法を身につける目的で取り入れられたのが大きいみたい」



水菜月に聞いたのと同じ質問をしてみる。


「普段の食事はどうしてる?」

「なんでも食べるよ」

「主には」

「肉ね。やっぱり」


いきなり逞しいコメントが返ってくる。


「肉?」

「人の体は肉でできているんだから肉を食べないとね。牛でも豚でも猪でもなんでも食べるから」

「…野菜や果物などは?」

「箸休めには食べるかな」

「美容とか体型とかを意識したりは」

「特に気にしてないよ。食べたいものを食べたいだけ食べてる」


それでそのスタイルを維持できているのか。

体質だろうか。才能だろうか。


「主食は米?パン?」

「お米」

「銘柄は」

「ひとめぼれ。お腹いっぱい食べるから」

「なぜそのチョイス」

「北山くんがわたしに一目惚れするから♡」

「してませんししません」

「照れ屋さんね」


「甘いものは?」

「それはお茶に和菓子ぐらい。甘いもの好きでもないので」


水菜月とはだいぶ方向性が異なるようだ。

美容のために不断の努力をする水菜月と、本能のままでそれが達成できている玲奈。


「でなんなのその質問」

「え、あ、いやその、玲奈さんの美しさの秘訣がちょっと気になったというか…」

「気になるよね〜でもこれはきっと神様からの授かり物なの。積んだ徳の高さかしら」


右手の甲をあごのあたりにあてて、おほほポーズをとっている。

美人は自分が美人であることをよく自覚しているらしいのだが、それは正しいようだ。


「北山くんも来世は女の子に生まれ変わるかもしれないから、しっかり徳を積みなさいね。男の子にとって最も高い徳は女の子に優しくすることだから」


この話題はこのあたりで終了にしようか。

なんて思っていたらそれを察したのか、玲奈が口調を変えて話してくる。


さっきまでとは打って変わってシリアスモード。


「でもね、確かになぜか好きなだけ食べても太らないし、見た目も…悪くはないかもしれないけど、でもこれは偶然のことでわたしの努力で得られたものじゃないし」


「生まれ持って備わっているもの背負っているものって、どう考えたらいいのか難しいね。いいこともそうでないことも」


「特にそれが辛い思いをするものであれば…配られたカードで勝負するしかないのだけど、その不公平さにどう折り合いをつけるかなんて、課せられた宿題の難易度が高すぎない?」


ぼくは玲奈の話を黙って聞いていた。

悩める女の子はとんでもないジョーカーを配られているようだった。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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