020.夏休みの風景と残像
八月も下旬。
昼間は相変わらず暑いが、朝晩は少し秋の気配が感じられるようになってきた気もする。
プールは結局のところ、五十鈴と旗章と有希葉とぼくという見慣れた顔ぶれで行くことになった。
海に突き出た人工島の先端にある大型屋内プール。
お約束のウォータースライダー付き。
布地面積はそこそこあったものの、五十鈴と有希葉が二人そろってオフショルダーのビキニだったのと、二人とも思いのほかスタイルが良くて、旗章とぼくはちょっとしたドギマギを必死で隠していた。
女性の肌が露わになっている状況を「目に毒」と表現される場合がある。
(...毒じゃないよな)
「まじめな顔してどこ見てんのよ」
五十鈴の突っ込みが刺さる。
夏休みだけあって、家族連れと若い集団で結構な人出だった。
顔見知りには会わなかったが、うちの学校か近隣の学校の生徒と思われるグループをちらほら見かけた。
ウォータースライダーはそのまま滑るものと、浮き輪などの補助用具を使うものがある。
さらに浮き輪には一人乗りと二人乗りのものがあった。
有希葉が二人乗りの浮き輪を持ってきて、ぼくと滑りたいと言う。
となると必然的に、五十鈴と旗章のペアで滑ることになる。
この二人が微妙に牽制しあいながら乗って滑っていくのが見てておかしかった。
朝から夕方までプールではしゃげばさすがに疲れる。
帰りの列車の中ではみんな無口になっていた。
定番すぎるイベントだけど、これはこれで楽しい夏の一日だった。
有希葉とディナークルーズは結局行ってないな。
催促されるまで忘れたふりをしておこう。
◇
次の日。
一人で繁華街に出ていた。
これもありがちな話なのだが、有希葉の誕生日のプレゼントをどうするかで悩んでいた。
日頃から相手が好みそうなもの欲しそうなものをリサーチしておくのがマメな男の基本らしいのだが、そこまでお利口さんではないのでこういう時に困ってしまう。
贈り物をどうするかというのは、いつだって悩ましい。
相手になにが欲しいかを聞いてそれを買うとか、さらには一緒に買いに行くというやり方もある。
それであれば相手の好みやニーズに合わず失敗することはないだろうが、ちょっと物足りない気もする。
相手の買い物にただお金を出しているだけではないか。
贈り物というのは、贈る側が贈られる側のことをあれこれ思いやることに意味があるのではないか。
贈られる側も、贈る側が自分のことを考えて悩んでくれたことがうれしいのでは。
それだと外してしまうリスクももちろんあるのだが、それも含めて。
とも思うのだが、ジュエリーショップで二人で仲良く品定めしている人たちをみると、一緒に買いに行くのもいいのかもという気がしてくる。
なににしよう。
アクセサリーの類は無難と言えば無難だが、有希葉はピアスはしてないし、指輪は意味深になるので外しておく。
ブレスレットかネックレスか。だけどありきたり過ぎてちょっとつまらない。
服とか靴とか。サイズがわからん。
それにこれこそ好みを外したらどうしようもない。
入浴剤とか美容系など。知識がないので選べない。
インテリア。有希葉の部屋は入ったことがないので雰囲気がわからん。
ぬいぐるみ。そういう趣味ではなかったはず。
食べ物。お菓子類はサブにはいいかもしれないが、メインにはならないな。
本。祖父母が孫に百科事典を贈るみたいな話は昔はあったらしいが。
普通なら自分では買いそうになくて、必要ではないんだけどちょっと欲しくなるちょっと贅沢なもの、なんて路線はどうか。
(本革製高級スマホケースとか?)
うーん。
誕生日なんだよなあ。
食器、カトラリー。マグカップとかはいいかもしれないな。
家電。誕生日に掃除機とか炊飯器はないだろ。
体験型。旅行?それはやめておこう。
このままだとアクセサリーに戻りそうな予感。
大通り沿いにある路面店のアクセサリーショップに入る。
白い壁と高い天井。LEDの照明が眩しい。
ちょっと高そうな雰囲気だったが、素材を選べはほどほどの価格帯のものがあった。
ダイヤモンドとプラチナのリング。
キュービックジルコニアとスレンレスで作ったら見た目はそっくりじゃないか。
なんて無粋なことを言ってはいけない。
しかし装飾品って見た目のためのものではないか、という説もありそうだが身につける本人の満足が大事なんだろう。
キュービックジルコニアは昔は「人工ダイヤモンド」なんて言われ方をしていたこともあるが、見た目が似ているだけでダイヤモンドとは別の物質。
炭素の同素体の一つである化学的に本物のダイヤモンドを人工的に作ることもできるが、宝飾品としては天然物であることが本物ということらしい。
「お手伝いしましょうか?」
一人で店内を徘徊していたら、カウンターの向こうから店員のお姉さまにお声がけいただく。
仲のいい女の子が近々誕生日でプレゼントを探していることを伝えると、えらく乗り気な雰囲気であれこれお薦めしてきた。
薄いピンクと透明な石があしらわれた銀色のブレスレット。
かわいい。有希葉に似合いそうだ。
ホワイトゴールドにダイヤモンド。値札にはとんでもない金額が書いてある。
「…こんなイメージで、もう少しお手頃価格なのを」
やれやれこれだから若造はみたいな表情で別のカウンターに連れて行かれる。
スターリングシルバーは変色しやすいので…とか言ってたらサージカルステンレス製のを薦められた。
値段的にはだいぶ手の届くところに来た。
デザイン的には最初に見せてもらったものと似た感じ。
石はなんなのかよく知らないけど、ピンクトパーズみたいなのがついている。
贈り物用のラッピングをしてもらって、扉の手前で紙袋を受け取って店を出る。
通りの向かい側にはちょっと高めのチョコレート屋。
小さめのを一箱をおまけに付けることにした。
◇
夕方。大通りの交差点から西の空を望む。
薄く広がる雲の向こうから太陽が透けるように照らして、空がバニラ色に輝いている。
いつの間にか日が沈むのも早くなってきている。それでもまだ西日は暑い。
吹き抜ける風には、夏の終わりを感じさせる涼しさがあるように思えた。
自宅の最寄り駅で列車からホームに降りる。
手元には洒落た紙袋。
中身はアクセサリーとスイーツ。
だけどこれはそういった物というよりは、ある女の子の誕生日を祝うためのもの。
その役割を十分に果たせればいいのだけど。
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