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【2月末完結予定・毎日更新】わたしのことだけ忘れるとかひどくない?燃やしたら思い出すかしら。  作者: ゆくかわ天然水


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18/82

018.水菜月に有希葉のことを

次の日の午後。

高台のカフェで桂川さんと定例会。

窓際のテーブル席が定位置になりつつあった。


ベージュ色のややオーバーサイズ?ゆったりとした半袖ブラウスに無地のスカート。

出会った当初は緊張感が漂っていたが、最近はだいぶ落ち着いた雰囲気になっていた。


「彼女さんに誤解させてしまったかしら」

「彼女さん?」

「ほら先日、駅とパスタ屋さんで一緒にいた…」

「ああゆきのこと?同級生だよ。教室で席が隣。別に彼女というわけでは」

「そうなの?わたしの彼に近づかないで、みたいな視線をすごく感じたけど」

「気のせいですね」

「ななくんなんて呼ばれてるのね。かわいい」

「しちが発音しにくいので」


桂川さんにはやはり有希葉は彼女だと思われていた。

街で二人でいるところを二回も見たら、普通はそう思うだろうな。

そのうち一回は一緒に食事をしていたし。


「『あの人、誰なの?』なんて聞かれなかった?」

「聞かれたけど、ただの知り合いと答えたらそれ以上は特になにもなかったよ」


あまり納得していない様子。


「付き合ってるわけじゃないの?」

「違うよ」

「彼女さんもその認識?」

「そうだよ」

「…そうなんだ」


気にしていたのだろうか?


「だったらこうして二人で会っているのは、別に気にしなくていいってことね」


あそういうこと。


「だって他の女子とたびたび二人で会っているのを、もし『彼女』が知ったらただじゃ済まないんじゃないかしら」

「別にやましいことをしているわけではないし」

「じゃあなんて説明する?」

「…無理ですね」


確かに説明できなかった。


「桂川さんのことを他の人に説明するのは難しいよ。知り合った状況からしてどう話せばいいのか。『北山くんとどこで知り合ったの?』って誰かに聞かれたらなんて答える?」

「わたしはずっと前から北山くんのことを知っているから」


また謎トークが始まる。


「ずっと前から知っていたとしても、一番最初の出会いがあるよね?」

「そんな昔のことは思い出せない」


どれだけ大昔なんだ。有史以前なのか。


「『桂川さんとはいつもどんな話をしているの?』という質問にはどう答えたらいい?」

「北山くんとこの世界を救うにはどうすればいいのか」


やっぱりこの人、他の人には紹介できない。



「あまり学校で見かけないんだけど、普通に通っているんだよね?」


というか学校で見るのはこのまえ食堂で会ったのが初めてだった。


「授業にはちゃんと出てるよ。ただ部活とか委員とかそれ以外のことはなにもしていないから」


私生活はなにしてるんだろ。

あまり深く聞くわけにもいかないが。


「あまり友達もいないし」


それについてはつっこめない。


「趣味とか習い事とか、学校以外でやっていることとか?」

「…」


ストローでグラスの氷を回し始めた。

やっぱり聞いちゃだめな空気。



どんなことに興味があるのか探ってみる。


「自由研究はどんなことを?」

「コンピュータサイエンス関連。ネットワークの安全性とか」

「IT関連に興味があるの?」

「興味があるというか、結構それが死活問題なので」


なぜそれが女子高生の死活問題になるのか。

ハッカーなのだろうか。

実はそれで生活費を稼いでいるとか。


「好きな食べ物は?」

「鍋料理全般と寿司」


和食派だったか。


「北山くんも鍋料理が好きよね?」

「うん」


海鮮鍋系が確かに好物ではあった。


「でさっきからなんなのその質問とか」

「桂川さんのことをもっと理解したくて」


少しおどろいた表情。だけど本音だった。

この不思議な女の子を、もっと知りたいと思うようになっていた。


「これまでに話してくれたような、ちょっとびっくりなことじゃなくて、桂川さんのことを教えてほしい」

「どうしてわたし自身に興味があるの?」

「そりゃいろいろ普通じゃないことがあったし、この人ってどんな人なんだろうって思うよ」


「わたしのこと、か…」


やっぱりだめなようだ。話題を変えよう。

それなら自分の話をしてみる。


「最近ベストセラーになっているという小説を買ってみたんだけど、有名な賞を取ったらしくて本屋でいっぱい積んであったので」

「ぜんぜん面白くなかったでしょ」

「なぜわかる」

「わたしも最近同じことがあったので」


ここにも同士がいた。



「桂川さんはなぜぼくに興味があるのだろう、ってやっぱり思うんだけど…」

「ある意味、義務ってことかな」

「役割だとこの前は言っていたね。義務でそうなのであれば、なんか申し訳ない」


「それからちょっと気になってたんだけど」

「うん」

「桂川さんって、笑顔率低いよね」


彼女の飲んでいたソーダフロートが噴き出される。


「なによそれ」

「いつも深刻な顔をしてて、まじめで理性的な感じなのはそれはそれでいいと思うのだけど、何というかその…」


ちょっと言い淀む。


「せっかく美人なのに…とは思ってた。だからこの前、学校で会ってそのあとベイエリアに行った時、あの時はとても楽しそうにしてたよね?いつもあんな感じだったらいいのに…なんてごめん勝手に思ってた」


謎な出来事や謎な話に気を取られていたが、彼女は控えめに言ってもとても端正な顔立ちをしていた。

その大きな瞳で見つめられたら正直なところどきどきしてしまう。


「あ、そっそう、ありがと…」


相変わらず表情が薄いというか控えめというか。

ときおり笑顔を見せることもあるのだが、話している時は大抵真顔。

あまり冗談じみたことも話さない。むしろ固くて暗い口調。

だけど落ち着かない様子でストローでグラスの氷を回しているのを見ると、少し照れているような気がしないでもない。


(…言わない方がよかったかな?)


話題を変えよう。



どう切り出すべきか迷ってはいたが、ずっと気になっていることに軽く触れてみる。


「また失踪事件があったね」


桂川さんの手が止まる。


「ニュースになってた話?」

「うん。なにか気持ち悪くない?なにも見つからないし原因もわからないなんて」

「そうだね…」


じっとグラスを見つめたまま。表情もない。そのまま沈黙。

他の人ならそれなりに盛り上がる話題なのだが。


「この前の横断歩道での不思議な現象って、関係したりするのかな?」

「…それは別だと思うけど…」


あまり興味がないのだろうか。

それとも、触れたくない話題なのかもしれない。



結局、今日も彼女についてあまり知ることができなかった。

彼女もぼくになにをどう話したらいいのか、迷っているようにも見えた。


当初は不審者かもと思って警戒していたところもあるが、その心配はもうないように思う。

あいかわらずわけわからないことだらけだが、ぼくを害しようとしているようには見えない。


なにかを悩んでいて苦しんでいて、それを解決する手がかりがぼくにあると思っているのかもしれない。

それがどういうことなのかは、さっぱりわからないけど。


ぼくが彼女を助けることができるのだろうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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