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【毎日更新・学園ラブコメSFまたはファンタジー・文庫本3巻分目標】5010.The Phoenix - 箱庭の火の鳥  作者: ゆくかわ天然水


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011.深草謙心

今年の研究テーマを決めて、かつ共同で取り組む道連れを探す必要があった。


放課後の教室。

同級生の一人とパソコンの画面を開きながら会話していた。


深草謙心ふかくさけんしん

手堅い秀才タイプで、成績は常に学年最上位付近。

試験勉強ではたびたびお世話になっていた。


見た目はインテリ風で、中身もだいたいその通り。

有能な人物にはありがちなことかもしれないが、ときどきマニアな趣味があったりする。


「ななおも建築に興味あるんだったっけ?志望している?」

「興味はあるけれど、志望とすべきかはまだ迷ってる。なにか存在感のあるものを世の中に残せるとすれば、それは魅力的かな」

「いつか文化財か世界遺産にでもなって、後世に名を残すのを目指すのか」

「さすがにそこまで高望みはしないけどね」

「目標にするのは高くていいんじゃないか?目指すところが低ければ、どれだけ努力してもその高さまでしか登れないのだから」


謙心は以前から大学で建築学を専攻することを考えていると言っていた。

それも意匠的な建築デザインではなく、大手ゼネコンやデベロッパーなどで都市開発をやってみたいとか。

建築そのものというよりは、より広範囲な視野で考えているようだ。


この街も人工島やベイエリアおよび中心部の再開発などが、官民一体で進められていたりする。

ここまでであれば、保守的な選択のように聞こえる。

がしかしこの次の言葉がなかなか刺激的だった。彼も期待を裏切らない。


「デス・スターを建造したいんだ」


この界隈って、なぜこんなのばかりなのか。


「国防と雇用創出のために有効だと思わないか?」


国防と雇用が重要なのはわかる。

話し合いが通じなさそうな国は幾多あるし、国民を豊かにするには収入を得られる仕事が必要だ。

がその手段がデス・スター建造というのは、もう少し他の選択肢を考える余地があるのではないか。


「あらゆる可能性を検討した末の結論だ」


なにを検討したのか聞いたら、ネオ東京に遷都だのイスカンダルを植民地化だのおおよそ予想と違わなかった。

ア・バオア・クーとデス・スターが最終候補として残ったが、前者は見た目が椎茸かエリンギみたいで苦手だとの理由で却下されたらしい。


「まあ…それができる技術と資金があれば世界平和もたやすいだろうな。やり方を間違わなければ」


支配者がお金と技術を使う方向を誤るのは、古今東西ありがちな話だ。

国民が飢えで苦しんでいるのに、弾道ミサイルの開発に多額の予算を注ぎ込むとか。


「でも面白い話ではあるかな。あの課題は斬新なものが好まれる傾向があるし」

「ななおは今年のテーマまだ決めてなかったんだろ?」

「まだだよ」

「デス・スターを真面目に作るとしたらどうなるか、を考えてみないか?」


興味深いテーマではあるが…やや飛躍しすぎの気もするが…。

しかし謙心は組む相手としては申し分ない。

きっといい内容に仕上げられるだろう。


「ちょっと考えてみる」


この時点では回答は保留した。



帰宅途中の列車の中。

天井から吊るされた新作アニメ映画の広告を見ながら考える。


少女だけで構成される秘密の治安維持組織がテロ集団と戦う話。

この手の作品は女の子たちがやたらと強い。

男は影が薄く、大人は偉そうに指示するだけ。


未成年に戦闘行為をやらせるとか、倫理的にどうなんだという気もする。

他にも中学生が巨大ロボットに乗って謎の敵と戦う話もあったりしたが、それって児童労働ではないか。


なんてことは気にしてはいけない。

娯楽作品は現実社会の束縛からの解放でもある。

しかしあれだけ戦闘力が高い設定なのであれば、待遇の改善を求めて争ってもいいのでは。


労働争議がテーマの戦隊ヒーローものというのは、画期的かもしれない。

悪の結社との戦いよりも、労使交渉の方が熱いとか。

危険で劣悪な労働環境を糾弾する、現代の新しいプロレタリア文学としての可能性を感じないでもない。



話を戻す。

巨大宇宙要塞を実際に作るとすればどうなるか。


地上で部品を作って、それをロケットで打ち上げて繋ぎ合わせていくとなれば、とんでもない費用と時間がかかるのは容易に想像できる。


しかも直径100kmを超え100万人以上の人が生活するとなると、ハード的にもソフト的にもどんな構造にする必要があるのか。

宇宙空間での大量のエネルギーや食料と飲料水の確保、保守作業や事故・故障の対応など。


そのようなものを想定した建造と、運用マネジメントの研究というのは確かに興味深い。

現実世界だと航空母艦の運用などが類似するかもしれない。規模は遥かに小さいが。


アポロ計画の成果の一つは、高度なプロジェクトマネジメントの技術だとも言われていた。

集団で一つの成果をあげるというのはとても難しい。

それが大規模で複雑なものであればあるほど。


少し考えただけで、多様な観点が思い浮かぶ。

確かに面白そうではある。


(今年の研究テーマはこれにするか。道連れもできるし)


非現実的な検討をまじめにやることにした。



翌日の朝。教室にて。

自席で予習している謙心に話しかける。


「昨日話していた件だけど、一緒にやろうか」

「Welcomeだ」


ラウンドフレームの眼鏡の下に満足そうな表情が見える。

ぼくが肯定的な返事をするのがわかっていたようだ。


「早速、今日の放課後から始めよう」



放課後。図書館にて。


「イメージを具体化しやすいように、まずは前提を明らかにしていこうか」


モデルとなっている宇宙要塞の映画上の設定を調べて、それだけでは不足するであろう項目を挙げる。

それを元に課題と対策の考察を行うのだが、年度末の論文提出までの大まかな日程を引く。

夏休みと冬休み期間も含めて、作業の段階を置いていく。


「論文の内容と構成についても概略を考えてみようか。ななおと俺で重複しないように棲み分けができるようにな」


謙心がリードして進め方を示してくれる。頭の中にすでに工程表があるようだ。

無計画でないあたりはさすがだと思う。


「いまの段階でもう論文に書く内容について考えるのか」

「ゴールイメージを持って進めないと迷走するぞ。どれだけ速く走っても目的地がどこか知らなければ、たどり着くことはないからな」

「検討を進める中で当初の想定から変わってくることもあるのでは」

「それは大いにあるだろうな。そうだとしても、それまでにわかっていたことからそれなりに考えたことをベースに修正するのと、なにも考えていないのとでは大きく違うんじゃないか」


確かに昨年はあれこれ調べはしたものの、論文を書く段階になってどういうまとめ方をするかで苦労した。

早い段階で出口を考えながら進めるべきだったと思う。


苦労した割にいい成果に結びつかないことも少なからずある。

そのため努力を無駄と考えて運頼みに傾く向きもある。


「努力したからって報われるとは限らない、というのはその通りだろう。だけど報われる可能性を上げることはできるさ」


「人生は一発勝負じゃない。打席は何度でも回ってくる。打率を上げることができれば、そのうち当たるだろう」


「それに努力をしていなければ、打席が回ってきたことにすら気づかないからな」

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