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2-2

――カール――


 カールは耳たぶに装着している魔道具を起動した。

「あーしもしも。こちらお掃除サービス係、幼気男児のカール=ジュワースくんでぇーす。今ゴミ掃除終わったよ、ユッサー。エムリスも無事保護した」

『ご苦労だったと言いたい所だが……。お前にしては随分と手間取ったな。ご自慢の悟極はどうした? よもやオレの作った平和政策のせいで感が鈍った挙句に何処かへ置き忘れてきたとか言い訳してくれるなよ』

 聴覚同調シンクロナイズ

イヤリングに取り付けられた水晶を通して遠く離れた相手とも通話が出来る装飾型の魔道具。耳に当てる事で聴神経に直接作用し、魔力回路を伝って鼓膜へと届き。あらかじめ登録しておいた個々の魔力情報を使い、後はいつでもその相手と通話が出来る便利アイテムだ。

「そもそもオメーが巣穴の情報さえ仕入れてくれてればもっと早く片付けられたし、毎晩抜け出してシャルから制裁を受ける事もなかったわい! 大体悟極っつったって万能じゃねーんだ。帝都全域の気配なんて探れる訳ねーだろ! あとに何かしれっと平和政策とか自分で言っちゃってるし」

『事実だろ。にしてもせっかくのストーカースキルもこの程度か。それじゃ立派なストーカーになれんぞ』

「ストーカーゆーな! なるつもりもねーし! そもそも悟極は相手の気配を感じるだけであって盗見も盗聴も出来ねーし! つか昨日今日の付き合いじゃあるまいに、そんなことオメーも充分知り尽くしてる事だろうが!」

『さて。そろそろお前のツッコミにも飽きてきたな。報告を聞こうか』

「……マジで何なのこの人」

 目の前に居ないのに、思わず拳を握りたくなる。

 そもそもこのユーサー=ジ=エクスと言う男。今でこそ第二十七代聖(セント)エクス大帝国の皇帝、なんちゅー立派な肩書きを持っちゃいるが、これでもまだ十九歳。二年前までは俺と同じ学院の先輩でもあり、初めて会った時から後輩をイジってはからかい、それを楽しみとする非常にムカつく奴だった。……いや今もか。現在進行形だ。

要するに腐れ縁ってやつである。

「にしてもまさか連中がセレクション、血の選別なんてモンを始めるとはな」

『純血に近い貴族のみを選別し補完。逆に純血から最も遠い平民は排除する。実に先帝らしい考え方だがグハールはもういない。ヤツは死んだ。二年前の革命戦の時に』

「そこが今回の最大の疑問点だな。グハール亡き今、血の選別を行った所でなんになる? 力も技術も未熟な連中だ。出来る事なんてたかが知れてる。帝国中の貴族を補完し平民を根絶やしにするなんて大それたこと連中に出来る訳がない」

『だが結果として組織を立ち上げた。いくら連中が阿呆とはいえ無駄な事に資金を投入するようなヤツらじゃない。何か裏があったとしか思えんがそこは引き続きナンバーズに任せてある。一応訊いておくがちゃんと始末はしたんだよな?』

「お前の首を撥ねる気満々だったけど、ちゃんと掃除はしといたよ」

『忌々しい連中だ。当然殺り返したんだろうな?』

「はいはい。ちゃーんと注文通り斬首刑にしといたよ。漏れなく全員な。……玩具の剣で関節キメるとかチョー面倒だったけど」

 しかも斬首限定って……わざわざ首だけ狙って落とすって……

「どんな罰ゲームだっつーの。それでなくてもこちとら夜な夜なの監視任務でシャルから別の罰を食らってるっつーのに。そのせいで餓死しかけて臨死体験寸前までいったぞ」

『人生は常に挑戦だ。限界を超えていってこそ若さ。聖騎士長もパラディンの称号もゴールに非ずだ』

「チャレンジゲームかよ! 良いセリフだけ言って有耶無耶にしようとすンなし」

『それよりアル、お前は今何処で何をしているんだ?』

「現場から二キロくらい離れた建物の屋上で野次馬が来ないか見張ってる。ゲルンの阿保ときたら事もあろうに廃墟ごと吹っ飛ばすモンだから、その爆音で気づいた誰かがワルキューレに通報してないかと気が気でなくて」

『捕らわれてた姫君は当然無事なんだろうな?』

「そのまま人工凍眠にするつもりだったのか、あんだけのドンパチがあったのに未だ可愛い顔しながらぐっすり眠ってるよ。怪我一つ負っちゃいねえ。つか女児に対してどんだけ薬濃くしたんだか。補完以前に殺す気かっつーの! 頭の悪い連中だぜ」

『彼女を囮に使ったお前が言うな』

「……そこは本当に申し訳ないと思ってる。――あ! それはそうとシャルとメルリ夫妻の件サンキューな。助かった」

『あーアレな。あのままシャルと夫妻がセットでいたら連中は動かないかもってオマエが言うから渋々引き受けたが、万が一にも彼女の身に何かあろうものなら今度はお前が斬刀台で首を撥ねられる番だった事を忘れるなよ』

「……だから申し訳ないって謝っとりますやん……」

 これは冗談ではない。マジなやつだ。言葉に乗る静かな怒気と殺意、発せられるトーンの重みで判る。もしエムリスに何かあろうものなら俺が処刑されていたかもしれん。……まぁ無理もないか。それも承知の上でお願いした訳だし。

『で、連中の死体はどうした?』

「そのまんま。だからナンバーズに伝書鳩を飛ばしておいたよ。アルト=ドランの名前で」

『あまりその名前を使うな。変に怪しまれてテコ入れでもされたら面倒だ』

「わぁーってるよ」

 ナンバーズとは別名を諜報騎士。少人数の精鋭ながら全員『№』で管理されており、帝国を裏から支える陰の組織だ。今回のような反乱分子、元貴族による国家クーデターなどと言った表で公表出来ないような事件を密かに処理してくれる連中だ。

「ま、今んとこワルキューレもガディナイツも向かってくる気配もないし。誰かが通報してるって線は薄そうだ」

『それでも廃墟が丸ごと一軒爆発してんだろ? なら遅かれ早かれ誰かが気づく。ナンバーズの掃除が完全に終わるまで気ぃ抜くなよ。痕跡も一切残すな。セレクションの存在はもちろんだが、それ以上に知られちゃならないことがある』

「ああ。わぁーてるよ」

 俺とユッサーは互いで確認するように口を揃えた。

 

 帝国の守護神が幼児化したなんて……誰にも知られちゃならねえ。


 口にしてみて改めて思い知らされる。……と同時に溜息も。

「……はぁ。今にして思えば。あの時は『何言っちゃってんのこの人?』とか『皇帝ともあろう方が遂に多忙過ぎて壊れちゃったか?』とか無駄に心配しちゃってたっけな」

『それはお互い様だ。本来なら居るはずの十七歳の少年が聖騎士長室に居なくて。代わりに六歳くらいの男児がぶかぶかになった聖騎士長の正装を着て部屋にいるんだ。髪の色も違うし。正直あの時ほど己の目を疑った事はない』

そもそもの発端は一ヶ月前に遡る――


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