5-1
――カール――
魔王とマザーの討伐から三日が経ちました。
まず結果から述べるに……、
「納得いかねぇ!」
「何がだ?」
「環境と待遇がだ」
俺はユッサーに対して不満、もとい抗議していた。何故なら――
「帝国の危機を救った守護神様を帝都地下奥深くの監獄に閉じ込めるとか、オメー正気か! 人なのか! 人でなしなのか! それとも人じゃないのか! 人辞めたのか!」
「人聞きが悪い。オレは至って正気だし。此処は監獄ではなく『元』監獄だ」
「似たようなモンだろ!」
カールが今いるのは皇城カリスの真下。
皇城には地下層があり全部で五つ。その内の最下層は元監獄となっており、防衛都市が建設されたと同時に跡地となり今は誰も使ってないし立ち入りもしない。
元監獄だっただけに広々としているものの、周りは石積みされた石壁が延々と続くばかり。地下水が近いせいか毎度どこからか水滴が落ちる音しかせずに静止した世界。朝昼夜も解らない薄暗い世界。誰も使っていないから看守もいない孤独な世界。
そんな所に俺は三日間も閉じ込められたのだ。
これを非道と言わずしてなんと言う。
「人権侵害だ! 幼気な子供をこんな空間に独り閉じ込めるだなんて!」
「愛馬がずっと一緒だったろ」
確かに俺の隣には相棒のウリエルがいる。
やたらと尻尾を高く振り、やたらと頭と鼻をすり寄せてくる。
「二年ぶりの再会だ。主と会えて嬉しいだろ。元々甘えたがりで人懐っこい性格だからな」
(それは知ってる)
セフィラ宝具:ウリエル。
ただ使われるだけの道具と違い、自我も自律心も持っている。性格は非常に穏やかな。基本的に争い事を好まず、足元の小さな虫や草木さえ愛おす程に慈しみの心を持っている。また己が主人に対する忠誠心も非常に高く甘え上手。とても人懐っこい。
しかしその反面、邪なるモノには一切の容赦がなく。己が信念と正義の下『敵』だと判断した相手には『御使い』として厳正なる裁定と天罰を下し破邪する。
「大体愛馬の寝床に対して、やれ環境が悪いだのやれ劣悪だのと。なんとまぁ酷い事を次から次へと。極悪か」
「劣悪とまでは言ってねーし」
そう、皇城カリスの最下層は現在『ウリエル専用の馬舎』となっている。
誰も立ち入らないではなく、誰も近寄らず立ち入らずの状況を自然と作り上げ。更に影ながら諜報騎士の一部に封印と監視をさせている。
だからユッサーは三日間に渡り、秘密裏に俺をこの場所へと閉じ込めた。
カール=ジュワースの正体を隠す為に。
「そもそも看守も鍵も牢屋にも入れてないのだから『閉じ込めた』は言い過ぎだろう。出られなかったのはただ単純にお前が三日もの間ぶっ倒れていただけだ」
「……しゃーねぇだろ。元々そゆー副作用なんだから」
強大な力や術ほど反動は大きいのは必然。
グハールや魔王アザが言っていた通り、万物支配と事象操作、そして聖王剣エリュシオンを使用した時の反動は大きい。燃費が悪いのはもちろんだが、そのエネルギー消費の大きさから凄まじく体力を消耗する。それは戦闘後でも同じこと。
元からして万物支配と事象操作は神具ウリエルの模倣。仮初の力で魔導書の呪いを解く事は出来ず。また神に等しき力を持ってしても完全解呪には至らなかった。おそらく『堕天使の我儘』なる魔導書はセフィラ宝具に匹敵する程の代物なのだろう。
故に戦闘が終われば聖騎士長アルト=ドランの姿は維持出来ず、元の六歳孤児のカール=ジュワースに戻ってしまい、その反動から介護度レベルMAXの重患者になってしまう。
そしてその後遺症はアルト=ドラン特有の症状。
近しい者なら一発で気づいてしまう。
「六歳児のカール=ジュワースが三日間も要介護度レベルMAXの重患者になってみろ。一発でシャルにバレる。それはなんとしても避けなければならない」
「だから諜報騎士にここまで運ばせたってんだろ。……もう耳タコだよ」
「解ってるのであれば愚痴なぞ垂れるな。此処の封印術を解くのにどれだけの労力を割いたと思ってる」
「わぁーってます! 充分に感謝してますよ、皇帝陛下! んで、俺がぶっ倒れてる間シャルにはどんな言い訳しといてくれたんだ? 自分の家族が三日間も音信不通になったらやべーだろ」
「抜かりはない。危険立ち入り禁止区域に無断で侵入し、諜報騎士にこってり絞られていると教会の方には伝えてある」
「なんだそっかぁ。それなら安心……――じゃねーだろぉォッッ!?」
抜かりはないと言うワードに一瞬安堵してしまったが、後の言葉を脳内リピートしてみると正気に返り、無我夢中でユッサーの胸倉へと飛び掛かった。
「おいおい。皇帝に暴力はいかん。如何にラウンズのトップと言えど死罪になっちゃうぞ」
「ンことはどーでもいいんだよ! 他にもっともらしい言い訳あったろ!」
「悪い事をしたから説教と罰を貰っている。カール=ジュワースらしい理由だろ不良生徒。ちなみに罰金はシャル宛に送っておいた」
……はい? ……罰金? ……送った? ……よりにもよってシャルに?
「何を不思議そうな顔をしている。立ち入り禁止区域に無断で侵入したんだ。ならその責任は保護者たるシャルと神父が負うのが当然だろう」
「実際は侵入してねーけどな。完全な冤罪だがな」
「こういう芝居はリアリティを追及すればする程に真実味が帯びてくる。実際に罰金が発生すれば財務大臣が公的な書類として残してくれる。やり過ぎて損はない」
「いや冤罪で罰金払わせられる時点で損しかねーよ」
「安心しろ。お前の今月分の給料を0にする代わりに、その分シャルに回して上手くプラマイ0になるよう調整する。S級魔獣討伐の特別手当って名目でな。これで教会もシャルも損はしない」
「俺だけ損してんじゃん」
「その代わり国庫が潤う。ラウンズの聖騎士長って意外と給料持っていくんだよな。地位が高いだけに。今月だけとはいえ払わなくていいってのは国としては有難い限りだ。財務大臣も泣いて喜んでたぞ」
「本人が了承してないんだがっ!? リアリティ云々の話はどこいった!?」
「お前が寝込んでうーうー魘されてる間に給料辞退の書類に拇印しといた。恨むなら周囲への警戒と状況判断を怠った自分自身を恨むんだな」
「……ひでぇ」
俺がげんなりしているのを他所に、ふとユッサーが「あ! そうだそうだ!」と何かを思い出したように一枚の封筒を手渡してきた。
「?? ……なんだこれ? また不幸の知らせか?」
「お前はオレを何だと思ってる。ラウンズの参謀殿からアルト宛への書状だ」
「……はぁっ!?」
応援にも来なかったヤツが今更かよ、と思いつつ手紙を開いた。
『拝啓。まずはお疲れ様でした。流石は聖騎士長と副騎士長、魔王とS級魔獣との戦いぶりお見事でした。失礼ながらこの度の襲撃事件、聖騎士長殿と副騎士長殿の実力を測る為に利用させて頂きました。アルト=ドラン殿とシャル=ラ=ピュセル殿、御二方が本当に我ら騎士団のトップに足る人物なのか否か』
「まるで見ていたようなセリフだな」
「実際に陰ながら見ていたんだろう。連中も帝国を守護するラウンズの一員だ。帝国の危機にただ座していただけとは思えん」
『しかし結果として皆を納得させるに至りました。革命後なんやかんやで聖騎士長殿と副騎士長殿の力に疑問を持っていた彼らも、以降は幾分マシになる事と思います』
「――マシってナンだよっ!?」
そこは認めたとかだろ! 意味わからん!
「要するに。今までどんな命令が下ってもあーだこーだといい加減な理由を吐いてはのらりくらり躱して来た連中も、今回の一件で従順とは言わずとも少しはマシになったって事だろ」
「……根本は何も変わってねーじゃんか」
嫌々ながらも従ってやるよ、って言ってるようなもんだろソレ!
「いいじゃないか。聖騎士長としての力は示せた。新政権が発足してまだたったの二年ちょい、組織的に一歩でも前進してくれたならそれでいい。問題は一つずつ解決してくれ」
「…………」
前途多難としか言いようがない。
「――という事で、残す最後の問題を解決してこい」
「??」




