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――シャル――
魔獣を生産する魔獣、個体名:マザー。
こいつを一言で表すとしたら超ド級戦艦。周りの木々や岩石を物ともせず、あらゆる障害物をぶち破りながら真っ直ぐ帝都へと侵攻して来ている。
物量も然る事乍ら最も厄介なのは硬いこと。頭から尻尾の先に至るまで兎にも角にも鱗が硬く、並みの攻撃では傷一つ付けられない。
生半可な攻撃ではマザーの足は止められない。攻撃も止まない。只ひたすら雑兵を自己生産し、弾丸として射出し続けては帝都へと直進していく。
「これじゃあジリ貧だね」
鱗の強度も厄介だが、雑兵たる魔獣の自己生産スピードが尋常でなく早い。
炎の壁で焼き尽くされる前に次の魔獣が特攻かけてくる。
まるでお構いなし。たとえ火達磨になった挙句燃えて灰燼に帰そうが本能のまま、如いてはマザーの意思のままに襲い掛かってくる。元々特攻隊として生み出されているが故にそもそも自我なんてモノが存在しないのだろうが、自爆覚悟の自我無き雑兵ほど始末の悪いモノはない。
(灰に仕切れなかった雑兵は守備隊に任せるとして)
問題はやはり大元、根っ子たるマザーだ。
(ミカエルで消し炭に出来ないのは歯痒いっすね)
実のところマザーを倒すだけなら、そんな問題ではない。
セフィラ宝具『ミカエル』――生命の樹を削って作られたとされる特別な宝具で世界に十個しか存在しない最高峰の宝具。この宝具の前では例えS級の魔獣だろうと恐れるに足りない。本気を出せばマザーの鱗だろうと断てるし焼ける。
が、下手にそんな事をしてしまえば帝都が地図上から消える事になる。
そもそもの話として雑兵魔獣はマザーの魔力湖から生み出されている。具体的には『器』から魔力を掬い取り、そこから術式を加える事で魔獣の肉体を構成し産んでいる。
そして戦闘開始から既に何千体もの魔獣が産み落とされている。
つまりマザーの魔力湖とは『それだけ』の魔獣を生産出来るだけのエネルギーが貯蔵されているということ。言ってしまえば『歩く移動要塞』でもあり、同時に『歩く火力発電所』でもあるのだ。
更に第二の問題としてマザーの鉄壁な鱗が出てくる。
強過ぎず弱過ぎずの加減が恐ろしく難しい。火力が高過ぎればマザーは倒せど爆発は免れないし。かと言って弱過ぎれば当然攻撃は通らずマザーの侵攻も止められない。
故にベストとされるのはその狭間、鱗だけを砕きマザーを気絶させて行動不能にすること。
しかし相手は魔獣だ。
全く動かない岩でもなければ、ただ殻に閉じこもって守りに徹しているヤドカリでもない。
むしろ帝都を落とす為、進行を阻むモノは全て薙ぎ払うと言った構えだ。
(それにさっきの光――)
学院都市内からも馬鹿げた魔力を二つ感じる。
マザーの侵攻と同時に学院都市からチカチカとした点滅めいた光が見え隠れする。それにほんの僅かだけどマザーをも上回る魔力体がいるのも感知出来る。
(ま。あっちはアルトパイセンに任せるとして)
一方の魔力は知らない魔力質だけど、もう一方は間違いなくアルトの魔力だ。連絡こそないけれど、応援要請がないという事はアルトが踏ん張っている証拠。つまり彼は学院都市内の事は気にせず、アタシはアタシのの仕事をしろと言っている。
「……ったく、こんなデカ物を女の子に押し付けて『あとは何とかしろ』って。後輩をなんだと思ってんのかねー、アルトパイセンは!」
戦闘中だというのについ愚痴が零れ出てしまう。そりゃそうだろう。なんたってあんにゃろー、ここ最近忙しいんだか何だか知らんけど。この一ヶ月あまり顔を見せないどころか……!
「――連絡の一本くらいよこしやがれっつーのォォッ!!」
聖女の鬱憤。乙女の怒り。
ミカエルの炎はそんなボクの想いを反映するかのように、真っ赤な火柱を上げた――
その直後。
マザーとは逆方向の帝国側、帝都の出入口たる関所の門前が破裂した。
「……おいおいおい」
「大渋滞で関所が破裂しちまいましたぜ、姉御!」
「このままじゃマザーと接触してしまうのも時間の問題ですよぉー、お姉サマぁ~」
「…………」
……マジで?
マザー帝都到達まであと五キロメートル。




