4-6
――アルト――
クリスタル状の剣と黒渦を纏ったアザの爪が幾度となく交差する。
衝撃から生まれる余波は周囲の瓦礫を更に粉微塵に砕き、秒速を超える剣戟は風圧となって粉塵を巻き上げて砂嵐となる。黒渦が防護のような役目を果たし、剣が届かない。
黒渦との衝突で生まれる亀裂が防御にも使えると学習してしまったようだ。
かといって退くという選択肢はない。あくまで前へ――
アルトは一旦距離を取り、瓦礫を足場にして縦横無尽に駆け回る。
真っ向勝負だけが戦いじゃない。戦場を幅広く使い、瓦礫や柱を上手く利用し、敵を牽制しながら態勢を崩して隙を作る。鉄板なやり方だが、実力が伯仲した相手ならば意外と効くものだ。
「……グッ! チョコマカト……図ニ乗ツナッァアア!!」
アザは魔力砲に黒渦を混ぜて放ってきた。
ならこっちも更に力を練り上げて、魔力と気功と霊力を一段階上げて『断つ』力を上げて対抗するのみ。
二つの巨大な力がぶつかり合い、空間の亀裂が雷のようにバチバチと弾け飛ぶ。
やがて視界が光に包まれたかと思いきや、抑えきれなくなった衝撃が破裂し、暴発した二つのエネルギーが闘技場跡地を覆う程の大爆発を起こした。
「はぁはぁはぁはぁ……」
「ハァハァハァハァ……」
噴煙と粉塵が晴れた先に、アルトとアザは立っていた。
互いに傷つき息が荒れていようとも、この程度の爆発で死にはしない。
実力が近い者同士だから判る。
お互いにまだやれる、と。
この程度では倒せないし殺せない、と。
「……なっ、なんなの……これ……!?」
激戦跡地。
既に更地同然と化し、闘技場としては見る影もない跡地の中心部で相対している俺らの間に突如として現れたのは――凄惨な光景に呆然と立ち尽くしているエムリスだった。
「ヌ? 貴様ハ……」
(……マジかよ、なんでエムリスが!?)
彼女は今催眠状態に掛かって学院都市の関所にいるはず。……なのに何で?
催眠を自力で解いた? いやそれはない。少なくとも『今』の彼女に魔王の魔力を跳ね返せるだけの力はないはずだ。
(…………いや。……待てよ)
そもそも彼女らを操っていた魔道具《理想郷》は使用者の魔力をエネルギー源としている。エムリスはグハールの実娘だ。魔力の質や波長が似ていたとしてもなんら不思議じゃない。
(……ちぃッ! そゆーことかよ)
今のアザはグハールの魂魄と溶け合っている。
人は死ぬと魂が抜け出ると同時に魔力湖の根源たる『魔力核』も地に還る。それが本来在るべき自然の形なのだが、グハールは血の妄執に取り憑かれるあまり理が逸した禁忌を使った。
ヒトの魂を魔王の身体に移植する。
幼体で休眠状態の魔王の身体を培養カプセルに沈め、少しずつアザの自我を破壊し、空の器(空の身体)を作る。そしていざ自分が死んだ時には乗り移る。実際にはアザの魂魄は破壊されず奥底に沈んでいた訳だが、ここで重要なのは魔王の身体の中に二つの魂が在るということ。そしてそれが上手い具合に溶け合っているという事だ。
魂魄と魔力核はほぼ同一、イコールでありセットだと言っても過言ではない。
ここまでくれば答えは出たも同然だ。
エムリス達、学院都市の生徒を操っていた魔道具《理想郷》のエネルギー源は魔王の魔力でありながらグハールの魔力でもある。そしてエムリスはグハールの実娘。
俺がグハールの意識を断ち斬った事で魔道具に乱れが生じ、動力源となっていた波長の最も近い彼女だけが催眠から解放された。数十枚あるトランプの中からたった一枚のジョーカーを引き当てるくらいの確率だろう。そこで更に運悪く現場の大爆発を見てしまい、心配だからか好奇心故にか駆けつけてしまった。身体が小さいから大人の目を掻い潜るなんて容易だっただろうし。……最悪のタイミングだ。
「ナルホド。余ノ魔力ニ混ザッタ忌マワシキ異物――ソノ血筋ヲ引ク者ダッタカ」
「…………忌まわしき血筋? それってどういう……」
「目障リダ。消去スル」
「……え?」
アザの爪先から無慈悲な魔力砲がエムリスへ向けて放たれた。




