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――魔王アザ――
刹那。
重力球から湧き出ていた回転刃がスパッンと、黒鞭にも似た魔力の渦が一刀両断され、たったの一太刀で全ての『破壊』が停止した。
それだけではない。
「……」
「ナンダ、ソノ姿ハ? 汝ハ何者ダ?」
見たところ歳の頃は十七。銀髪のロングヘアに白い聖職者のような正装を纏い、赤いマントを羽織っている。身体のサイズと魔力器の大小こそ違えど、その他の魔力の質や回路は『カール』と名乗っていた少年と完全に同一。それはつまり――
「ナルホド。先ノ矮小ナ姿ハ呪ワレシ『偽リノ姿』。今ノ姿形コソガ汝ノ『真ナル姿』」
「ああ。改めてよろしく。ロイヤル・オブ・ラウンズ聖騎士長:アルト=ドランだ」
少年の姿とは比べ物にならない。
魔力量の増加は勿論、魔力回路の回転数。自然エネルギーの吸収速度とバランスの向上率。
全てのスペックが大幅に向上し、それにともなって威圧感も増している。
「今ノ術ハ精霊術カ」
「魔術の最奥『万物支配』と対を成す精霊術の最奥にして極地『事象操作』。あらゆる因果を操作する反則技。俺のもう一人の育ての親で極悪を絵に描いたような鬼エルフから教えられたもう一つのチート技だ」
「ソノ力デ『呪イ』ヲ打チ消シタカ。シカシ不可解。何故ソノ力ヲ最初カラ使ワナカッタ?」
「ハナっから手の内を全ぶっぱするヤツは二流。せっかくの切り札も出すタイミングを間違えてしまえば効果を無にする場合もある。奥の手ってーのは適宜に使ってこそ最大の効果を発揮する。俺は師からそう教えられて育ってきた」
「理ニハ適ッテイル。シカシ本当ニソレダケカ?」
「グハールと同じ事を言うな。オメーも大概ヒトの腹を疑うのが癖だと見える」
「所詮ハ人間種、神ニ等シキ人外ノ力ヲ振ルエバ相応ノ代価。モトイ代償ヲ伴ウ。ノーリスクナド在リ得ナイ。故ニ汝ハソノ力ヲ隠シテイタ。アルイハ今マデ使エナカッタ」
「さぁな。実際マジでノーリスクかもしれねーし。使えなかったじゃなく本当に使わなかったのかもしんねーし。ネタバラシはしねーよ」
と、アルトは無手ながら腰に手を当て、極東の国に伝わる『居合』の構えをした。
「何ダソレハ? 剣モ持タズシテ何ヲ斬ル気ダ?」
「剣なら有るさ! 玩具でも拾い物でもねえ! 正真正銘、俺自身の『剣』が!」
瞬間。
光輝の一刀は大気ごと両断し、恰も鏡の世界を割たかの如くパリンと弾ける。まさに一線にして一閃、空間を物ともしない一太刀。大気はガラス片のように飛散し、再び元の大気へと溶けていく。
気づけばアルトの右手にはエメラルド色に輝くクリスタル状の剣が握られており、眼前には傷口を押さえながら息切れをしている魔王の姿があった。
「やるな。攻撃を受ける瞬間、例の黒渦を出して衝突の際に生まれる狭間の亀裂を利用する事でダメージを最小に抑えたか。流石は魔王だ。数多の同胞を喰らって頂へと昇っただけはある。王の冠は伊達じゃねーってことかな」
「……ハァハァ……随分ト大キク出タナ。王デアル余ヲ見下スカ、下等ナ人間種ノ分際デ」
「確かにオメーは強い。成り立てとはいえ、過酷な魔獣同士の食物連鎖を生き抜いたその強さは疑いようがない。今の一撃で絶命しなかったのが、その証。――もっとも俺にとってオメーは『化物』であれど『本物』じゃねえ。想定外であっても想像の埒外にはない。オルクとルネに比べたらオメーなんか屁でもねえ」
「何ヲ……言ッテイル?」
「気にするな。俺の個人的感想と事実を述べただけだ。所詮はオメーもグハール同様ただ『力』のみを求めて続けてきた一介の化物に過ぎない。ただひたすら己の為だけに生き続け、ただ己の為だけに他者を喰らい、ただ己の為だけに爪を磨き続けてきた。っンな独善と本能だけの野郎に『本物』は宿らない。中身のない空っぽの力なんぞに誰がビビるかよ」
「――図ニ乗ルナ、人間種風情ガッ! 汝ノ傲語タラシメテイル『剣』ノ正体ナド既ニ見切ッテイル!」
今まで魔王ならでは、上から目線だったアザが声を荒らげた。
「汝ノソレハ『オルゴンノ剣』、高密度ニ圧縮サレ、具現化サレタ自然エネルギーノ塊。魔力ト霊力ノ融合ノ果テ。糸ノ隙ヲ縫ウ程ノ繊細ナ魔力操作ト綿密ナ計算ヲ編ミ込ンダ極術式――万物支配ト事象操作ヲ統合サセ形ト成シタ『理』ソノモノヲ断ツ剣」
「たった一刀受けただけでそこまで解っちまうとはな。伊達に長生きしちゃいねーって訳だ」
「ソレハ人ノ身ニハ過ギタ力! 若ユエノ大言壮語ナド愚劣極マリナシ。火傷デハ済マヌゾ」
「そいつは俺も同感。この力はヒトが扱うには反則過ぎる。これは化物が扱う術だ。――けど。今この場にオルクとルネがいたなら言うハズさ。たとえヒトの身に過ぎた力だったとしても『己が我儘を貫き通したいのなら躊躇うな』ってな! だから俺は使うぜ! もう二度と――魔獣なんぞに俺の郷は焼かせねえッ!!」




