1-1
「……ぼく、は……カール=ジュワース……と呼ばれる者でございま……する。嗚呼……そこのうら若き乙女よ……。ちょっとでいいです。パンの一欠け。端っこだけでも構わないので。どうか、どうかこの……不憫な幼気男児を少しでも憐れだと感じられるのであればどうか……どうかこの哀れで可哀そうな雑草めにせめてもの慈悲を恵んで頂きたく存じ……ま……する。――ばたん」
「…………」
改革から二年後の新年度。春の季節を彩る桜の花びらが咲き乱れ、四月の心地良い穏やかな風が流れる中。力尽きた謎の少年を前に、少女はただ茫然と立ち尽くす。
唐突の事過ぎて状況の把握に謎の静風が吹き、毎朝手入れを欠かしていない赤茶毛のロングヘアが虚しく揺れる。言葉が出てこない。
というのも……
(……学院の院門前で行き倒れ? ありえない! 絶対にありえない! ……とてつもなく怪しいわ!)
エムリス=メルリは怪訝な顔をした。
此処は聖エクス大帝国の学院都市の院門前。天下のアヴァル帝国学院だけに豪華な装飾、初等部から高等部までの多くの生徒が行き交う門。
ましてや今日は入院式だ。普段と違って新生徒だけでなく保護者も同伴で来ている。
しかもこの子ってばよく見ると黒髪ショートの金眼男児。ちょっとお洒落な黒ローブとか羽織っちゃってて明らかにセントラルの方から来ました、みたいな恰好をしている。裕福とは言えずとも今日明日の食事すらままならないと言う貧困層には見えない。かといって空腹状態を偽っているとも思えないし。もし演技であるならそれこそプロの子役だ。しかしそうにも見えない。とても舞台映えしそうなイケメンではない。言ってしまえば何処にでもいそうな普通の子供だ。
そんな子供が学院の門前で行き倒れ?
しかも空腹で?
よりにもよって入院式当日に?
お祝いの日に?
――常識的に考えてありえない。レア中のレアケース過ぎて逆に引く。怪しすぎる。
現にさっきから色んな新生徒や保護者が通り過ぎていくが、怪しさのあまり誰一人として声を掛けようとしない。警備員だけでなく皆が皆ゴミ屑でも見ているかのような目で避けて通っていく。貴族に至っては汚物以下、誹謗と中傷すらしている。
あたしだって素通りするつもりだった。けど……
(……流石に声をかけられて素通りは出来ないわ)
そこまで人でなしにはなれない。
そもそもの話――
「うら若き乙女って……どう見てもあたしと同じ六歳くらいにしか見えないんですけど。お父さんお母さんは一緒じゃないんですか?」
「ほ、保護者と指す人物に関しましては……只今不在でして。……で、でもけして怪しい者じゃ……ございや……せんです。ホンマにただの空腹による行き倒れ……なので……」
「自分で行き倒れとか言っちゃうんですか?」
一応自分でも怪しい人『かも』くらいの自覚はあるようだ。




