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3-2

――シャル――


プライウェン防衛都市。またの名を『地下移動要塞都市プライウェン』。

 その存在と使命は国家の中枢たる帝都の守護は勿論のこと、雛鳥達の巣たる学院都市の防衛にある。普段は帝都直下にその所在を置きながら両都市を裏から支えている。

そしていざ外敵が攻めて来ようものなら、プライウェンは路面電車の如く都市ごと移動し、地上にて如何なる敵をも排する鉄壁の要塞と化す。それゆえ仕事も早く、アタシが学院都市外へ現場入りした時も既にプライウェンは要塞化して迎撃態勢が整えられていた。

そこには国防騎士団たるガディナイツの面々以外にも帝都治安維持局のワルキューレもおり、当然そのトップたるメルリ夫妻も現地入りしていた。

「お姉サマぁー! お待ちしておりましたわぁ~」

「姉御が来られる前に監視偵察用魔道具を飛ばして空の天辺から色々と確認しやしたけど。今んとこ町や村への被害はありやせん。ただ計算よりもヤロウの移動速度が速く帝都到達まで一時間も掛からねぇって算出が。加えて卵まで散弾してきてやがる始末です」

「たまご? ……ナニそれ?」

「あの魔獣ヤロウ、自ら産み出した卵を弾丸のように撃ち出し、着弾する手前で卵を破裂させて一個の卵から七から十匹の成熟した魔獣を産み落とすようなんっすよ」

「まさに大群を乗せた移動要塞ね。同じ移動要塞同士、久々に腕が鳴るわぁ~」

 映像で確認する限り魔獣はワニのような姿形をしており全身を鎧のような鱗を纏っている。周囲の木々や山々と比較してみると、その大きさはド級軍艦並み。巨躯のくせに鈍化に非ず、手足の位置が悪そうに見えて速力もある。防御面にしても強硬だと言わざるを得ない。ちょっとやそっとの攻撃じゃビクともしなさそうだ。

おまけに十キロ近くもの遠距離攻撃を容易にこなし、その弾丸は魔獣カプセル。卵一個につき最大十もの雑兵魔獣が入っている。しかも連射可能。十発撃たれたら百匹出てくる計算だ。

この様子だと対空攻撃能力も平然と備えていそうだし。魔力容量にしても一都市分はあるとみていい。まさに移動要塞、歩く大量破壊兵器。正真正銘の怪物だ。

「このS級魔獣については今後『マザー』と呼称するのが妥当かと」

「子をミサイルにするマザーなんてロクなモンじゃないけど。そもそも魔獣に親と子の概念なんてないしイイんじゃない。それより問題なのはこの魔力量と物量だね。……こりゃ思っていた以上に手間取りそうだ。それで学院の生徒さんは? もちろん娘さんも含めて」

「…………。門番からの報告によればどうも帝都の外に出ようとしているらしいわぁ~。確認出来てませんが、おそらく……エムリスもそこに」

「……憶測ですがマザーに引き寄せられているんじゃねーかと……」

 心配が顔に出てる。

 手塩に掛けた娘が何者かに操られているんだ。心配しない訳がない。内心気が気でないはずだ。今すぐにでも飛んで行きたい思いだろう。けど操られているのはエムリスだけじゃない。娘だけが危ない訳じゃない。彼女だけを特別扱いは出来ない。

 二人は国防騎士の団長と帝都治安維持局の局長だ。二人には帝都を守る使命がある。

 解っているからこそ今此処にいる。帝都を守れば娘も守れると信じているから。

「だいじょーぶダイジョーブ! そんな暗い顔しないで先輩! マザーを倒せばすぐにでも会えるからさ!」

「お、おおおおねえザマぁああ~……」

「さすがはウチらの姉御だぜ! そうと決まればサッサとあんなデカブツ打ち取っちまいましょうズェ! んで他のラウンズ様方はまだ来られないんですかい?」

「アイツらは来ないよ。間違いなく」

「「…………………………は?」」

「だってアイツらアタシだけじゃなくアルパイセンの事もラウンズの長だって認めてないからね。一応ダメ元で打診はしたけど、返ってきた答えがなんとまぁふざけた回答で――『この隙を突いて他三カ国が攻めてこないとも限らない。なので自分らは己が領土防衛に専念する。自領の民草を最優先に守るのが我らラウンズとしての責務だ』とか。これ見よがしに十人全く同じ文面で送ってきやがりましたよ」

「……完全に示し合わせてますねぇ~」

「帝都にはアルパイセンとアタシ、二人の若き天才が常駐しているから大丈夫だろうと。けどっンなモンはただの詭弁。連中からしたらたかが十七・十六の童と小娘にいつまでもラウンズの天辺に座してもらっては困る――そんな所しょ。協調なんて微塵もない。ホント姑息な考えしか持ってないっすよ。今のロイヤル・オブ・ラウンズは」

「……風の噂かと思ってたっすけど。マジでラウンズの皆さんって仲悪かったんっすね。大丈夫なんすか? 陛下は何もおっしゃらないんすか?」

「まー無理ないっしょ。革命からまだたったの二年弱。新政権が立ち上がって日も浅い。そんな状況でアルパイセンやユーサー先輩に従う人なんて、学生時代からなんやかんや繋がってるアタシらくらいなモンしょ」

「……それでも首都が落ちたら元も子もないじゃないですかぁ~。……アルトサマとお姉サマ以外のラウンズっておバカさんなんですかぁ~?」


「帝都が落ちる前には総出で駆け付けられるよう準備だけはしている。その過程でアタシとアルパイセンが戦死すれば儲けモン、生存したのであれば残念って程度には思ってるんだろうけど」

「そういえばアルトサマは来られないのですかぁ~?」

「ユーサー先輩が言うには別件で動けないらしいよ。ただ――」

「「?」」

 シャルは威風堂々。または自信満々といった面持ちで要塞都市の高台から飛び降り、不敵な笑みを浮かべながら背中から大剣を引き抜いた。


「アタシは『手間取る』って言っただけで『勝ち目がない』なんて言った覚えはないよ」


 外に出てみると、そこには既に延べ数百の部隊が戦闘を開始していた。

均一に並べられた置盾、隙間には大砲の砲身を突き出させ、更に各々の宝具で魔獣群の侵攻を防いでいる。必死に善戦してはいるが、やや押され気味な様子だ。

そんな状態でありながら、アタシの姿を見るや彼らは「シャル様」「シャルさま」と四方から希望的な笑みを零してきた。

シャルは大剣を構えた。

 自分で言うのもなんだが、この大剣はアタシの体格と背丈に合っていない。アタシ自身が小柄で華奢というのもあるけれど傍から見るとかなり不格好である。対比のせいか子供が無理して背負っているようにも見られる。

 が、実はこの大剣も宝具。紅葉のような華剣で、刀身はアクリルのように透き通っている。一般的な鉄製でなくオルゴン製。故に軽い。見た目ほど重量はない。子供でも容易に振り回せてしまう程に超軽量級なのだ。そのくせオルゴン製は世界最硬、ダイヤモンドをも超える程の強度も備えている。だからこそシャルは一切の遠慮なしに魔力を注ぎ込める。

刀身に炎が宿る。

刀身に炎が纏う。

刀身に炎が帯びる。

刀身の炎が火柱を上げる。

「火の用心、帝都に仇を成すこと火傷にご注意をッ――ってねー!」

シャルはフルスイングした。

すると炎は数百を超える魔獣どもに向かって一直線に伸びていき、炎は大洪水のように敵を吞み込んでいく。辺り一帯は瞬く間に炎の海と化し、そこから更に燃え続ける。それは新たに孵化していく雑兵をも灰燼に帰す。

「さて。これで魔獣共も減る事はあっても増える事はないしょ。先輩方、今の内に態勢を整えて下さい。マザーが帝都に到達するまで時間がありません。部隊の再編成が完了次第、こちらから打って出ちゃいましょう!」

「合点承知の助よぉ~、お姉サマぁ~。双頭夫婦の力――魅せてやりまショウ、ホルン」

「当然だろブラド! なにより姉御との共闘だ、久々に腕が鳴るズェ!」

メルリ夫妻がやる気になっている一方、問題はこっからだ。

 正直こんなのはただの時間稼ぎ。母体たるマザーを叩かなければ何の解決にもならない。

 あの巨大な移動要塞をどう攻略したことか? ぶっちゃけ力押しは苦しい。

 水晶の映像から想像するに、あのワニ型魔獣の鱗は鎧でありかなり頑丈だ。単純にアタシ一人では火力が足りないだろうし。仮に鎧を貫いたとしてもS級の巨体を燃やし尽くすには、やはりもう一手足りない。そもそもS級魔獣の討伐は一国を相手取るに等しい行為だ。物量はもとい、魔力容量からしてもそれだけの存在だ。

(それをアタシ独りに押し付けるとか……アルパイセンもユーサー先輩もナニ考えてんだ?)

 若干イラっとしてきた。



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