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3-1

――カール――


 カールくんってほんとに子供? 年齢ごまかしてるんじゃない?

 修練場裏での一件直後、疑心に満ちた真顔でエムリスに言われてしまった。

 確かにアレは六歳児ならぬ子供のセリフではなかった。後になって「少々素を出し過ぎてしまったか」と反省している。が、素を出さない言葉に説得力がないのもまた事実だし。偽りの言葉で諭せるほど子供もバカじゃない。……とはいえ今後はもうちょい自重しよう。

それと予期せぬ事がもう一つ――

「カールのアニキ! これからお帰りですよね! 良ければおれ様ん家の高級自家馬車で送りしましょうか! ――いえむしろ送らせて下さい!」

「…………。いやぼくはべつに……」

「ベティさんのアニキならばカールさんもおれらのアニキも同然。お二人に付き添うがこのテラー家領主次男:ドナ=テラー最上の幸せ。お二人が望むなら爆弾だろうがミサイルだろうが用意してみせます!」

「無論。ベティさまとカールさまのいる所にこのマコーレ=グローヴァもあり。エスコートが必要ならこのホテル王の三男にお任せください」

「…………」

 五時限目終了の鐘が鳴った直後の放課後。

 貴族三トリオが舎弟のように懐いてきて俺は唖然としている。……なんなの、急に態度変わり過ぎじゃね? 俺はただ指導しただけだぞ。怪我もさせずに出来るだけ穏便にな。

なのに何故こんなに態度が変わるんだ? 昼の時と真逆じゃねーか。もはや別人だよ。女神が沈んでいる不思議な泉にぶち込んだ記憶はないぞ俺は。確かに「素直になれ」とは言ったけれども、これじゃ本当に鉄の斧と金の斧を交換して貰ったみてーじゃねぇか。

「エムリス……ぼくってば踏んではいけない地雷を踏んでしまったんだろうか?」

「そもそも踏んでいい地雷って存在するの?」

 そりゃそうだ。

 しかし真面目な話、高級馬車で送迎されて衆目に晒されるのは困る。こちとら身分を詐称している身だ。身バレは勿論のこと、憶測やデマすら飛んではならない。

目指すは『普通』。目立ち過ぎず隠れ過ぎずが理想なのだ。

ここは当たり障りのないよう断るべきだ。

「え~っと、気持ちは嬉しいんだけどやっぱぼくは歩いて帰――」

 

 チリーン。


「……??」

 ……鈴の音?

 しかも聴覚にではなく頭の中で響いている。チリーン、チリーンと。

(……なんだ……これ……?)

 反響している。

 言霊のように――何度も。何度も。

「……なんですか、この鈴の音?」

「へ? エムリスも聴こえてんの?」

「カールのアニキ、おれ様たちにも……」

「オメーらも?」

 教室を見渡してみると、皆が俺らと同じように手を耳に当てている。

 ひょっとして初等部全員に聴こえてる?

 まだ聴こえる。

 ひたすらにゆっくりと。ただゆっくりと穏やかに。まるで睡魔に誘うかのように。幼子を寝かしつける子守歌のように――ただゆっくりと。

 やがて静かになった。

「……ん? 止まった?」

「…………」

「……って、おいエムリス? どうした?」

「…………」

 彼女の様子がおかしい。

 おい! しっかりしろ! と彼女の肩を前後に揺らしてみるも焦点が合っていない。

「……一体どうなって――……って!?」

「「「…………」」」

 貴族トリオも!?

 エムリス達だけじゃない。気づけば皆目が虚ろな目になっており、魂が抜けたかのように焦点が合っていない。ぼーっと立ち尽くしたまま静止している。明らかに異常だ。

「てか何で俺だけ何ともねぇんだ? てかマジで何が起きてんだ?」

 すると今度は――

「――うおっ!?」

 立ち尽くしたまま動かなかったエムリス達が一斉に動き出し、軍隊の行進のように教室から出ていく。

「お、オイ! オメーらどこ行く気だ!?」

「…………」

 無言だし。相変わらず目は虚ろで焦点が合っていない。まるで催眠に掛けられた操り人形のような――

「まさか……操られてんのか?」

 カールは咄嗟に窓の扉を開けて外を覗き込む。

 すると剣術科の生徒だけでなく初等部、いや中等部高等部の生徒全員が学院の門を出て何処かへ行こうとし、教師陣がそれを止めている。

「学院の生徒だけ操られてる? 教師は……大人は操られてねえって事か?」

 けど操られた生徒は何処へ向かっている?

 これは明らかな異常事態だ。きっと教師陣がワルキューレに通報しているはず。

 そしてワルキューレの局長はホルンだ。なら自然とガディナイツ団長のブラドの耳にも入っているだろう。

 カールは慌てて聴覚同調シンクロナイズを起動させた。

「ユッサー、聴こえるか? 応答しろ!」

『そんな大声出さなくとも聞こえてるし状況も把握してる。だから喚くな』

「一体何が起きてる?」

『今帝都の外にS級の大型魔獣が侵攻して来てるらしい』

「……なんでンなモンが帝都に? 確かに魔獣は人を襲う傾向が元々強えーけど」

 だからと言ってわざわざ人口密集地の多い都市を狙う程ではないし。それでなくとも大国の首都には魔獣除けの結界が常時張られている。ただの本能で攻めて来ているとは考えづらい。

『とりあえずS級魔獣の方はガディナイツとワルキューレを先行させてシャルにも向かってもらったから何とかなるだろう。で、オマエの方の用件は?』

「学院の生徒全員が操られて一斉に学院の外へと向かっている。まるで催眠にでも掛かってるかみてーに」

『なるほど。S級魔獣の件といい学院の生徒全員が操られている件といい、いずれも偶然で片付けるには難しい所だな。間違いなく誰かが意図を引いている』

「そゆーユッサーは今何処で何してんだよ? こんな時に玉座でのんびり座ってるオメーじゃねーだろ?」

『そうだな。ついでだし先に謝っておく。スマン』

「…………。……は?」

 何の脈絡もなしにいきなり謝られたし。

 なによりあのユッサーが素直に謝るだと!?

「貴様何をやらかした?」

『あーそうだな~。あんま時間もないから簡潔に説明するとだな。グハールの負の遺産をシャルと一緒に引っ掻き回したらとんでもない爆弾を見つけちまって……誤ってそいつを解き放っちまった的な』

「それで?」

『つい今しがたその爆弾がアヴァル帝国学院の方に飛んで行ってしまった。地下の岩盤を強引に突き破ってな。どうせお前の事だからまだ学院に居るんだろ? ――と言う訳で、(セント)エクス大帝国・第二十七代皇帝としてロイヤル・オブ・ラウンズの聖騎士長に命ずる。なんとかしろ――以上』

「――命令が雑だしオメーの尻拭いかよ!?」

『けどアレは元から時限式で起動する仕掛けだったし、結局は遅かれ早かれだ。オレはただそのタイマーの解除が間に合わなかったってだけで厳密に言えばタイマーを生前にセットしていたアレが悪い訳だし、根っこで言えばオレは悪くないんだよな? ちっ。謝って損したぞ』

「…………」

 ……なんだろうこの気持ち。それって要は責任転嫁だろ? 

第二十六代皇帝グハールも人間の価値を血筋だけで決めるクソ野郎だったけど、第二十七代皇帝は民草には優しいもののオレに対してだけは当たりがキツい。これが皇帝と部下の関係? それとも二〇と十七の年齢差? あるいは学院時代における先輩後輩の性?

『ま。アルト=ドランの力はオレが一番認めてる所だし。学院からの付き合いもあって信頼もしてる。なによりオレが素で相手できるのは近親者を除けばお前かシャルぐらいだ。革命を成功させてくれた時のように――またなんとかしてくれんだろ? オレはオレの方で、オレの出来る事をやる』

……ちっ。わぁーたよ、と返事をするも。恥ずかしげもなくよく回る口だ。



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