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2-6

――シャル――


「……うっわぁ~、ナンなんですこの施設?」

「この国の闇と言うかグハールのエゴだな」

「ナンすかそのメンド―な言い回し。回りくどいな~」

 ユーサー先輩に皇城カリスへと呼び出され、同行させられたのは城の地下施設。

 表沙汰に出来ない裏の研究施設だ。辺りには書類の山が散乱し、実験に使用したと思わしき試験管やら注射器やらが割れており。培養カプセルに至っては未だに何機が稼働してそのまま放置されている始末。カプセル内の様子を覗いて見るにどうやら魔獣だけでなく人体実験も行っていた痕跡も多々ある。クーデター戦時に研究者らが慌てて逃げた証拠だろう。……見るだけで吐き気を催す光景だ。……血生臭い残り臭、悪臭も残ってて口や鼻から手が離せない。

「ユーサー先輩の御父上殿はこんな場所で一体ナニやってたんです?」

「それこそ回りくどいだろ。アレに様や殿を付けるほどお前もアルも敬っちゃいないし、オレもあんな利己的な狂人を父だなんて思った事もない。アレは『ジ』の血筋に取り憑かれた憐れなマッドエンペラーだ」

「それを言ったら先輩だってユーサー=ジ=エクスって名前にも『ジ』が入ってるけど」

「そもそもが古臭いんだよ。古の英雄の血だかなんだか知らんが、血筋だけで人間の価値を決定付ける政策は下の下だ。過去の栄光にいつまでもしがみついて何になる。過去の偉人を敬うのも大事だが、そのせいで『今』の民が差別され侮蔑された挙句に苦行を強いられるなんてのは大きな間違いだ。『今』を生きてるのはオレらだ。これからの未来を作り紡いでいくのは過去でも血でもなく『今』の子供達だ」

「はいはい。その話は何度も聞きました。蒸し返したアタシが悪ございました。――で、今更こんな場所に来てナニすんです? しかも現皇帝が直々に。しかも内密に調査だなんて」

「セレクションの連中については話したな」

「あー例の不正貴族の集まりだね。なんか昨日アルパイセンがリーダーを潰して壊滅させたらしいけど。――てゆーかそれって完全にナンバーズの仕事じゃん! ――てゆーかあの人今ナニやってンの! ――つーかあの人連絡どころか顔すら見せないんだけどっ!」

「色々と多忙なんだろ。しばらくは顔見せられないってよ」

「ひょっとしてユーサー先輩ってばアルパイセンを亡き者にしちゃったりしてません? 国を取ったからお前はもう用済みだぁー的な?」

「オレを悪逆皇帝にするな。そんなことより今はセレクションだ。何故連中が『血の選別』なんて阿呆な考えをするように至ったのか。その答えが此処にある気がしてならない。戦後処理の新しい法律やら新政策やらでロクに調べられなかったからな」

「無理やり話題を戻してはぐらかそうとしてるっしょ?」

「現職の皇帝ともあろう者がそんな姑息な事するわけないだろう。なんならこの件が片付いたら連絡の一本でも入れるよう打診しといてやる。だから探せ」

「ほいほい。解りましたよ、皇帝陛下先輩」

「面倒くさい呼び方すんな」

 床に散乱する書類を一枚一枚手に取ってみると、中には人体実験の経過観察やら魔獣に関する記述が色々とある。

「実験経過報告書:人体に魔獣細胞の一部を移植してみた所、魔力回路の回転速度に変化が見られた。けれど拒絶反応が強く被検体の多くは一週間と持たずに全員死亡――って……うげっ。気持ち悪ぅ~」

「だろうな。元々魔獣は魔術至上主義を謳っていたアルケミア連邦国が『源魔神復活』の一環として作り上げた魔力を持った獣。戦時中あらゆる交配と繁殖を繰り返し増殖・強化されていき、今じゃ戦後の負の遺産とも言われている。いくら魔力を有した生物同士といえど種としての存在も魔力の質も大きく異なる。そんなモンを人体に移植したら当然拒絶反応が起こり絶命する」

「でもグハールは研究してた訳だよね。現にフラスコの中には人間の血と魔獣の血を混ぜたみたいな赤くてドス黒い妙な液体が入ってるし、培養槽の中も魔獣だらけ。とても平民と貴族の血を差別化していた男の研究とは思えないわね」

「確かにな。だがアレが国費を使ってこの研究所に多額の予算を回していたのは事実だ。才能無しと判断されて捨てられた下級貴族の人数と実験体の数とも見事に合致している」

「クズだね」

「紛れもないクズだ。だがそのクズのやろうとしていた事が解らん。なによりも『ジ』の血を補完しようとしていた信者が、よりにもよって魔獣の血を混ぜるだなんてありえない。ひょっとして血を混ぜる事は単なる研究の過程に過ぎないのか? それともデータを集めるのが目的か? だとしたらゴールは何だ? この研究の果てが英雄の血とどう結びつく?」

 ユーサー先輩はブツブツ呟いたまま物思いに耽り始めた。

 その姿にふと言葉が出る。

「やっぱ皇帝になろうとも先輩は先輩のままっすね」

「? ……なんだ藪から棒に?」

「学生の頃から何も変わってないってゆーか、どんなお偉いさんになってもユーサー=ジ=エクスなんだなーって。少し安心したって話だよ」

「それはオレが成長してないってことか?」

「いやいや。アタシはいつだって先輩を尊敬してるって話だぜ」

 ユーサー先輩が「……増々訳が解らん」という訝んだ顔をした、その直後。

 唐突に先輩の聴覚同調シンクロナイズが鳴った。

「オレだ。どうした?」

『――ガディナイツより緊急報告! 帝都外、東へおよそ十キロ弱よりS級と思わしき大型魔獣の侵攻を確認! 真っ直ぐ帝都へと向かっている模様! 陛下御指示を!』

「――S級の大型魔獣だとっ!?」

「……え、ガチで?」


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