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2-5

――カール――


 修練場の裏。

 学院内でも人気がない場所ランキングトップ10に入りする場所。ぶっちゃけて言えば貴族が平民をイジメる為の定番スポットだ。

……ベティ=ウィル……なんとも分かりやすいヤツ。

いや、そもそも貴族が平民に対して『指導』とか言う時点でイジメる気満々か。

着いた途端にいきなり模擬剣抜いてるし。昨日支給されたばっかの模擬剣をいきなしイジメで使うってどんな教育受けてきたんだか。……ほんと困ったモンだ。

「てかエムリスは付いて来なくてもよかったんだぜ」

「見て見ぬふりなんて出来ませんから」

 ツンツン娘ながらなんて良い娘なんだ。察しもいい。

同じ貴族でも教育の差を感じざる得ない。

騎士団長で忙しいながらも、ブラド先輩とホルン先輩はちゃんと親をしてるってことか。

「フン! 昨日の顔合わせ、あんなのはままごと剣術だ! このおれ様たちがホンモノの剣術ってのを教えてやる!」

「ほぉー」

 後ろの取り巻き共々「へへへ」と薄ら笑いを浮かべている。

 皇帝直属、帝国最強と謳われるラウンズを統べる俺が入学したての初等部の子供から本物の剣を教わるというのは中々に面白い絵面だな――って、ん?

 ベティの模擬剣が淡く発光している。

「おどろいたか! 魔力ってのは宝具だけじゃなくこんな玩具の剣にも流せるんだぜ!」

「どうだスゲーだろ、ベティさまは!」

「これが貴族、ベティさんの力だ!」

「へぇー」

 素直に感心した。

 まぁ大方実家の宝具を弄って自力で練習したんだろうが、六歳児で既に魔力の放出が出来るとは大したモンだ。性格は別として。

けど同時に憤りと共に呆れすら感じる。

「――ちょっとあなた達! 魔力を使うだなんてシャレじゃすまないわよ!」

 説明ありがとう。

 そう。これが未成年に宝具を持たせられない理由の一つ。魔力を使うというのは本物のナイフを手に持っているも同然。たとえ玩具の剣であろうと鋭利な刃物と変わらない。それを面白半分、たとえ若気の至り(子供のイタズラ)であろうと許されない。もし相手が俺じゃなく見た目も中身も本物の六歳児ならイジメの域を超えてしまっている。下手したら殺人、良くて殺人未遂すらあり得る事案だ。

 カールは敢えて模擬剣を抜かずゆっくりとベティへと近づいて行き、魔力の通ったベティの剣を素手で鷲掴みにした。

「――なっ……ナニしてんだコイツ!? 頭おかしいんじゃないのか!?」

「魔力の通った剣を握るだなんて……バカなのか!?」

「無知にもほどがあるぞ!?」

「早く手を離しなさい!? 手切れるわよ!?」

「ばーか。こんな綿あめみてーなふわふわ魔力なんぞで手が切れるかよ」

 ……は? と皆は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした。

 前述でも言ったように、ベティは実家にある宝具を弄って自力で練習しただけだろう。誰かの指導を受けた訳じゃないのは魔力の出具合や練り具合で判る。ゆえにコントロールが出来ていないのも一目瞭然。

「オメーがやってるのはただ玩具に魔力を流し込んでるだけだ。そんなんじゃ硬くすることは出来ても刃にはならない。例えるなら木の棒が鉄の棒になった程度だ」

「――このっ! ナニをえらそうにっ!」

「ベティさまから手をはなせ! 平民風情が!」

「不良のくせにベティさんに盾つきやがって、身のほどを教えてやる!」

 取り巻き二人が模擬剣を振るってくるも、ベティの剣で一方を防ぎ、もう一方を自分の模擬剣で防いだ。いくら怪我をしない訓練用の剣とはいえ簡単に当たってやってはすぐにつけ上がる。

「まぁ平民も不良生徒も事実だから否定しねーけど。少なくともぼくは授業内容に不満があるからって他の生徒に八つ当たりしてケンカを売るなんてダセェマネはしねーよ」

「……ぐっ!」

「他人から言われると結構恥ずいモンだろ。たしかにプライドは自己を肯定する上で大事な要素だ。自分の中に芯がある証でもある。けどプライドばっか気にしてると逆に恥をかくことだってある。今のオメーらみてーにな。だからまずは認めろ。世界は、国はオメーらを中心に回ってるんじゃない」

「…………」

「オメーらには素質がある。努力さえすれば必ず強くなれる。けどせっかくの才能をプライドとメンツが邪魔してる。貴族は絶対強者でもなければ万能者でもない。所詮は一人の人間に過ぎねぇんだ。オメーらにだって夢があるんだろ? 格好とメンツばっか守ってせっかくの素質をダメにしちまうなんて勿体ねーじゃん」

「…………」

「極東の国にこんな言葉がある。聞くは一時の恥聞かぬは末代の恥って言ってな。知らないことを聞く時それは一瞬恥ずかしいことではあるけど、逆に聞かないまま放置しとくと一生の恥に代わるって意味だ。オメーらはまだ初等部に入学したばっかの子供なんだ。全てを知った気になるな、全てを得た気になるな、それはウィル家にとって将来末代までの恥になる。だから素直になれ。身分に囚われるな。他人を見下すな。子供であろうと大人であろうと世は常に学びの場なんだ」

「…………」

 三人とも剣に力が無くなっていき、無言のまま固まっている。

 各々の中で色んな思考や想いが駆け巡っているのかもしれない。

 ならここまでだ。

 カールは抜いた剣を鞘に戻し、鷲掴みにしていたベティの剣からも手を引いて。


「ま、よーするに。人間素直なのが一番ってこった。極端な話、実直で素直に学んだヤツが一番強えーんだよ」


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