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2-3

――カール――


 翌日の朝。

初等部の入学式が終わり今日から本格的に授業が開始される。……マジで怠い。

なんたってこちとら見た目は六歳児でも中身は十七歳のアルト=ドランなのだ。今更初等部で学ぶ事などない。かといってただの六歳児が学院に通っていないのも不自然過ぎる。それもこれもユッサーが発令した義務教育制度によって十八歳になるまでは学びの場に通わなければならないのだ。……メンド―この上ない。

ましてやカール=ジュワースはヘセド教会の孤児、シャルが直接運営をしている教会の出だ。金銭を理由に「学院に行ってない」は通用しない。ユッサーが「馴染みある後輩の下なら何かと都合がいいだろう」と言うからあえて乗ったが……預けられ先の設定間違えたか?

(ま、今更後悔しても遅いか)

 よって寝よう。

「おいおい。このヴィル=ノーマン先生の神聖なる初日の授業でいきなり寝るとはどゆー了見だぁ、この不良生徒」

「むっ。その神聖なる授業でのっけから座りながら講義ってのもどーなんですかねー? 講義は普通立ってやるモンでしょ。この不良教師」

「ばかやろー。立ちながら講義してもし寝落ちしちまったら頭打ったりして危ねーだろうがぁ。なにより座りながら講義した方が楽だし怠けられるんだぞ? 俺から怠惰を取ったら何も残らねーぞ、このヤロウ」

「それを言ったら僕から居眠りを取ったらサボり魔のレッテルしか残りませんよこのやろう」


「――授業初日にお互いでしょーもないブーメラン投げ合って競わないくださいっ!! この不良教師に不良生徒!」


「「失礼だぞリスっ娘!」」

「…………なんでそこだけシンクロするんですか」

 俺とノーマンがハモり、同時にエムリスはガクッと肩を落として膝から崩れ落ちるも。

「んじゃ真面目に授業やっかぁ~。メンド―だけど」

ノーマンは何事もなかったかのように平常運転に戻る。

「昨日はクラスメイトとの顔合わせって意味でちょいと修練場で玩具の棒を振るったが、今日はもう一つの基礎『魔力』と、将来オマエらが持つであろう『宝具』についての講義だぁ。昨日も言ったが、土台たる基礎がなってねーと何をやっても中途半端に終わる。だからよーく聞いとけよ。特にそこのマセガキ」

「……ちっ」

 どこかの席で、どこぞの鉄工所の御曹司様が舌打ちしていたのはあえてスルーしよう。

「ヒトは生まれながらに『魔力』を持ってる。魔力ってのは俺らの内に宿るエネルギーであり力だぁ。オマエらも知っているように帝国の人間は『魔術』が使えない。いや正確には苦手と言った方が正しい。何故なら俺らは『魔導士』ではなく『騎士』だからだぁ。魔導士には魔力回路の循環と回転が高速に行える為の器官が生まれながらに備わっているが、俺らにはそれがない」

 ボッと。

 ノーマンは座りながら、手の平から小さい火玉を出した。

「無論小さな火の玉程度の軽い魔術なら俺でも使えるが、それ以上の魔術となったら魔術回路の回転力とスピードが追い付かねえ。よって術式の構築が完成せず不発に終わる。なら何故帝国は武力のみでルヴァ大陸の四大国にまで成り上がれたのか。その一つの要因が『宝具』だぁ」

「おー!」

 宝具と言うワードが出た途端、皆の顔が「ワクワク」といった好奇の顔になった。

「宝具は俺らのような魔術が使えない人間の為に古の時代から在るモンだぁ。種類は大きく分けて三つ。『人工型』と『天啓型』、そして『セフィラ型』。人工型ってのは錬金術で生成された特殊金属を元に文字通り人の手によって作られた物。天啓型は生命樹の欠片から直接産み落とされたモンで。セフィラ型は天啓型と違ってなんつーか……生命樹そのものっつーか。樹に十個しかねえ核を己が分身として天から地上に授けられたっつー伝説級の宝具だぁ。世界に十個しかねー代物だからお目に掛かれるのは稀だがなぁ」

「オオオー!」

 子供は伝説って言葉に目がないようだ。

あの六歳児らしからぬエムリスでさえ瞳をキラキラさせている。

「次は宝具の構造についてだが。例えばオーソドックスに火竜召喚の術を使うとしよう。この術を魔導士がやろうとすれば簡単に発動出来る。だが生まれつき魔力回路が退行、あるいは鈍化してしちまってる俺らじゃ式を理解出来たとしても発動は出来ねえ。なら魔導士でない者は永遠に火竜を喚び出せねーのか? 答えは否だぁ。人工・天啓・セフィラ、いずれ型にも言える事だがぁ。宝具には予め専用の術式が組み込まれている。平たく言やぁエネルギーの源となる魔力さえあれば誰でも魔術を使える。故に火竜召喚の術式を組み込んである宝具さえ使えば誰でもが火竜を召喚出来るようになるってこったぁ」

「オオオオオオオッー!!」

 みんなの目の輝きが一層増していく。

けど忘れてはならない。

「だが昨日も言ったように宝具ってーのは魔導兵器。戦う為の武具だぁ。子供でも大人を殺せる危険な代物だぁ。頭も身体も未発達なオマエらには過ぎた力だと言っていい。グハール政権時こそ規制はなかったが今は在る」

「…………」

 急なテンションダウン。解りやす過ぎる。

「――とはいえだ。ちゃんと基礎を学び身体も鍛え、成績をちゃんと上げて進級さえすりゃあ早けりゃ高等部で宝具が持てる。ま、それまで精々頑張るこったぁーな」

「オオオオオオオオオオオッッー!!」

 いい感じの飴と鞭ではある。

 宝具の良さを説明しながら、その危険性もちゃんと伝えているし。生徒のモチベもきっちり上げてる。

(ノーマンって意外と教師に向いてるとか?)

「あとくれぐれもそこの居眠り小僧みたくなってくれんなよ。俺の給料の査定に響くからなぁ。んと成績を上げて是非とも俺の財布を重くしてくれ給え! がハハハっ!」

「…………」

 やっぱ考え過ぎだった。


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