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招待されました

◇ミーヤの感慨◇



「世話になった。改めて御礼をしたい」

 フィーザは眼鏡を外してミーヤに言う。


 その赤い目はザクロを偲ばせ、黒髪は艶やかに風にたなびく。

 綺麗な顔をしている男性だと、ミーヤはしみじみと思う。


 寒がりだけど……。

 雪原で遭難しかけたけど……。

 本来は魔導士団副団長で、強力な氷結魔法の使い手。


 女性に、もてるだろうなあ。

 目の保養になった。


 ミーヤはフィーザと馬が小さくなるまで見送った。



 数日後。

 王都。


 フィーザは魔獣討伐報告の為、王都の魔導士団公舎に出向いた。

 団長のライルはフィーザの報告を、ニヤニヤしながら聞いている。


「で、雪に埋もれたお前を、令嬢が助けてくれた、っと」

「はあ、ええ」

「そして一晩二人で一緒に過ごした、っと」

「ヘンな言い方しないでください!」


 団長は魔術師学校でフィーザの先輩に当たる。

 面倒見は良いが、如何せん下世話なネタ好きだ。


「いやいや。女を寄せ付けない『氷結のイタチ』が、雪山で遭難して女性に看護されたってだけでもニュースだな」


「クロテンです、イタチじゃなく」


「どっちも変わらんな。で、美人だったのか? 確かゴーシェ家の令嬢って、コレモンのコレモンだったよな」


 ライルは自分の胸の前で、何かを掴むように掌を動かす。


「いや、コレモンの令嬢は養女の方でしょ。ご令嬢のミーヤ嬢は……か、可愛い感じで、料理もなんでも出来る、す、ステキな女性でした」


「そかそか。うんうん。じゃあ御礼をしないとな」

「ええ、俺もそう思ってますが、御礼って何をすれば良いんでしょう?」


 ライルは白い歯を見せて親指をビシッと立てる。

 フィーザには意味不明なジェスチャーだ。


「ドレスと宝石を贈り、王宮のパーティに招待しろ!」

「え、王宮のパーティって、王族じゃないと招待状出せないでしょ」


「そこは任せろ。王国魔導士団団長、舐めんな!」


 別に舐めていないものの(面倒くさいとは思っている)、いきなり伯爵家の令嬢を、王宮パーティなどに誘っていいのか分からないフィーザであった。


「ああ、ダイジョブ大丈夫!」


 ライル団長は鼻歌まじりに、なにかの書類を書いていた。



 少しばかり気になって、フィーザはミーヤの兄、ルシアンに会った。

 ルシアンは王都の騎士団所属で、魔導士団と顔合わせをする機会も多い。


 まだ新人ではあるが、剣技は優れていると評判のルシアンだ。彼の顔と名前は既知であったが、話をするのは初めてだ。

 なんとなく雰囲気がミーヤに似ている。


「そうですか。妹は別邸で一人暮らしをしているのですね。最近は父と連絡を取ることもなく、全く知りませんでした」


「知らなかったのか?」

「あまり、父の後妻である義母や、義妹と会いたくないもので、つい……」


 ゴーシェ家当主は後妻を貰ってから、領地からの税収が低下し、商会の仕事も手放したそうだ。堅実な伯爵家だったはずだが、現在の内情は火の車。

 後妻とその娘の浪費が、年々高額になっている。


 ルシアンは騎士として身を立てるつもりで家を出た。

 妹のミーヤが婿を取り、跡を継いでくれればと思っていた。

 ミーヤが婚約破棄されて、義妹のロアナがその相手と婚約し直したと聞き、些か心配しているところだった。


「ミーヤは元気でしたか?」

「ああ、ウサギや山羊や鶏と楽しそうに暮らしているぞ」


 ほっとした表情のルシアンに、フィーザも安心した。


「俺も、遠征する時には様子を見に行くよ。何かあったら、ルシアン、君にも伝えよう」

「あ、ありがとうございます! わたしはまだ新人ゆえ、自由に動くのは難しいので、よろしくお願いいたします」


 さっと敬礼するルシアンに、ミーヤの面影を見たフィーザは慈愛の視線を投げる。


 だって、ひょっとしたら……。

 ぎ、義理の……。

 義兄になる人かもしれないし。


 なんて思って顔が真っ赤になる氷結のクロテンだった。



 年越しが近くなる頃、王都では王家主催のパーティが開かれる。

 高位貴族は基本全員、それ以外は特別に功績があった者が招待されるものである。


 ミーヤの住む別邸にも招待状が届いたので、彼女は驚いた。

 別邸の住所まで、王家には登録されているのかと。

 ここ数年、ゴーシェ伯爵家に届いた招待状は、後妻とロアナが奪い取っていたのだ。


 デビュタントだけは、なんとか出席したものの、以後は公式のパーティに参加していない。


「どうしましょう。招待は嬉しいけれど、パーティ用のドレスがないわ。作るしかないわね」


 それに、王都のパーティに出席したら、前後一週間くらいは留守になる。

 その間、ウサギたちの世話をどうすれば良いのだろう。


「やっぱり、お断りしないと。どうせゴーシェ家からは父も義母も出席するだろうから、失礼には当たらないわ」


 ミーヤが招待状を手にぼんやり考えていると、膝の上に乗ってきたピンク色のウサギが、イヤイヤをするように頭を振る。

 なぜか他のウサギたちも、ミーヤの足元を前足で掘っている。


「あらあら、みんなどうしたのかしら? 何か言いたいことがあるのかなあ……」


「その通りじゃ」


 ポンと軽い音がして、空中にウサギ大神のレミッシュが現れた。


「あ、出た!」

「失敬な! わしを物の怪みたいに言うな」

「すみません」


 レミッシュはコホンと咳払いをする。


「このウサギたちは、お前がパーティに行くことを望んでおるんじゃ」


「ええ? そうなの?」


 七匹のウサギは全員、コクコクと首を縦に振る。


「でも、ドレスないし……」


 などとミーヤが俯いていたら、ドアがノックされた。


「お届けものです」


 送り主はフィーザ・パドロス。

 ミーヤの胸がコトンとなる。


「開けてみるがよい」


 レミッシュの言う通り箱を開けると、見事なドレスと宝飾品が入っている。

 同封されたカードには、「一緒にパーティに行きましょう」と書いてあった。


「ほれほれ。これで行けるじゃろ?」


「でもでも、この子たちのお世話が……」


 デモデモダッテ現象に取りつかれたミーヤである。

 それくらい、ミーヤには縁のないイベントなのだ。


「だから、わしが来たんじゃ」

「はい?」


「わしが面倒みちゃる」

「ふぇ?」


 ミーヤは思わずヘンな声を出した。


「わしゃあ神様じゃけん。不可能はないのじゃ」

「はあ……(この神様、どこの国の御方かしら?)」


 結局後顧の憂いなく、ミーヤはパーティに出席できることになった。

レミッシュの出身地は何処でしょう?

1 島根県  2 奈良県  3 埼玉県


お付き合い下さいまして、ありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ①の島根県ですかね?
[良い点] ほーんわかしつつも堅実でたくましいミーヤさんが好きです。 そして、もふもふさいこう……! レミッシュ様、いいキャラしてますね。 世話焼きもふもふ神様♪ [一言] レミッシュ様のモデルはフ…
[良い点] じゃけん言うとるけ、神様は広島か岡山じゃろう思いよったらたら選択肢になかったという…(広島民) ここは比較的ご近所の1.島根県でお願いします>< 島根でも言うんかどうか知らんですけど…
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