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なんでも拾ってはいけません

◇落ちているものを何でも拾ってはいけません◇


 ミーヤの住んでいる地域に冬将軍が到来した。

 一晩で、辺り一面雪景色となった。


 それに今日は吹雪いている。

 早めに別邸の周囲を片付けて、鶏も山羊も中に入れ、夕食を摂った。

 ウサギたちと山羊は干し草をたっぷり与え、鶏には麦と大豆も与える。


 ミーヤは自分で挽いた小麦粉に水を加えて丸めて、根菜野菜がたっぷり入ったスープに入れた。丸くてモチモチした食感がお気に入りだ。

 日暮れの頃になると、女性の泣き声の様な風の音と共に、雪が一層激しく降る。


「もう、今日は寝ようか」


 いつものようにウサギたちを毛布に呼びこんでいると、戸を叩く音がする。


トントン……。

トントン……。


「まさか、こんな日に、誰も来ないよね」


トントン……。

トントン……。


 ふと、ミーヤはこの地に伝わる伝説を想い出す。

 確か……。


 雪の降る夜にやって来る、真っ白い顔をした綺麗な女性。

 長い黒髪が風に舞う。


 そして家の人が叩かれた戸を開けると、彼女はこう言うのだ。


「あたし、キレイ?」



 ぶるっと身震いしたミーヤが、ドアの前で逡巡していると、今度はガツンガツンと音がした。


 妖怪変化の類ではなかろうと、覚悟を決めてミーヤはドアを開ける。


 すると。


 五、六歳の子どもくらいの大きさの、真っ白な生き物がいた。

 耳が長い。

 お鼻もピクピクしている。


 なんだろう……。

 とても大きな、ウサギさん?


 あ、額に角がある。


()よ開けろや」


 三白眼になった大きなウサギが、低い声で言った。


「あ、ごめんなさい」

「はあ、やでやで。こんな吹雪いた日は、早く風呂に入って寝たいわ」


 大きなウサギはそう言いながら、ゴロッと横になる。

 大きいし、喋っているし、二足歩行だけど、やっぱりウサギ種のように見える。


「あのお、何かご用でしょうか?」


 大きなウサギは、ハッとして起き上がり、ミーヤに言った。


「わしはこの山の守り神、レミッシュじゃ」

「守り……。まあ、神様なんですね、レミッシュ様」

「もうちょい驚け。まあいいや。よく聞け娘。この小屋の近くで雪に埋もれた男がいる」

「あら、寒くないのかしら?」


「寒いとか、そういうレベル越えてだな、死にかけとるわい」

「えっ! それは大変」

「だから、お前が助けるように。いじょ」


 レミッシュはミーヤに告げた途端、シュッと消えた。


 神様の命により、ミーヤは吹雪もしのげる外套を着て、スコップと木のソリを持って敷地を出た。 

 外套の毛糸は、秋の果物を発酵させた液で染め、防水効果も高い。


 だが、一面真っ白で、埋もれた人を探すことが出来るのだろうか?

 辺りを見渡したミーヤの目に、雪原に立つ、一本の人参が映った。


「ひょっとしたら、アレかしら」


 ぽこぽこと雪道を進み、人参を引き抜くと、黒い髪の毛が滑り出た。


 人がいる!


 慌てて雪を払い除けると、うつ伏せに倒れている男性がそこにいた。

 かけていたのであろう眼鏡が、顔からずり落ちていたのでそれも一緒にして、ソリに乗せた。


 日々、自給自足的生活をしているため、ミーヤは見た目よりずっと、力持ちだった。




◇魔導士は小動物使いと出会う◇




――ねえねえお母さん。この石像は何?


『こうやって、拝むものよ』


――拝む?


『お祈りするの。石像を通じて神様に届くから』



――でもこれ、ウサギみたいな形してるよ


『ウサギさんは、神様にお仕えする生き物なの』


――そうなんだ。じゃあ、僕も拝むね



「メエエエエエ!!」

「コケコッコー!!」



 強烈な泣き声でフィーザは目を覚ました。

 がばっと起きて辺りを見回す。


 確か……。

 最後に見た景色は雪一色。


 しかし、今彼の目の前には、山羊と鶏と、モコモコと動く毛玉たち。


 此処は何処?

 俺は一体……。


「あ、目が覚めましたのね。良かったあ!」


 一人の女性がお毛玉様の間から現れた。


 茶色の髪がふわりと揺れ、木の実の色した丸い瞳は小動物の様だ。

 その女性の笑顔につられたのか、毛玉のようなウサギたちと山羊や鶏までもが、彼女にまとわりつく。


「えっと、あの……俺は一体……」

「雪の中で、倒れていらっしゃいましたので、ここ、ゴーシェ家別邸までお連れいたしました」


 別邸?


 物置小屋か、小動物飼育小屋ではないのか、とフィーザは思った。

 ゴーシェといえば、確か由緒正しい伯爵家。

 ではこの女性は、別邸管理をしているゴーシェ家の使用人だろうか。


「かたじけない。俺はフィーザ・パドロス。王国魔導士団に属している」


 雪の中で見つけた時は気付かなかったが、肩よりも長い黒髪と、煌めく赤い目を持つ魔導士と言えば、確か魔導士団の副団長さん?


「恐れ入ります。わたくしは、ゴーシェ家の長女、ミーヤと申します」


 なんとご息女だった。

 だが、なんで伯爵令嬢が、こんな僻地で暮らしているのだろう。

 ああ、それよりも、眼鏡眼鏡……。


 ミーヤが簡易の礼を執りながら、ふと見ると、そのフィーザ、寝ていたブランケットの周囲を手でペタペタ触っている。


「お探しの物は、これでしょうか」


 おずおずとミーヤは眼鏡を差し出す。


「あ、ありがとう。これを掛けないと……」

「ああ、良く見えないのですね」

「いや……」


 フィーザは首を振る。


「俺は黒髪で赤い目なんだが、先輩の団長から『お前の髪と目の色は、生物的におかしい』って言われてしまって。目の色を誤魔化すために、眼鏡に色彩変調の魔力を流して使っているんだ」


「まあ……」


 ご自分の目に直接、魔法をかけないのかしら、とミーヤは疑問を抱いた。

 いやそれよりも、だ。


「そんな綺麗な瞳を、隠してしまうなんて勿体ないですね」


 フィーザはポカンと口を開けた。

 この王国では金髪に碧眼か青眼が美しいとされ、赤や茶色系の瞳は一段か二段、低く見なされている。特に赤い目は気味が悪いと言われることもあるくらいだ。


 それを目の前の女性は、「綺麗」と言ってくれた。

 隠してしまうのは「勿体ない」と言ってくれた。


「そ、そう言われたのは、家族以外では初めてだ」

「あ、ご、ごめんなさい。外見に触れる話題、はしたないですね」


「違う違う! 初めて、だから、嬉しくて……」


 俯いたフィーザの顔は、少し赤くなっていた。


「見てください、この子たち」


 ミーヤは「おいで」と毛玉たちに声をかける。


 フィーザの前にピョコピョコと寄ってくる生き物の耳は長い。

 一、二、三、とフィーザはウサギを数える。


 七匹もいる!


「パドロス卿の左から、毛の色が白色、黒色、濃い緑色、紫色、茶色、橙色、そしてピンク色のウサギたちです。目の色も、ちょっとずつ違います。でも、どの子もカワイイでしょ? ウサギとしては、ちょっと変わった色の子もいますけど」


 邪気なくニコニコ笑うミーヤに、フィーザの頬も緩む。


 ウサギと。

 同じ扱いか。


 でもまあ、いいや。


 本当は目の色を誤魔化すだけでなく、外見だけで寄って来る、面倒な女除けの為にもかけている眼鏡であるが、素顔を見たはずのミーヤは、態度も気配も清浄だ。

 じゃあ、素で綺麗と思ってくれたんだ。


「あ、忘れていました」


 ミーヤは小さくパンと手を叩く。


「お腹、空いてませんか? 朝ご飯、食べましょう」

眼鏡眼鏡というフレーズを知っている人、(* ̄▽ ̄)フフフッ♪


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[一言] 白黒抹茶小豆珈琲柚子桜?
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