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RED ~Legend of justice~   作者: 雪月風花
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第42話 新たなる道

「まぁ何だ。お前が無事で良かったよ、雷門(らいもん)


 雷門は黙ってリンゴを剥くと、フォークを刺して組長の亀山雄三(きやまゆうぞう)に差し出した。

 左腕を包帯で吊っている亀山が美味(おい)しそうにかぶり付く。


「あ、兄ぃ。俺にも! 俺にも!」

「やかましい! 自分で剥きやがれ」

「そんな。兄ぃ、冷たい!」


 雷門は、何をどう怪我したのか、両足を包帯で巻いている舎弟分のヒロシを軽くあしらうと、新たなリンゴを剥きに掛かった。


 実のところ亀山組の構成員たちは、怪我こそしたものの、命を落とした者は一人もいなかった。

 これは、襲撃犯がショットガンを持っていると気付いた亀山が、即時現場放棄、立て籠りを指示したという判断力の高さと、いざという時を考え、自らの寝所を籠城可能な特殊建材で作らせておいたという慧眼(けいがん)の成せる(わざ)であった。

 

 だが、それで命こそ助かったが、警察に踏み込まれて怪我人全員、警察病院にぶち込まれるハメに陥ったし、色々と世間的にマズい案件もついでに発見されているだろうから、展望としてはあまりよろしく無いといった感じではある。

 

 ちなみに雷門は、レディ・ルージュに関しては全く心配していなかった。

 といって、いい気味だと思っていたわけでは無い。

 むしろ、敵とはいえ女性を怪我させるのは出来れば避けたいと思っていた。


 赤マントは彼女を気絶させただけのようで特に深手も負って無さそうだし、バックに王財閥が付いているので仮に捕まってもすぐ釈放されると思ったのだ。


「おいヒロシ、おめぇちょっと外せや」


 亀山がリンゴをシャリシャリ食いながら、ボソリと言った。

 雷門は(いぶか)しげな顔を。ヒロシはビックリした顔をする。


「え? そんな冷たい!」

「ヒロシ?」

「へ、へい……」


 亀山と雷門の冷たい視線を浴びて、ヒロシは二人の内緒話が聞こえない、部屋の隅に移動した。

 軟禁状態の亀山組組員が廊下に出るのは、基本禁じられているからである。


「で? 何です? 組長(おやじ)


 周囲に誰もいないことを確認して、雷門が亀山を促す。


「うむ。雷門、お前を本日この場をもって、亀山組から破門とする」

「組長、冗談言ってる場合じゃ無いでしょう? 何です」

「冗談じゃないぞ、雷門。本気で言っている」

「組長?」


 さすがの雷門も亀山のシャレにならない言葉にムっとする。

 亀山がため息をつく。


「いいから聞け。さっき連絡が来たんだが王紅花(ワンホンファ)が公言した通り、鶴田組も襲撃を受けて、あっちは死者を出しているそうだ。うち以上に壊滅状態らしい。つまり、奴らは本気でこの(シマ)を獲りに来たってことだ。これを放置するわけにはいかん」


 雷門が黙って(うなず)く。


「俺たちヤクザ者が言うセリフじゃねぇかもしれねぇが、奴らはこの街を滅茶苦茶にするだろう。そうなったら一般人(かたぎ)の方々にだって多大な犠牲が出る。それだけは絶対に避けなくちゃならねぇ」


 雷門は考えながらも、再び黙って頷いた。


「奴らの非道を阻止する為に、清濁関係無く、動ける奴は動かんといかん。どっちにしろ、亀山組、鶴田組ともにしばらくは動けんしな。動けるのはお前だけだ。分かるな?」

「ですが組長。怪我こそしていませんが俺が銃を撃ったことは警察だってもう分かっているでしょうよ。ここを出ることだって出来ませんよ」


 雷門が少し苛立って言う。


「いや、お前はここから出られる。そうなっている。試しにここを出て玄関に行ってみるといい。普通にこの建物を出ていけるはずだ」

「……どういうことです?」

和谷(わや)のご頭首(とうしゅ)の意向だ。お前は和谷達郎に目を掛けられている。だからお前が警察を辞めたとき、行先の無かったお前を俺が引き受けた。それもこれも、ご頭首が俺に密かに依頼されたからだ」

「なん……ですって?」


 考えてみたら当たり前だ。

 なぜ今まで疑問に思わなかった。

 警察を辞めた人間を誰が欲しがる?

 ましてや、なぜヤクザがつい先日まで敵対していたような人材を欲しがる?


「ご頭首は白に生き挫折したお前に、黒の道を教えろとおっしゃった。これでお前は白黒両方を知った。雷門、お前はこの経験を元に灰色の道を行け。そうしてこそ、お前は本当の意味で再始動(リスタート)できる」

「親父……」

「さぁ行け、息子よ。和谷達郎がお前を待っている」

「……今までありがとうございました!」


 雷門は亀山組組長・亀山雄三に向かって深々と頭を下げた。


 ◇◆◇◆◇


 亀山の指摘通り、誰に(とが)められることなく警察病院を出た雷門は、その足で倉庫街に向かった。

 亀山から手渡されたメモを頼りに古びた雑居ビルの一階に着いた雷門は、そこに掛かっている看板を見て目を疑った。

 そこには『雷門探偵事務所』と達筆な筆字で書いてあった。


 ――いつから用意していたんだか。準備万端、整い済みってわけですかい。


 電気が点いている。

 中に人がいる気配もする。

 鍵も一緒に預かったが、とりあえず今日のところはそれを使う必要も無さそうだ。


 思い切ってノックすると、内側から扉が開いた。

 扉を開けてくれたのは、紺のスーツを着たショートカットの美女だった。

 美女がニッコリ微笑む。


「お待ちしておりました、雷門さん」

「君は……確か赤石夏希(あかいしなつき)さん、だったよな? 光太郎の姪っ子の」


 夏希が頷く。


「本当にお久しぶりです。お待ちしておりました。今日からここが、あなたの事務所兼、家になります」

「家だと? いや、だって俺の家は……」

「亀山邸は現在、絶賛封鎖中です。他に行く()ても無いんでしょう?」

「だがここは倉庫街だろう? ここに住めっていうのか?」


 雷門は辺りを見回した。

 ここはあくまで倉庫街であって住宅街では無い。

 どう贔屓目(ひいきめ)に見ても、住むのに適しているとは思えない。


「事務所の奥に居住エリアがあるんですよ。とりあえず最低限の生活必需品は買っておきました。他に入り用なものがあれば逐次好きに買い足して頂くということで、さぁどうぞ、お入り下さい」


 夏希に促された雷門は、警戒しつつ探偵事務所のドアを潜った。

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