~邪神様、異世界に降臨~
ここは、邪神を崇める者達が作った薄暗い神殿の中。
老若男女を問わず無数の人間が倒れ、血の匂いと呪いに満ちた空間の中でただ一人、巨大な魔法陣を前に天を仰ぐ、黒いローブを身に纏った男が居た。
「遂に──遂に、降臨めされたぞ!世を破滅に追いやる邪神!全てを破壊する災厄そのもの!『邪神アヴィナ』様が!」
男はそう言うと、突如として両膝を地に着き、魔法陣から立ち上る煙を……そしてその煙の奥に居るであろう存在に対して視線を向ける。
「フフ……ハハハハハッ!今でこそまだ眠っておられるが、このお方が目覚めた時!この世界は終わ──るぶぁっ!?」
未だに煙を上げる魔法陣の前で狂笑をしていた男は、突然に煙の中から現れた腕によって殴り飛ばされ、壁へと叩き付けられて気絶した。
煙から現れたその腕は華奢で白く、傍から見ればこの腕の持ち主が大の人間一人を殴り飛ばしたとは、夢にも思わないだろう。
「ええぃ、るっさいわぁ!なんじゃいお主、さっきから大声でピーチクパーチク!お陰で目が覚めたわ、コンチキショウ!」
と、威勢のいい声と共に煙が晴れ、中から一人の少女が姿を表した。
その髪は白銀、その瞳は紅。
端正ではあるが、何処と無く幼さを残す容貌。
身体付きのせいか、美女では無くどちらかと言えば美少女と表現される様なその人物は、その美貌など知った事かと、非常に不機嫌そうに眉に皺を寄せていた。
「ったく、人が寝とるのに傍迷惑な奴じゃ。……はぁ、もう一回引きこもって寝ようかのぅ……」
謎の美少女はそう言うと、自らを謎のモヤで包む。
すると、モヤは少女を飲み込んだまま徐々に小さくなってゆき……
そのまま、何一つ痕跡を残さず消えたのだった。
後に残ったのは、気絶した男と死体の山。
この後男がどうなったのか、この場所は何だったのか……それは最早、どうでもいい事である。
ただ間違いなく。
今日この日をもって、この異世界の運命は……大きく、大きく変わった。
あの男の言葉の通り、邪神が目覚めた後、きっとあの邪神は全てを破壊するだろう。
理不尽な常識を、不幸を、運命を──『災厄』の『全て』を『破壊』する。
それが良き事か、はたまた悪しき事なのか……それはまだ、誰にも分からない。




