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08

「ところで極悪神官よ、お前本当にエナジースーツを使うの初めてなのか?この得点をみるとにわかには信じられんが」


 「はい。そのはずなんですが・・・」


 自分でも不思議だが本当に簡単に扱うことができた。初めて使ったはずなのにまるで何度も使った事あるかのようにエナジースーツで動くことに違和感がなかったのだ。これがゲームだったら購入した最初のプレイで一度も死なずに楽勝で全面クリアできたようなものだ。


 ・・・クソゲーだな。まさに金返せレベル。いや、面白いのは面白かったんだけど。


 俺にトレーニングシステムがクソゲー認定されてるとも知らずに大総統はわかりやすく興奮している。


 「闇巫女よ!先ほども言ったが本当にお前の人を見る目には驚かされる!エナジー力が10万以上あるだけでなく、ここまでエナジースーツの使用適性を持った者をよく見つけてきたな!」


 「ありがたき幸せ」


 ミコちゃんもお父さんに褒められてまんざらでもないようだ。


 上機嫌になった大総統は気が大きくなったのか、


 「極悪神官がエナジースーツの使用に慣れるまで作戦の開始を待つつもりだったが、その必要はなくなったようだな!よし、今日より我が暗黒闇極悪軍団の世界征服作戦を本格的に始める!」


 堂々と宣言するが、ミコちゃんが口を挟む。


 「大総統様、その前に極悪神官に少し休息を与えてはどうでしょうか?いくらエナジースーツの適性があったとはいえ初めてエナジースーツを使った戦闘トレーニングをした後です。相応の疲労があるはずです。しばしの休みをお願い致します」


 ミコちゃんの提案に大総統は「ふむ」とうなずくと、


 「そうじゃな。確かに闇巫女の言う通りじゃ。よし、闇巫女よ!極悪神官を休ませてやるとよい!」


 「ありがとうございます」


 正直なところ全く疲れてなどいないがミコちゃんの好意を無に出来るわけもない。ここはお言葉に甘えて休ませてもらうことにしよう。

 

 俺はミコちゃんに案内されて再び別の部屋に移動するのだった。


                           

                             *


 

 こ、ここは・・・!

 

 俺は案内された部屋を見て驚かずにはいられない。


 正直、この悪の組織の基地に来てから一番の衝撃だと言っていい。ま、まさかとは思うが、この部屋の感じ、この雰囲気はもしかして・・・。


 「ここ、もしかして闇野さんの部屋?」


 ミコちゃんは俺の言葉にコクリとうなずく。


 やっぱり!メチャクチャ普通に女の子の部屋じゃないか!

 

 俺は陽キャや特殊訓練を受けた中二男子じゃないから女の子の部屋という立ち入り禁止区域に侵入したことがないけど、アニメや漫画とかでは見た事がある。


 全体的に整理整頓されているが、ところどころに可愛らしい小物や、キャラクターのぬいぐるみが置いてある。おっ、ネガティブイルカ君が結構ある。『イルカだからって陽気で愛らしいと思うなよ』が口癖のイルカのキャラクターだ。ミコちゃんはこのキャラクターが好きなのかな。


 こんどネガティブイルカ君のグッズがあったら買っておこう。


 「座って」


 俺が部屋の中をキョロキョロと見ているのが気になったのかミコちゃんがピンクのクッションに座るように促してくる。

 

 大人しく座ったものの、しばらく沈黙が流れる。


 ミコちゃんは元々口数が多い方じゃないし、俺は女子と話すのは得意ではないからこうなるのも仕方ない。なにより俺は緊張している。

 

 だけど、俺は二人きりになるとどうしてもミコちゃんに聞きたいことがあった。


 「でもなんで俺に悪の組織の一員の才能があるってわかったの?」


 これだ。自分で言うのも変な話だが俺は本当に普通の、正直に言うとちょっと目立たないくらいの男子だ。それなのにミコちゃんはクラスメイトの中で俺を選んでここに連れて来た。疑問に思わない方がおかしいだろう。


 「わかってなかった」


 ミコちゃんの返事はそっけないが、俺はさすがに納得できない。


 「でも、才能があるってわかったから俺に声をかけたんじゃないの?暗黒闇極悪軍団に入団させるならエナジー力の才能がある人間を選ぶはずだよね?そうじゃなかったら俺に声をかけた理由ってなんなの?」


 いくらミコちゃんの言うことでも今の発言をはいそうですかと信じるわけにはいかない。何もわかってないで選んだにしては俺はあまりにもエナジースーツに対しての適性がありすぎる。エナジー力が高いだけならまだしもエナジースーツを簡単に使いこなすなんておかしすぎる。これをただの偶然と考えるのは難しい。


 「理由は特にない」


 ミコちゃんは再度そっけなく答える。


 こうまで隠されると余計に気になるなあ。聞かれたくない事なのかもしれないが、俺の好奇心も抑えきれない。


 「別に俺は文句を言ってるんじゃないんだ。純粋に理由が知りたいだけだよ。闇野さんが俺を選んだ理由が知りたいだけなんだよ」


 しつこくきく俺に対してミコちゃんはいつものポーカーフェイスを崩して一気に話し出す。


 「だって、転校して間もないのに自分の席から移動して誰かに話しかけるなんてできるわけないでしょ!そんなのできたらコミュニケーションおばけだよ!?隣の比呂君に話しかけるだけでも私はしんどかったのに!」


 一息で話したためなのか、はあはあ、と荒い息遣いのミコちゃん。


 ・・・あー、なるほどねえ。ミコちゃんの席は窓際だから隣は俺しかいないもんね。


 ていうか、ミコちゃんが自分からクラスメイトに話しかけていなかったのは単なるコミュ障だったからなのか。


 こんな美少女でもコミュ障になるんだな。俺はミコちゃんに親近感を抱く。


 あと、追い詰められると口数が多くなるものかわいい。表情も崩れていつもでは見れない顔も見れるし。


 俺がそんな風に余裕のなくなったミコちゃんを楽しんでいると、いつもの冷静なミコちゃんに戻る。


 「比呂君、今更だけどいい?」


 「なにが?」


 「暗黒闇極悪軍団の一員になる事」


 ああ、そのことね。なんか流されるままにここまでしてきたが、よく考えたら世界征服を企む悪の組織なんだよなあ。しかも、幹部用のエナジースーツの戦闘力を考えるとあながち不可能とも思えない。少なくともまともな現代兵器ではエナジースーツに対抗することはまず無理だと思う。


 どんな近代兵器に攻撃されても相手の攻撃は当たらず、わざと当たりにいっても傷一つ付かない。防御力だけ考えても無双できてしまう。だけど、俺の答えは決まっている。

 

 「一員になってもいいけど、世界征服には協力できない」


 これを言ってしまえばミコちゃんと敵対する事になるかもしれない。下手をすると大総統に始末されるかもしれないが、嘘はつきたくなかった。


 「わかった」


 言葉少ないミコちゃんに俺は緊張するが、


 「これからよろしくね」


 あれ、ミコちゃん笑ってる?


 あっさり言っているようだったが、その時かすかに笑っているように見えたのだった。

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